文字起こし
この研究は言語剥奪症候群が社会からの影響によって精神発達上の病気や問題が生じることとの関連を主題としている。
以下、研究の概要について説明する。
本研究は言語環境が適切に保障されておらず、言語獲得や言語発達に困難がある場合、将来的に精神や行動上の問題(以下、メンタルヘルスの問題)につながるのではないかということを調査する目的で行っている。
言語獲得や言語発達の環境は、保護者の考え方や教育、政策などの動向に左右されやすい。
聴力に関わらず、すべての耳が聞こえないろう難聴児(※以下、手話ではろう児)は、ろう難聴児に合った育て方(言語環境など)が模索され選択される。その選択によっては、言語発達の行き詰まり、言語獲得の困難さが生じることがしばしばみられる。将来的にメンタルヘルスの問題が生じることがあり、その背景に言語剥奪の問題があるのではという仮説を立てて行った研究である。
本研究はホール氏とその他2名の研究者が共同で行なったものである。これまでに発表されている論文や専門家の調査、臨床の報告や記録などを基に文献調査をし、報告をした。
言語剝奪とメンタルヘルスの問題との関連性は、まだはっきりとは裏付けられていない。しかしながら、専門家が実際にろう難聴の患者を診た記録によると、(言語剥奪を経験した)患者たちは類似するメンタルヘルス上の問題を呈していることが分かる。成長の過程で言語環境が整っておらず、言語獲得に行き詰まりがあったろう難聴者は、手話であれ書記言語であれ発話であれ、言語の非流暢性が見られ、知識や情報の蓄積がなかなかうまくいかず、精神的に混乱したり、気分の波があったり、行動上の問題を起こしたりといった症状がみられた。
ろう難聴者のメンタルヘルスに関わる専門家は、これらの症状を呈する患者を実際に診ているものの、正式な診断ができずに苦慮している。しかし、患者に関する臨床記録からは、言語環境の不備による言語獲得の困難さ、すなわち、言語獲得と患者の精神的な症状とは関連がある、ということがうかがえる。これらを裏付ける実証的な研究が、今後さらに進められる必要があると考える。
今回の研究は、例えば家庭内外で言語環境が異なる移民などでも言語獲得に障壁があり、後々メンタルヘルスの問題を呈する人たちがおり、彼らに関する研究と状況は類似していると考えられる。
プロジェクトチーム
手話監訳
皆川 愛
手話表現
鈴木 美沙
文字起こし
賀屋 祥子
手話翻訳
皆川 愛 鈴木 美沙 賀屋 祥子 森 亜美 甲斐 更紗 高山 亨太
※本翻訳プロジェクトは、文部科学省研究費補助金「ろう者学の知見を反映したソーシャルワーク教育に関する実証研究(研究代表者:日本社会事業大学付置研究所 高山亨太)」により実施されました。