奥入瀬渓流の石

奥入瀬渓流の石

さゆりが東北を旅行した際、十和田湖岸の奥入瀬渓流でいろんな石を拾ってくれた。

奥入瀬川は十和田湖から北に流れ出し、途中で右に屈曲して十和田市を東に向かい太平洋に注ぐが、奥入瀬渓流はその十和田湖周辺から屈曲部辺り迄を呼ぶようだ。

奥入瀬渓流周辺の地質は中新世・日本海拡大期の溶岩等火山堆積物も含めた海成堆積層が最下層でその上部に、それ以降様々な場所で発生した火山活動の噴出堆積層が存在し、更に2万年〜6千年前に大規模なカルデラ噴火で十和田湖のカルデラ湖を生んだ十和田火山の噴出堆積物がその上部を厚く覆う。

奥入瀬渓谷は1万6千年前ころ、長径12.7km短径10.8km壁高500mに及ぶ十和田カルデラに蓄えられた雨水がカルデラ壁を崩壊させて生じた大洪水によつて造られたという。渓谷の深さは最大 300 m(第 1. 5 図)渓谷の幅は 1.5km 谷底の幅は 100 m ある。

十和田湖上から望む奥入瀬渓谷の谷地形 5万分の1地質図幅 十和田湖より

奥入瀬渓流流域の地質を記載した5万分の1地質図幅十和田湖及び八甲田山によると奥入瀬川周囲の岩相は多彩だがほとんどすべて様々な年代の火山岩で、深成岩も変成岩もない。非火山性堆積岩は頭部・十和田側平地にはあるが奥入瀬渓流水域では僅かだ。

単斜輝石斜方輝石デイサイト~流紋岩との記載が多く中には角閃石を含む記載も在る。玄武岩質安山岩~流紋岩と火山岩は塩基性岩から酸性岩まで幅広い組成の石が分布し、溶岩から軽石やテフラ、凝灰岩と岩相も多彩。

地質図を見ると開析された河川の両側に、これら堆積年代の異なった降下性の堆積物が川に沿って複雑に屈曲して帯状に分布するのがわかる。

類似の石が至るところに分布するから、拾った石の源岩の場所(噴火した火山とその年代)を特定するのは石の表面観察だけでは難しいが、どこから流れ出たものかを推理するのは楽しいものだ。

奥入瀬渓流周囲の主な岩体区分は地質図幅・十和田湖および八甲田山によるとその給源火山の活動年代により大きく3種類に分かれ

1)日本海拡大以降のほぼ全て海域環境下で堆積した中新統,

2)陸域出現過程で堆積した鮮新統,

3)湖成環境はあるが,ほぼ陸域環境下で堆積した第四系から構成される.

とのことだ。

(中新世23Ma~5.33Ma  鮮新世5.33Ma~2.58Ma  更新世2.58Ma~17.8ka  完新世17.8ka~)

ただし2)の鮮新世の火山堆積物は奥入瀬渓流の水系には見られないことから現在奥入瀬渓流河床に存在する転石の殆どは3)の第四紀更新世以降のものと考えられる。


松倉沢層(Mv Miv Mi Mri Mrl Mrt)

最も古い1)のものは日本海拡大後の奥入瀬渓流取水・子の口南部十和田湖周辺に分布する松倉沢層で後期中新世9~7Ma 地質図幅・十和田湖ではMv Miv Mi Mri Mrl Mrtの記号記載がある。玄武岩質安山岩~流紋岩に至る組成を持ち岩相も貫入岩・溶岩・火山砕屑岩等と多彩だ。ただし主に十和田湖東岸に厚く分布し奥入瀬渓谷の水系では寒沢上流域に小規模な分布があるのみだ。雨水は十和田山から十和田湖へ流れ込むので砕屑された転石も十和田湖に流入する。湖水は水流がないから転石が奥入瀬川に流れ込むのは難しいだろう。寒沢上流に分布するもののみ沢沿いに転石となって奥入瀬川に流れ込むことができる。松倉沢層の主体を成す岩相はMiv記載のもので次のような特徴がある。


玄武岩質安山岩~デイサイト貫入岩,溶岩及び火山砕屑岩(Miv):貫入岩及び溶岩は,斑状及び無斑晶状の玄武岩質安山岩~デイサイトからなるが,斑状の玄武岩質安山岩~安山岩に卓越する.いずれも変質を被っており,弱変質のものは灰色~青緑色~淡青緑色,強変質のものはオレンジ色~白色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈し,黄鉄鉱を伴う.火山砕屑岩としては,凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩及び凝灰岩が認められる.強度の変質作用により,緑灰色~淡緑灰色~白色~オレンジ色を呈する.

