大阪公立大学教員
松波 めぐみ
私はもともとNGOなどの市民活動や障害者運動などに出会ったりするなかで、「人権のことを学ぶ場や機会を増やすことで、社会を変えたられたらいいな」と思ってきました。
正直、法律のはなしは苦手だし(今でも)、「行政」なんてしょうもない(「お役所仕事」をするだけ、みたいなイメージ)と思ってきました。
それが、いろんなきっかけがあって、2008年ごろから京都府で「障害者差別をなくす条例」をつくる運動に参加することになります。(そのきっかけの中には「障害の社会モデル」という考え方に納得したことや、障害者権利条約がつくられてるところを、ニューヨークの国連に見に行った、ということがあります。)
条例をつくる過程で、いろんな障害のある人、異なる立場の人とたくさんを話をしました。
その中で、行政を「使う」ことを学びました。(行政が、障害者団体の代表を集めて聞こうとする、差別体験の事例を集める、話し合いの場所を提供してくれる、等)
また、条例をつくる運動と同じ時期に、国では、「障害者差別解消法」という法律がつくられていました。
マイノリティが意見を言うこと、経験を伝えることが、「条例」や「法律」というかたちになっていくことがあるのだ、という経験をしました。
もちろん、こうした運動をする中で、「条例ができたって、法律ができたって、何も変わらない」「そんなもので差別が減るわけがない」という声もたくさん聴いてきました。
だけど、それらを活用することで、少しは現実を動かすことができるんじゃないかと思うようになったのです。
以前は「しかたがない」と思われていたことがらが「差別」だと認められる、という体験や、行政の相談窓口の人がいっしょに問題解決に動いてくれる、という経験です。
また、法律ができたことで、人権研修の機会がとても増えました。(私自身、たくさん引き受けました。行政の人は、いったん法律ができたらそれを「ちゃんと知らなければならない」のだなあ、と思いました。たんに業務として研修をやっている人もいれば、真剣に考えようとする人もいるんだ、という当たり前のことを実感しました。)
今回は、そんな私の経験をシェアしながら、LGBTQの人権がもっと守られる社会にしていくために何ができるかを一緒に考えることができたら、と思っています。
2023年に「LGBT理解増進法」という法律が、問題だらけのプロセスを経て成立しました。トランスジェンダーへの偏見を容認するような文言があったり、実効性が弱いなどの弱点もあります。
それでも、いったんできた法律は、少しでも活用したり、いずれより良いほうに変えていくことができるものだと思います。
また、地方条例というかたちで、LGBTQの権利擁護を進めていく動きもあります。
私自身、「詳しくない」「よくわからない」ことだらけなのですが、関心を持ってくださる方と情報交換したり、一緒に考えていくことができたらと思っています。
松波 めぐみ(まつなみ めぐみ)
大阪公立大学教員
1967年 兵庫県うまれ。現在は京都に在住。
1993年ごろ障害者の自立生活運動に出会う。
1999年~2008年 大阪大学大学院に在籍。人権教育・障害学を学ぶ。
2008~2015年ごろまで、「障害者権利条約の批准と完全実施をめざす京都実行委員会」の事務局員として、条例づくり運動に没頭する。
「障害女性への複合差別」の問題を条例に入れることができた。
2015年ごろから、障害者差別解消法や「合理的配慮」について、行政・企業・市民等に向けた研修をあちこちで行う。
2024年夏 『「社会モデルで考える」ためのレッスン~障害者差別解消法・合理的配慮の理解と活用のために』(生活書院)を出版。
2024年10月より、大阪公立大学アクセシビリティセンター特任准教授。
この分科会では、松波めぐみさんに昨年出版された書籍(『「社会モデルで考える」ためのレッスン~障害者差別解消法・合理的配慮の理解と活用のために』)に触れつつ、障害の社会モデルの話から、ご自身の関わられた条例づくりの経験、また、法律ができたあとの活用の仕方などをお話しいただきました。その障害者運動の歴史から、多くの問題を抱えて発進した「LGBT理解増進法」をどう使いこなすか、というアドバイスをいただきました。
質疑応答では多くの質問に丁寧にお答えいただきました。
そして、交流会には松波さんもご参加いただき、多くの交流が行われました。
松波めぐみさん
参加者からの感想を拝見しました。中身の濃く、具体的な質問をまたまとめていただきました。
なんとか変えたいと思っている人が多いことを感じました、これからも一緒に考えていけたらと思いました。
ありがとうございます。
LGBT以外のマイノリティの歴史から学ぶというのは有意義だった。障害者の差別体験を募ることから条例を作っていく、障害種別を越えて配慮をしつつ会議を行っていくなどは、LGBTの取り組みでもマネできる部分かと思う。
法や条例の制定はどうしても自分と離れたところの話(内容や効力ではなく、制定に向けた各種活動について)に感じてしまっていましたが、今回お話を聞くことができて、特に条例に関しては団体をベースとしながらも個人の体験レベルの情報も価値をもって影響する運動であることを学びました。障がい者差別解消法と比べ、セクシュアル・マイノリティを巡る各種法・条例の当事者が提起していく部分が大きいことへの良し悪しを感じつつ、LGBT理解増進法という明らかに改正が必要である法律を受けながら、京都のように条例レベルでより高い基準を求めるものを作っていくなどできることを考えたいと思いました。
障害者の人権擁護や差別禁止と条約/法/条例について、自分なりに理解することができました。質疑応答では、いろいろなレベルでLGBTQ+との比較について意見が出て、勉強になりました。
障害者差別の具体的な事例を聞きながら、LGBTに対する差別と重なると感じながら聞かせていただきました。
障害者団体の代表者が全部男性だったという話、他のジャンルでも「あるある」ですね。
また、役所の担当者によって、何が実現できるかが変わるという話も、本当に「あるある」ですよね。ただ、法律・条例があることで、行政が市民の声を無視できないということはとても心強いお話でした。
時間の関係で紹介いただけませんでしたが、「理解増進法」についての解説の中で、「*何が「安心」じゃゴラア!」と書いていただいていたことを発見して、動画を止めてしっかり確認しました。とてもうれしかったです!
アーカイブがあることで、たくさんの情報が確認できました。
アーカイブを実施していただいた大会の実行委員会にも感謝申し上げます。