2021年季講座
回フランス文学講座「フランス文学と映画」

井上直子先生からご提供いただいた「作品の要旨」と「パワーポイント資料」を以下に掲載しますのでご参照ください。

第1回講座
『にんじん』(ルナール)

作品の要約
 三人兄弟の末っ子である「にんじん」は、決して本名を呼ばれることなく、母親からいじめられて育つ。小説にはその日常が綴られるが、単に「虐待する母」と、それゆえに「母を嫌う息子」という関係だけがあるわけではなく、母に愛されたい息子、親の顔色を伺う子どもといった側面が描かれる。また、「にんじん」独特の激しい気性もしっかり書かれている。
映画版の要約
 夏休みに入り、「にんじん」は母から叱られてばかりいる。そんな「にんじん」に、祖父は「わしとお前は似ている」と言い、「お前も『みにくいアヒルの子』だ」と告げる。しかし、あまりにいじめられるので、「にんじん」は自分が養子ではないかと疑う。ある日、予防接種で出生記録を見た「にんじん」は自分が実の子だと知って驚く。予防接種に行った病院で、母が医師に媚びるのを見た「にんじん」は、「医師とあなたとの関係はバレている」と友だちに書かせて投函し、母親に見抜かれて叱られる。ハンストに入った「にんじん」に母はごちそうを運んできて優しい言葉をかける。しかし、そのソースには、おねしょをしたにんじんの「エキス」が入っていた。「にんじん」は父に「寄宿学校に入れてほしい」と頼み、程なく出発する。「にんじん」が出て行った後、母は泣く。

第2回
『知られざる傑作』(バルザック)と『美しき諍い女』

作品の要約
 無名の画家、ニコラ・プッサンは、宮廷画家だったポルビュスのアトリエでフレンホーフェルという不思議な老画家に会う。老画家は若者の前で並々ならぬ腕の冴えを見せるが、カトリーヌ・ラスコーという名の理想の女性の絵を仕上げることができずにいた。プッサンは絵を完成させるため、美しい自分の恋人をモデルとして老人にさし出す。ほどなくして絵は完成し、老人はキャンバスを見せてくれるが、そこにポルビュスとプッサンが見たものはただの絵の具の堆積だった。しかしよく見ると、一本の素晴らしい足がその堆積から覗いていた。老人は自分が絵をめちゃくちゃに塗りつぶしたことに気づくと愕然とするが、その直後、再び自分にしか見えないカトリーヌ・レスコーに魅せられ続ける。アトリエを去った二人は、老人が作品を全て焼き捨てて死んでしまったことを知る。
 この作品は映画『美しき諍い女』の原作としてもよく知られている。映画では、原作にはない妻が登場し、若いマリアンヌとフレンホーフェルの間に入ることができずに苦しむ。ある日、妻はこっそり完成した絵を見てなんとも言えない表情を浮かべるが、フレンホーフェルが完成作としてこの絵を披露することはない。画家は絵を壁に塗り込め、手早く仕上げた絵を作品として皆の前に提示する。

第3回
『パルムの僧院』(スタンダール)

 作品の要約
 ナポレオンがイタリアで活躍し、失脚に至る時代に、パルム公国で起こっていたできごとを描く。主人公ファブリスは父に似ず、単純で皆に愛される。ナポレオンと戦うためにいきなり出発し、肝心の皇帝を見ることなく戦いに参加し、女たちに助けられ、ようやく帰ってくる。やがてファブリスは司教となる勉強をするためにナポリに留学するが、劇団の女優と親しくなり、恋敵を殺して塔に幽閉される。塔ではファブリスを殺す陰謀が巡らされるが、叔母のジーナをはじめとする人々が全力で守る。やがてファブリスは塔の司令官の娘、クレリアと恋に落ちる。しかしクレリアは、父が毒を盛られた際に、助けてくれたらファブリスを二度と見ない、と聖母マリアに誓っていた。二人は暗闇で会い続ける。三年後、クレリアには可愛らしい男の子が生まれていた。しかしこの男の子は病死し、クレリアはショックのために亡くなる。ファブリス、ジーナも間もなくその後を追う。

第4回
『テレーズ・ラカン』(ゾラ)と『嘆きのテレーズ』

  作品の要約
 パリ郊外で、息子カミーユ、姪テレーズとともに暮らしていたラカン夫人は、息子と姪を結婚させたのち、パリに出たいという息子の願いを受け入れ、暗くてじめじめした通りに店を構える。ある日、カミーユが幼友だちのローランを連れてくる。テレーズは、生命力あふれるローランに次第に惹かれていく。やがて二人はカミーユを邪魔だと感じ、ボートに誘って川に突き落とす。ラカン夫人はショックのあまり発作を起こし、身体が不自由になる。ローランとテレーズは結婚し、ラカン夫人の家にそのまま住み込んで夫人の面倒を見るが、次第にカミーユの亡霊に苦しめられる。ある日、ローランはカミーユを殺したことをしゃべってしまい、夫人はそれを聞く。テレーズとローランは、互いが相手を密告するのではないかと怯え、相手を殺す用意をする。ラカン夫人は二人の行く末を見届けることだけを考えて生きる。ついに、ローランがテレーズを、テレーズがローランを殺そうとする日が来た。二人は互いの行動に気づき、ローランの用意した毒を煽ってその場で息絶える。ラカン夫人はじっとそれを見つめる。 

第5回
『肉体と悪魔』(ラディゲ)

作品の要約
 第一次世界大戦の始まる直前から、終わって年が変わるまでの物語。主人公「僕」は、戦争が始まる2週間前に市会議員のお手伝いが狂って屋根に登ったことを鮮明に記憶する。3年後、15歳の「僕」は19歳のマルトと恋愛関係になる。この時マルトには、すでにジャックという婚約者がいた。のちにマルトは結婚するが、軍人であるジャックは戦争に行き、その間マルトと「僕」は逢瀬を重ねる。やがてマルトは身ごもり、戦争が終わった翌年の1月に男の子が誕生する。マルトはその子に「僕」の名前をつける。 その後マルトは急死する。ジャックに会った「僕」は、マルトが赤ん坊の名前(すなわち「僕」の名前)を呼びながら亡くなったことを知る。

第6回
『恐るべき子どもた』(コクトー)

作品の要約
 ポールは中学校で愛するダルジュロスから雪球を胸にぶつけられ、病気になる。ポールとエリザベートは自分たちの子ども部屋を好き放題に、さながら狂気じみた楽園のように作り上げ、それぞれの友人ジェラール、アガートをその場に巻き込んでいく。ジェラールの、ポールへの恋はエリザベートへの恋となり、アガートのエリザベートへの恋はポールへの恋となる。そして、ポールのダルジュロスへの恋は、やがてアガートへの恋となる。しかし、ポールを最も愛していたのはエリザベートだった。ある日、ダルジュロスがジェラールの前に現れ、ポールに黒い毒球を託す。白い雪球が黒い毒球となり、物語は破滅的な最後へと向かう。