5万分の1地質図幅 十和田湖より

第四紀更新世に入ると方々の地域で火山活動が起き奥入瀬渓流の上流水系へ火山岩を堆積させる。まず前期1.7Ma前後にかけて主に子の口南東部・十和田湖の東に聳える十和田山・大駒ケ岳・三ツ岳・戸来岳などの山地が活動し十和田山溶岩・火砕岩を堆積させたもの。


三ツ岳溶岩(Mt ) 単斜輝石斜方輝石安山岩.斑状組織を示し,斑晶として斜長石,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物を含む.


十和田山溶岩・火砕岩1.7Ma前後(Tw 1 Twg  Tw 2)

Tw 1 単斜輝石斜方輝石安山岩火砕岩 ,Twg 安山岩の角~亜角礫,Tw 2 単斜輝石斜方輝石安山岩溶岩  Tw2 の岩質詳細は 単斜輝石斜方輝石安山岩溶岩:青灰色~灰色を呈する塊状の安山岩溶岩からなる.

斑状組織を示し,斑晶として斜長石,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物を共通して含み,一部では例外的にかんらん石や石英が認められるものもある.全 岩 SiO2 量 は 57.3 ~ 61.2 wt. %


また奥入瀬渓流北西部の櫛ヶ峰・駒ヶ峯・乗鞍岳などの山地では1.1Maから南八甲田山群の火山活動が始まる。南八甲田山火山群は1.1Ma~0.8Maに活動した南八甲田山第1ステージ溶岩・火砕岩に続き0.8Ma~0.6Maの南八甲田山第2ステージ溶岩・火砕岩、更に0.5Ma~0.3Maの南八甲田山第3ステージ溶岩・火砕岩と活動を続け奥入瀬渓谷西方の支流黄瀬川・蔦川の流域一帯に火山岩を堆積させた。


南八甲田第 1 ステージ溶岩・火砕岩(Hs1) かんらん石含有普通輝石紫蘇輝石玄武岩,無斑晶質玄武岩,紫蘇輝石普通輝石安山岩


黄瀬川火砕流堆積物(Hto) 溶結凝灰岩で基質はスコリア。数 cm 以下の新鮮な安山岩や玄武岩のほか,新第三系の変質したデイサイト,凝灰岩の岩片を含む


南八甲田第 2 ステージ溶岩・火砕岩(Hs2)かんらん石含有普通輝石紫蘇輝石玄武岩‒玄武岩質安山岩

南八甲田第 3 ステージ溶岩・火砕岩(Hs3)かんらん石含有紫蘇輝石普通輝石玄武岩及び玄武岩質安山岩


ただこれらの南八甲田山火山活動による火山堆積物は、奥入瀬川流域では八甲田山火山群と十和田火山の火山堆積物に厚く覆われており、支流の蔦川と黄瀬川の上流部に分布が見られるものの転石が奥入瀬渓流に流入する割合は 僅かだと思われる。


奥入瀬川火砕岩(Or)

次は0.76Ma前後の奥入瀬渓流・子の口付近に分布する奥入瀬川火砕岩Or(斑状斜長石斜方輝石単斜輝石安山岩)  湖成層の子の口層の下位に堆積し湖底環境堆積物、ただし給源は不明。


子の口層(Nn 1, Nn2) 

また同時期その上位に十和田湖東岸・子の口付近へ小規模に堆積した子の口層(Nn 1 泥及び砂を主体とする岩相 ,Nn 2 礫及び砂を主体とする岩相 )がある。こちらは火山起源ではない堆積岩で分布範囲は狭いが奥入瀬川入水口の下層に分布している。


そして0.76Ma前後のほぼ同時期、奥入瀬川北北西に位置する八甲田山一帯で大規模な火山活動が始まり奥入瀬渓流周辺部に大量の火山堆積物を降らせた。層状に堆積しその多くが奥入瀬川の浸食によって河川の周辺部分に複雑な帯状をなして露出している。


八甲田第 1 期火砕流堆積物(Ht 1 )非溶結~強溶結岩相を示す塊状のデイサイト~流紋岩火砕流堆積物で主に弱~強溶結凝灰岩~火山礫凝灰岩  斑状組織を示し結晶に非常に富む.斜長石,石英,斜方輝石,普通角閃石及び不透明鉱物に加え,ごく微量の単斜輝石を含む


更に下って0.3Ma 八甲田第 2 期火砕流堆積物(Ht2) 弱~中溶結岩相を示す塊状のデイサイト~流紋岩火砕流堆積物 斑状組織を示し結晶に非常に富む.斑晶鉱物として斜長石,石英,斜方輝石,単斜輝石,不透明鉱物と微量(1 枚の薄片中に 1 個以下程度)の普通角閃石を含む)


最後は完新世0.2Ma頃から西暦915年にわたり十和田湖・十和田カルデラを生んだ十和田火山による火山噴出物で、雨水の浸食を受けにくい平坦部では圧倒的な堆積量を誇っている。火山活動は細かく区分されているが、大きく先カルデラ期・カルデラ形成期・後カルデラ期の3つに分かれる。

