Research highlights: 

Exploration of physiological functions and their underlying mechanisms of unused food resources

未利用食資源の栄養生理機能探索とその作用機序に関する研究

(Last update: 2023/05/19)

 当研究室では、食品の3次機能「生体調節機能:摂取した食品成分が体内で機能し、健康の維持や向上に関与する機能」にも着目し、未利用食資源が有する、まだ見ぬ機能の探索と作用機序について研究を行っています。

 その一つ、「海産性微細藻類キートセラスの栄養生理機能」について得られている知見を以下に紹介します。

 微細藻類とは、地球の海洋に出現した最初の生物の1つと考えられており、現在地球上には数10万種存在すると推定されています。有用な物質を細胞内に産生する微細藻類の種が数多く見出されており、それらはバイオ燃料、化粧品や健康食品の原料として活用されています。とくに、化粧品や健康食品などの高付加価値市場は近年急激に成長しており、2028年には世界市場が4億2108万米ドル(日本円で約587億円)に達すると予測されています(Global Microalgae Market Insights, Forecast to 2028)

 持続可能な食料供給の視点、すなわち水と土地を消費しない、次世代の代替タンパク質源として微細藻類は注目されています。


(右図の解説:微細藻類Nannoのタンパク質 1 kgを生産するのに必要な水の量は20Lであり、Beef 1kgの生産と比較すると約7400分の1で済む。また土地1haあたりで生産できるタンパク質量を比較すると、Nannoのタンパク質 は6171 kg対し、Beefは80 kgであり、Nannoの生産力は80倍程度高い。)

 現在、世界で生産されている微細藻類はオープンポンドで生産可能なスピルリナやクロレラといったコンタミネーションリスクが少なく、安価で容易に生育可能な種(淡水性微細藻類)が大部分を占めています。海産性微細藻類の大量培養は困難でしたが、長崎県新上五島町にて野外での大量培養に成功しました海産性微細藻類には、EPAやDHAなどの機能性脂肪酸に加え、有用カロテノイド色素を豊富に蓄積できる種が存在しており、新上五島町ではタンパク質、フコキサンチンを高含有する種(キートセラス:Chaetoceros gracilis)を培養しています。

 淡水性微細藻類の栄養生理機能に関する知見は蓄積してきているが、海産性微細藻類についてはまだ十分な知見がないことから、当研究室は、キートセラスの摂取が実験動物の脂質代謝・糖代謝に及ぼす影響を評価し、食資源としての活用の可能性を探りました。その結果、キートセラス摂取により肝臓トリグリセリド量は有意に低下し、その低下には肝臓におけるグリセロール量の減少と脂肪酸合成酵素の活性低下が寄与することを示しました。また、キートセラス摂取による筋肉重量の増加が認められ、その増加には筋肉におけるロイシンなどBCAA量の増加が関与することが示唆されました。本研究により、海産性微細藻類キートセラスの栄養生理機能(肝臓脂質蓄積抑制作用、筋重量増加作用)が見出され、食資源としての活用の可能性が示されました(左図:論文のGraphical Abstract)。 (Shirouchi B, Kawahara Y et al. Metabolites 13:436, 2023)

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