言語剥奪症候群
社会文化的要因による神経発達障害の可能性
日本語訳要旨
目的:言語発達と精神症状との間の疫学的な関連をより正しく理解する必要がある。言語発達は特に社会的要因の影響を受けやすい。それはろう・難聴児を育てるにあたって選択した方法が言語剥奪を引き起こす可能性があることからも見て取れる。深刻な言語剥奪を受けたろう・難聴患者には、メンタルヘルスに関わる症候群と呼べる一連の症状が存在する可能性がある。
方法:文献情報データベースにて、ろう・難聴者の言語発達とメンタルヘルスに焦点を当てて文献を検索した。妥当性のある関連の文献に絞った結果、35本が抽出された。
結果:実証的根拠は非常に限られるが、抽出された文献には、ろう・難聴患者を観察した臨床家による、メンタルヘルスに関わる一種の症候群の可能性を示唆するような記述がみられた。〔症状の〕考えうる主な特徴には、言語の非流暢性、知識の資産の欠如、そして思考・気分・行動の混乱が含まれる。
結論:ろう・難聴者のメンタルヘルスに関わる臨床家は、臨床上では観察されていても、まだ実証的な調査が行われておらず、DSM-5(「精神障害の診断・統計マニュアル」第5版)に定義されていない事象に悩まされているようである。臨床現場での患者に関する記述からは、言語剥奪症候群が示唆される。言語発達の経験は、ろう・難聴者の精神の健康状態と疫学的な関連がある。この結論にはさらに多くの実証的な調査が必要であり、〔ろう・難聴者と同様に〕精神保健に関する健康格差のあるほかの集団にも関連性がある。
プロジェクトチーム
監訳
森 亜美 杉山 安代 高山 亨太
英日翻訳
杉山 安代 甲斐 更紗 賀屋 祥子
高山 亨太 中井 悦司 皆川 愛
森 亜美
手話翻訳
鈴木 美沙 皆川 愛 甲斐 更紗
森 亜美 高山 亨太 賀屋 祥子
※本翻訳プロジェクトは、文部科学省研究費補助金「ろう者学の知見を反映したソーシャルワーク教育に関する実証研究(研究代表者:日本社会事業大学付置研究所 高山亨太)」により実施されました。