5万分の1地質図幅 八甲田山より


十和田湖周辺部、開析の影響の少ない平地や山地の多くが毛馬内火災堆0.2Ma~61kaにかけての十和田火山先カルデラ期噴出物(Pl 溶岩,Pi 貫入岩,Pp 火砕物 ) 玄武岩質安山岩~安山岩溶岩と玄武岩質安山岩~流紋岩火砕物を主体とし,一部で安山岩岩脈を伴う 。降下火砕堆積物としては武岩質安山岩~流紋岩で、軽石火山礫からなるもの,スコリア火山礫からなるもの,本質石質火山礫からなるもの,火山灰からなるものなど,様々なタイプが認められる

斑状組織を示すものが主体だが一部で無斑晶状組織を示す.斑晶として含まれる鉱物は,斜長石,斜方輝石,単斜輝石,かんらん石及び不透明鉱物であり,組合せは多彩.普通角閃石斑晶と石英斑晶は認められない。


61~15.5kaのカルデラ期噴出物

奥瀬火砕流堆積物(Ok) 非溶結・塊状の無斑晶状安山岩~デイサイトスコリア及び無斑晶状デイサイト軽石からなる。無斑晶状で発泡度は悪い.ごく稀に 3 mm程度の斜長石斑晶を含むことがある.スコリアは,新鮮なものは黒色を呈するが,風化変質を受けると褐灰色となり,さらに風化変質したものは黄褐色に変化する.

大不動火砕流堆積物及び切田テフラ(Of  非溶結・塊状のデイサイト~流紋岩軽石流堆積物)  軽石の斑晶量は 9 vol.%程度で,斑晶鉱物として斜長石,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物を含む

雲井火砕流堆積物(Ku)  非溶結で塊状の流紋岩軽石流堆積物 無斑晶状の流紋岩軽石からなる.軽石の斑晶量は 2 vol.%程度で,斑晶鉱物としてわずかに斜長石,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物を含む

八戸火砕流堆積物及び八戸降下テフラ(Hc)  非溶結・塊状のデイサイト~流紋岩軽石流堆積物.軽石の斑晶量は 8 ~ 12vol.%で,斑晶鉱物として斜長石,斜方輝石,単斜輝石,普通角閃石及び不透明鉱物を共通に含む

カルデラ噴火の規模を反映し十和田湖周辺のほぼ全域に広く分布し、奥入瀬渓流北方においても八甲田火山堆積物の上位を広く覆う。


15.5ka以降の後カルデラ噴出物 十和田カルデラ内ではカルデラ形成後にも火山活動が続き湖内に溶岩ドームを形成し周囲に降下物を降らせたが奥入瀬渓流水系に関係するものは次の毛馬内火砕堆積物(Km)である。

毛馬内火砕堆積物(Km)非溶結・塊状の単斜輝石斜方輝石デイサイト~流紋岩軽石流堆積物。軽石は大部分が白色軽石からなり,一部で灰色軽石をごく少量含む.軽石の発泡は良く,球形 – 長孔型の気泡が多く見られ部分的には繊維状の発泡組織が見られることもある.軽石の円磨度は亜角~亜円である.基質は淡褐灰色~灰白色を呈する細粒~粗粒火山灰からなる.本堆積物はしばしば炭化木片を含む.斑晶量は 10 ~ 12vol.%程度.斑晶鉱物として斜長石,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物を含む.全岩 SiO 2 量は 69.0 ~ 72.5 wt.%

積物もしくは八戸火災堆積物に覆われており西暦915にも噴火の記録があるという。


石を拾った場所は子の口から2km前後下流の奥入瀬渓谷で地質図幅・十和田湖に記載された範囲に入り、谷の周囲は谷筋の下位層から奥入瀬火砕岩、子の口層、八甲田第1期火砕流堆積物、十和田火山先カルデラ期噴出物、奥瀬火砕流堆積物、大不動火砕流堆積物、八戸火砕流堆積物と順次周囲の山腹へ谷に沿って帯状に広がっている。

さゆりが拾った石もそのような環境を反映して玄武岩質の溶岩や軽石から流紋岩質の溶岩から完晶質の変成鉱物まで多彩だ。

石は色目も岩質も様々で、見た目だけでもはっきり違いの分かる石なので、大きく2つのグループに分けそれらを更に見た目の違いで小分けしてみた。

最初のグループa~dは玄武岩質と見られる石で、目視観察で石の内部に輝石が含まれているものを集めた。過去の経験から輝石と目星をつけて分けたものだが、5万分の1地質図幅十和田湖に拠ればこの辺りの流紋岩やデイサイトはどれも輝石を含んでいて輝石の有無で塩基性岩を区別するのは無理なのだがまずやってみる。分けた後で磁石で帯磁を調べてみたらこの仲間のみきれいに磁石に反応して鉄分が多いことを示していた。

