Research highlights: 

Studies on physiological function and safety of dietary phospholipid molecular classes

食事リン脂質クラスの栄養生理機能と安全性に関する研究

(Last update: 2023/05/11)

 リン脂質はその分子内にリン原子を含む複合脂質であり、コレステロールとともに生体膜や血中リポタンパク質を構成しています。

 リン脂質は、疎水性部位(アシル基やアルキル基などが結合)と親水性部位(リン酸エステル基が結合)をもつ両親媒性の化合物であり、その構成成分によりグリセロリン脂質とスフィンゴリン脂質に大きく分類されます(当研究室ではグリセロリン脂質の栄養生理機能に焦点を当て研究をしています)。グリセロリン脂質の構成脂肪酸としては、sn-2位に炭素数が16〜20の不飽和脂肪酸、sn-1位に飽和脂肪酸が結合している場合が多く、その結合様式によりジアシル型、アルケニルアシル型(プラスマローゲン)、アルキルアシル型に分類されます(Figure 1)。

 また、グリセロリン脂質には結合する2本の脂肪酸の種類に加え、リン酸にエステル結合する塩基の種類によりバリエーションがあり[哺乳動物では、グリセロリン脂質の極性基(塩基)と脂肪酸の組み合わせで1000種類以上の分子種が存在]、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジン酸(PA)、カルジオリピン(CL)などがあります(Figure 1)。

 これまでのリン脂質研究の主流は細胞膜リン脂質の生理学的意義を追求する内容(エイコサノイドなどの生理活性物質の産生,イノシトールリン脂質やジアシルグリセロールといった細胞内情報伝達物質としての役割など)でしたが、最近では食事として摂取したリン脂質の栄養生理機能に関する知見も集積されてきており、動物実験に加え、ヒト介入試験も散見されるようになりました。リン脂質の栄養生理機能を享受する上で、それらの摂取状況の把握は重要と考え、私どもは食事中のリン脂質含量の測定も展開し、日本人の総リン脂質摂取量は、食事を直接分析した値から1日当たり3〜6 g程度(総脂質当たりで8%程度)と概算しました(Shirouchi B, et al. J Nutr Sci Vitaminol. 64:215–221, 2018)

 ビタミン様物質であるコリンは抗脂肪肝因子としてこれまで認識されてきましたが、近年、摂取したコリンの一部は腸内細菌によりトリメチルアミン(TMA)へと変換され、門脈を介して肝臓へと輸送された後にフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)の作用によりTMAOへと酸化されること、このTMAOが動脈硬化性疾患のリスクファクターとなることが報告されNature 472:57–63, 2011)、関心を集めています。

 コリン供給の主な形態がPCであるため、PCの摂取自体が有害であるかのような過激な論調が散見される一方、PCの栄養生理機能としては脂質代謝異常の改善があり、動脈硬化症の発症に対してはむしろ抑制的という恩恵的側面もあります。また、PCとして摂取したコリンはTMAへ変換されにくい(PCの大部分が小腸で吸収されるため)という報告、PCに富む卵を摂取した場合に血中コリン濃度は摂取量依存的に上昇するが、血中TMAO濃度には変動が認められないという報告もあり、PC摂取と血中TMAO濃度との関係、ならびにPC摂取と動脈硬化症との関係は両義的な状況にありました。PCを含むコリン含有化合物全てが血中TMAO濃度を上昇させるリスクがあるのかについても十分な知見がなかったことから、我々はラットに3種類のコリン含有化合物[PC, グリセロホスホコリン(GPC), 塩化コリン(CC)]を等モルで摂取させる定量的な比較研究を行いました。

 その結果、血漿TMAO濃度はPC摂取で上昇せず、GPCおよびCC摂取で有意に高値を示し、TMAO濃度に及ぼず生体内応答はコリンの摂取形態で異なることを明らかにしましたFigure 2TMAO産生に関わる腸内細菌の解析から、血漿TMAO濃度の変動はAnaerotruncusおよびCoprobacterの占有率の影響を強く受けることが示唆されましたFigure 2)。

 (Shirouchi B, Fukuda A, et al. Metabolites 12:64, 2022本論文がMetabolites誌"Food Metabolomics"部門のHot Topic Paperに選出されました!)

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