 

第2のグループe〜jは流紋岩質の石で、雲母や石英を含むものを集めた。輝石や雲母、石英の同定はルーペと眼視観察頼りの分類で怪しいところもあるがまずは分けてみた。

5万分の1地質図幅・十和田湖及び八甲田山の一部。ここに記載の岩相はほぼ全て火山岩で唯一十和田湖北端にのみDi記号の斑状細粒閃緑岩貫入岩と深成岩の記載がある

地質図で見る限りこの地域は殆どすべて火山岩ばかりが分布するのだが以降は流紋岩質・酸性岩と言うより変成岩や堆積岩の分類に入る。

g1などは領家帯の泥岩にそっくりだしは同じく領家帯の石英脈の入った緑色岩、Ì ・jは変成作用で再結晶化した砂泥質岩源堆積岩を思わせる。


子の口周辺では、最下位の松倉沢層や更新世・子の口層の非火山性堆積層の上下に中新世から今日に至るまで方々で火山活動が起こり、過去の地層の上に堆積してきた。


溶岩流や火砕流の温度は高く、下位の地層との接触面では高温度の接触変成が生じ小規模にせよ、堆積層の境界部分には非変成層の種類や熱源となった火山岩の種類に応じて様々な変成岩・熱変質を受けた岩石が生まれただろう。


一見火山岩の部類には入りそうもない石は、これらの変成岩を含む火山性堆積層が奥入瀬渓谷によって深く侵食を受け、地層の接触境界に埋もれていた接触変成帯が谷の両岸に露出して転石となったものだと思われる。


aの石: a1及びa2と2つ在るがどちらも同じ岩質で同じ源岩から別れたのものだろう。

全体が黒色で表面に脱気したような穴や隙間が見られ見た目からも溶岩と分かる。石基は灰黒色、写真ではホワイトバランスが崩れて赤褐色が強く出て写っている。 

拡大しても石基には明確な鉱物斑晶はほとんど見られないが僅かに黒色の輝石らしい鉱物や微小な長石片らしい物質も点在するが目視で鉱物種を特定できるものではない。異質岩片と思える輪郭の丸い物質も散在する。 

石の表面観察では岩種まで見極めることはできないが磁石にはよく反応する。磁鉄鉱などの強磁性鉱物によるものか鉄分の多い輝石・角閃石類による帯磁なのか定かではないが、帯磁が強力なものは磁鉄鉱などの金属鉱物の存在によるものだろう。苦鉄質物質の多い塩基性の火山岩とみられ奥入瀬渓流周囲に広く帯状分布する十和田火山先カルデラ期噴出物Pp記載の玄武岩安山岩~流紋岩火山岩塊中の玄武岩質安山岩ではないかと思う。

bの石 bには2種類あってよく見ると両者は全く別物だった。

b1:黒い石基に多数の微細な白色鉱物結晶が分布し長柱状のものも見られる。結晶と石基の面積比率は40〜50% 結晶斑岩と呼ばれる仲間で、結晶は長石と思われる。石の表面には溶岩に認められる脱気したような窪みも多数あり噴出岩だろう。 

有色鉱物も僅かだが見られ、黒色ガラス光沢の鉱物と褐色〜緑色掛かったガラス光沢の鉱物が散在する。確証はないが何方も輝石ではなかろうか。岩種は安山岩かデイサイトだろう。

よく見ると斜長石と思われる白色鉱物中にやや黄色みを帯びた石英が混在しているようにも見えるが今ひとつよくわからない。

奥入瀬渓流周囲の地質図幅・十和田湖を見ると、奥入瀬渓流の谷沿いに八甲田第 1 期火砕流堆積物(Ht 1)~強溶結凝灰岩~火山礫凝灰岩  斑状組織を示し結晶に非常に富む.強溶結岩相の基質は,灰色~暗灰色を呈し,溶結レンズは黒色~暗灰色.弱溶結岩相の基質は淡青灰色~淡灰色。また奥入瀬渓流東南部の1000m級山地の一帯にTw1・Tw2と記載のある十和田山溶岩と呼ばれる単斜輝石斜方輝石安山岩溶岩が広範に分布しているし河の左岸一帯には十和田火山先カルデラ期噴出物Pp記載玄武岩安山岩~流紋岩火山岩塊、火山礫およびPl記載の玄武岩質安山岩~安山岩溶岩がありこれらが原岩かと思われる。

b2:外見は灰黒色の石基に鉱物斑晶がほぼ同じ程度の割合で分布するが全体に変質が大きい。ルーペで観察すると石基も完晶質で斑糲岩に近いのではとも思える。

b2は、斑岩のように見えるが良く見ると石基は完晶質の鉱物の様で判別が難しい

石基は暗緑色の部分と暗赤色を帯びた部分があり変質によってか暗緑色部は完晶質の有色鉱物が多く暗赤色部は白色鉱物が多く分布するように見える。

石基というよりはスカルンのような鉱物集合体を見ている様で眼視観察ではなんともこころもとない判断しか下せない。薄片にして偏光観察すべきだろう。こうしてみると目視でその鉱物種や岩種を特定するのが改めて難しいことだと実感する。 

表面の拡大写真は柘榴石の細粒結晶をともなう石灰岩スカルンを見ているようだ


有色鉱物も多く輝石と見られる黒色ガラス光沢の鉱物と褐色〜緑色掛かったガラス光沢の鉱物が表面の至るところに存在する。石基が赤味を帯びて見える部分も、よく見ると鉱物の細粒結晶の集合の様にも見える。角閃石の存在に確証はないが、暗緑色の部分の石基の感じは布引でよく見かける角閃石岩にもよく似ていて角閃石も在るかもしれない。

地質図に奥入瀬渓流上流水域で塩基性深成岩の記載はないが、細粒だが完晶質の斑糲岩・閃緑岩に近いのではと見えてしまう。火山ガラスの石基が酷く変質しているだけかも。

石基は多孔質で鉱物も判然とせず火山岩らしいが、ルーペで拡大すると多くが完晶質で安山岩よりは閃緑岩に近いと見てしまう。暗赤色部分は熱水反応により硫化鉄の沈着した石基と見えるがガラス質か結晶質かは干渉色を見ないとなんとも言えない。

緑色鉱物は輝石等初成鉱物から変質した蛇紋石・緑泥石・緑簾石等が多いのだろう。帯磁するから鉄鉱石などが不透明鉱物として存在する可能性も高い。

五万分の一地質図幅十和田湖・八甲田山・十和田の3地域で記載のある岩種は玄武岩・玄武岩質安山岩・安山岩・デイサイト・流紋岩であり全て溶岩などの火山岩。深成岩・変成岩の記載はなく唯一十和田湖北岸・奥入瀬川流入口より北西5km程の地域にD1斑状細粒閃緑岩貫入岩の記載があるが水流のない湖水の彼方から流れ着いたとは考えにくい。


ただ後述の酸性岩の分類でもhは石英と角閃石の結晶塊で源岩は深成岩若しくは変成岩の筈で、i・ jについても堆積性の層理を見せる完晶質の変成鉱物、多分石英の細粒結晶だ。地質図のどこにもこれらの岩種記載はないが、奥入瀬川の河岸にはこれらの源岩を生んだ接触変成の場所があるのだろう。


この一帯は年代の異なる火山噴出物がいくつも層状に堆積し、後代の堆積物が溶岩など高温度のものであれば当然下位の層の堆積物に高度な熱変成を加える。

接触面では高温度の熱水反応も起こり短期間に接触面の温度に応じた様々な変成相の変成岩が接触面の周辺に発生する。奥入瀬渓流はこれらの堆積層を切り下げて流れているから小規模にせよ接触面に生じた接触変成岩が転石に交じることは自然だ。


奥入瀬渓流取水・子の口の南部十和田湖周辺に変質した苦鉄質岩の記載がある。松倉沢層(Mv Miv Mi Mri Mrl Mrt) で後期中新世9~7Ma その上位には十和田山溶岩や八甲田先カルデラ期噴出物が堆積し接触変成の熱源となる。地質図幅・十和田湖では 松倉沢層の主体を成す岩相はMivで次のような特徴がある。

松倉沢層(Miv)玄武岩質安山岩~デイサイト貫入岩,溶岩及び火山砕屑岩:貫入岩及び溶岩は,斑状及び無斑晶状の玄武岩質安山岩~デイサイトからなるが,斑状の玄武岩質安山岩~安山岩に卓越する.いずれも変質を被っており,弱変質のものは灰色~青緑色~淡青緑色,強変質のものはオレンジ色~白色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈し,黄鉄鉱を伴う.火山砕屑岩としては,凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩及び凝灰岩が認められる.強度の変質作用により,緑灰色~淡緑灰色~白色~オレンジ色を呈する.

苦鉄質岩がその後の火山堆積物により強い熱水変質を受ければこの程度に変質した顔となることは十分可能だろう。


結晶質にみえるし角閃石の有りそうな点から八甲田第1期或いは2期の溶岩類からの分化でかもしれない。八甲田火砕流堆積物(Ht1.Ht2)の特徴は以下の様だ。

強溶結岩相の基質は,灰色~暗灰色,溶結レンズは黒色~暗灰色を呈する.結晶サイズは長径 2 mm 以下のものが多い.弱溶結岩相は基質は淡青灰色~淡灰色,長径 20 cm 以下の偏平化した淡灰色軽石をまばらに含む。斑状組織を示し,結晶に非常に富む.斑晶鉱物として斜長石,石英,斜方輝石,単斜輝石,不透明鉱物と微量の普通角閃石を含む.石英は両錐形を示すものが多い.全岩SiO 2 量は58.2~73.0 wt.%の範囲

このままでは判断の難しいところだ。


この石は、その後2023年の春に新たな岩石切断・研磨器を制作した際に薄片にしてみた。結果から言うとこの石ははっきりとした火山岩。赤みの強い褐色の石基は微細な針状斜長石に富み、白色鉱物(主に斜長石)有色鉱物(主に輝石)はほぼ同量、輝石は斜方輝石および単斜輝石とも含み後者が多くを占める。

表面反射光にて撮影。赤褐色の石基は研磨過程でかなり脱落した

透過光で撮影。輝石類は僅かに緑味を帯びて写っている

輝石類は黄味の強い斜方輝石よりも干渉色の多彩な単斜輝石の方が多く結晶の粒度も大きい。白色鉱物は自形の斜長石、見た限りでは石英が混じるのか良く分からない。漆黒の不透明鉱物も多く鉄鉱石と見られる

C1~4白色~灰褐色、多孔質で拡大すると繊維状のガラス質鉱物からなる部分も多く大変軽い。水に浮くまでにはならないが軽石の一歩手前の火山噴出物だとわかる。4個ともその色も質感もよく似ており同じ堆積層に由来するものと思う。

下の拡大写真を見ると分かるように所々に黒色の輝石と見られる斑晶が含まれる。磁石にも反応して内部に鉄分が多いことがよく分かる。地質図には奥入瀬渓谷両岸に輝石を含むデイサイト軽石が広範に帯状分布しておりそれらが源岩だと見られる。

軽石の分布が最も多そうなのは十和田火山最後期西暦915年の噴火によって堆積した毛馬内火砕堆積物(Km)で白色火山灰層中に多数の軽石を含む。

15.5kaに堆積した八戸火砕流堆積物及び八戸降下テフラ(Hc)や、25ka前後に堆積した大不動火砕流堆積物及び切田テフラ(Of)なども堆積物中に軽石を多く含む。

軽石の色、質感、発泡状態など、どのイベントの軽石もよく似ていてこれらの石に近く、奥入瀬渓谷周辺に大量に分布する。しかしどれもがデイサイト~流紋岩質で帯磁するかは疑問だが八戸火砕流堆積物及び八戸降下テフラ(Hc)・大不動火砕流堆積物及び切田テフラ(Of)・毛馬内火砕堆積物(Km)中に帯磁するものとそうでないものがあればよりはっきりする。

地質図幅に帯磁するか否か記載はないが、どの軽石もデイサイト~流紋岩質で斑晶に輝石・角閃石を含むので磁性を帯びてもおかしくはない。不透明鉱物も視認でき、磁性を帯びる鉄鉱石かもしれない

上写真2枚はC1の拡大写真 下写真2枚はC2の拡大写真

上写真2枚はC3の拡大写真 下写真2枚はC4の拡大写真

5万分の1地質図幅・十和田湖による毛馬内火砕堆積物の記載は次のようなものだ。

非溶結・塊状のデイサイト~流紋岩軽石流堆積物また,長径 2 cm 以下の黒曜岩岩片を少量含む.大部分が白色軽石からなり,一部で灰色軽石をごく少量含む.軽石の発泡は良く,球形 – 長孔型の気泡が多く見られ,部分的には繊維状の発泡組織が見られることもある.軽石の円磨度は亜角~亜円である.基質は淡褐灰色~灰白色を呈する細粒~粗粒火山灰.

福徳岡ノ場の軽石

軽石と言えば先日大噴火を起こした小笠原南硫黄島の福徳岡ノ場から噴出した軽石を11月20日に奄美大島へ行ったさゆりが拾ってきてくれた。

福徳岡ノ場は小笠原諸島の硫黄島の南方約60kmに位置する海底火山で、2021年8月13~15日 高い噴煙を立ち上げ、多量の軽石を噴出する大規模な噴火が発生した。

この噴火のクライマックスは、8月13日13時20分~19時50分の間に16~19kmほどの高さまで噴煙を上昇させた噴火で、その噴煙は320km離れた小笠原諸島父島からも確認できたという。

福徳岡ノ場周辺の海域火山(火山島と海底火山)は太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込むことによって形成された沈み込み帯の火山で、噴出した軽石全体の組成は、これまでの噴火と同様のトラカイト(アルカリ成分が多くNa2O酸化ナトリウムとK2O酸化カリウムの総量が10 %前後・シリカSiO2重量% 成分が60-70 %)

デイサイトに対応し、西之島の噴火は安山岩であるのに対して、福徳岡ノ場や硫黄島のマグマはアルカリ成分が多い特徴的な組成をしている。沈み込むプレートの不均一性(プレートの上の海山も沈み込んでいる?)によるものかその原因ははっきりしない。

また、今回のマグマには地球深部の玄武岩マグマが含まれていおり、玄武岩マグマが地下のマグマ溜まりへ貫入し、爆発的な噴火を引き起こした可能性があるとのこと。

福徳岡ノ場2021年軽石の特徴は黒色の大きな結晶集合粒を含むことで黒色部分の大きさは径1~5 mm 結晶(斜長石・輝石・不透明鉱物など)と褐色ガラスが集まって形成されている。

噴煙は垂直に成層圏まで一気に吹き上げられており爆発の強さが分かる 

福徳岡ノ場北東方約90km、高度約6,000mから撮影 第三管区海上保安本部

マグマには、地球のさらに深いところから来た玄武岩マグマが含まれていることがわかりました。そのため、玄武岩マグマが地下のマグマ溜まりへ貫入し、爆発的な噴火を引き起こした可能性がありますとのこと。

11月20日に奄美大島でさゆりが拾ってきた軽石は、小笠原から太平洋を1000km以上も漂流して3ヶ月後に奄美笠利湾喜瀬に漂着したものだ 。

奄美笠利湾喜瀬のビーチに漂着した福徳岡ノ場から噴出した軽石

戦後最大級の噴火と言われ噴出物には大量の軽石が含まれた。これらは3ヶ月以上立って沖縄周辺に漂着しだした。

こちらは海底火山の玄武岩質マグマが深部から一挙に噴出したため、軽石内にも大量の輝石・橄欖石の斑晶を含んでいる。またこれら黒色の斑晶部は磁石にも反応する。

福徳岡ノ場の軽石には数ミリ大の鉱物斑晶が多数含まれている

斑晶は結構大きく眼視でも黒色や褐色~オリーブ色の輝石・橄欖石、白色の斜長石の存在を確認できる。粉砕すれば橄欖石や輝石の綺麗な斑晶が得られそうだが、軽石の量が僅かなため鉱物を取り出すのにはためらいがあって残念なところだ。

d1~3灰黒色~灰褐色で見かけの色は似ているが、それぞれ岩種に大きな隔たりがある。しかしどれも鉄分を含み磁石に反応して源岩の組成は苦鉄質岩であろう。

d1は緻密細粒の微結晶からなり粗面玄武岩のように見える。一方d2は多孔質で重さは有るが軽石状の発泡構造が見られ軽石に近くスコリアか。透明鉱物の微結晶が多く見られ酸性岩に近い組成を持っているように見える。 

最後のd3はよく見ると流理構造を持ち斑晶はあまりみられない。結構軽くカサカサした感じで凝灰岩だろうと思えるがルーペでよく見ると軽石状の発泡構造が見られる。


d1 斑晶の殆どない灰褐色〜灰色の石基は緻密でルーペで見ると僅かに緑色を帯びた部分も多くあり石基全体が微結晶の集合体のよう。太陽光に当てると無数の微粒ガラス質物質がキラキラと煌く。白い部分には斜長石結晶が在るように見えるが写真では分かりづらい。

白色鉱物がかなりの程度存在するようで無斑晶の安山岩かデイサイトではないかと思う。薄片化して調べてみたいが今回は其処までやる元気がない。

d1 石基は緻密で硬質、微細結晶だが完晶質か。所々に1mm前後に成長した鉱物がある。 

石基は拡大すると優白色で珪長質鉱物が多いように見える。輝石と見られる黒色ガラス質の結晶が散在し塩基性鉱物の存在もわかる。不透明な金属鉱物も有るようで、これは石が磁石に反応することからも伺える。白雲母のような微細結晶は堆積後に接触変成して結晶化したものだろうか。

安山岩よりは珪長質に富むと見てデイサイトではないかと思う。原岩は渓谷両岸に広範に分布しておりHt1・Hc・Km・Of等に記載のある両輝石デイサイトだろうが、成分分析など出来ないから実際の岩脈にあたって確認しなければ源岩の場所の特定は出来ない。

d2灰色の石基は多孔質で軽石にみられる繊維状構造もある。軽石よりは重く一部結晶質 

密度の在るデイサイトと軽石の中間的な感じで、噴出岩として気中に放出され降下して堆積したものだろう。圧縮された様子はないので地表に堆積したときは冷却して硬化していたものと思う。 

拡大すると微小なガラス質の黒色~褐色鉱物が散在する。これらの有色鉱物はd1~d3においても共通しており、先の軽石状岩C1~C3においても見ることができる。源岩はKm記載のある両輝石デイサイト~流紋岩軽石火山礫あるいはOf記載両輝石デイサイト~流紋岩軽石火山岩塊、などが候補に登るだろう。角閃石の存在が確認できれば源岩の特定はかなり絞れる。Hc 角閃石両輝石デイサイト~流紋岩軽石火山岩塊Ht1.Ht2 角閃石両輝石デイサイト~流紋岩溶結火砕岩などが考えられる。どれも川沿いに帯状分布しているから特定は困難だ。

d3灰黒色~灰褐色の粉っぽい石で多数の気泡をもち重さは軽い。堆積にともなう層理と圧縮によって生じた長径の気穴が確認できる。斑晶は見られない。 

上の写真では斜め方向に層理がみとめられ気泡痕も圧縮されてその方向に引き伸ばされている。石基は肌理が細かいが明瞭な発泡構造をもち、火山灰を主としたは軽石堆積物。スコリアと言ってよいのかもしれない。上右の写真では表面にやや黒色で泥状の異色部分が挟在しているが、この部分も他と同じく軽石状発泡構造を示す。

堆積状態が不均一なところから土石流堆積物か。原岩は堆積年代 約 61 kaの奥瀬火砕流堆積物(Ok) の記載に、非溶結・塊状の無斑晶状安山岩~デイサイトスコリア及び無斑晶状デイサイト軽石からなる。無斑晶状で発泡度は悪い.ごく稀に 3 mm程度の斜長石斑晶を含むことがある.スコリアは,新鮮なものは黒色を呈するが,風化変質を受けると褐灰色となり,さらに風化変質したものは黄褐色に変化する.とありこの石の状態に近く第一候補だろう。

d3黒色ガラス質の輝石結晶の様な鉱物が点在するがその一部は金属鉱物かもしれない

不揃いの多孔質で色むらの有る層理は土石流堆積物か

所々に輝石と思う黒色ガラス光沢の微小鉱物が点在する。白色鉱物の晶出ははっきりとは認められないが方々にガラス光沢の小さい白斑が在るが斜長石だろうか。長石は変質していることも多く実体写真では分かりにくい。

上の拡大写真の白色鉱物は不定形で白濁しており石英ではなさそうだ、沸石かも。 

黒色鉱物は長柱状をしていて輝石だと思われるが、下の写真をみると金属鉱物かもしれない。拡大写真では石基の発泡状態がよく分かる

e1 淡赤紫色の緻密な石基をもちすべすべした質感が有る。微粒の砂が凝集した様な感じで、光に当てると微粒のガラス質物質がキラキラと輝く。肉眼では斑晶は見られないが、ルーペで拡大すると、所々に黒色の細粒物質や細粒白色鉱物が確認できるが量比は1%以下だろう。 

赤は鉄分が酸化したものだろうか、しかし磁石には反応せず、拡大すると石基の表面には白っぽい部分と暗赤色の部分がまだらに入り混じっている。ルーペで拡大するとシルトレベルの砂岩のような感じで白色部分と赤褐色の部分で粒子が異なることが分かる。

砂岩であれば完全に固結しているからかなりの堆積年代を経た岩石のはずで奥入瀬渓谷の水系でシルトの堆積層が有るのは十和田湖畔の子の口層のみ。

子の口層の堆積年代は0.76Ma前後とのこととても固結できる年代ではないが熱変性によって溶結した類かとも。デイサイト~流紋岩なのかもしれないが火山岩、凝灰岩を見慣れていないので私には砂岩と凝灰質砂岩や凝灰岩の違いが分からず苦しいところ。

拡大すると石基がガラス状の透明物質とオレンジ色の物質の微粒子集合なのがよく分かる。石基中には細かな黒色鉱物も点在する。

松倉沢層Mivの記載に貫入岩及び溶岩は強変質のものはオレンジ色~白色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈しとあるが,斑状及び無斑晶状の玄武岩質安山岩~デイサイトからなるが,斑状の玄武岩質安山岩~安山岩に卓越するとあり、色目だけで候補とするには少し弱いだろうか。

普通、岩石の色が赤変するには内部の鉄分の酸化色である場合が多いがこの石の場合はどうなのだろう。 

e2  e1と似た暗赤色の石基を持つ石だが斑晶が多数存在し、石基の質感は粉っぽい。

斑晶の分布は流理に沿うように並んでおり、堆積の過程の圧力で片理状に並んだようだ。石基はレンガ状で溶結しているようだがその程度は弱い様子。 

斑晶鉱物は斜長石と輝石、黒色の火山ガラスも有るか。これらの鉱物がが共生した小さな群集が見られる 

原岩はe1同様にその色目を重視して松倉沢層Miv 玄武岩質安山岩~デイサイト貫入岩,溶岩及び火山砕屑岩ではないかとも思う。記載では貫入岩及び溶岩は,斑状及び無斑晶状の玄武岩質安山岩~デイサイトからなるが,斑状の玄武岩質安山岩~安山岩に卓越する.

いずれも変質を被っており,弱変質のものは灰色~青緑色~淡青緑色,強変質のものはオレンジ色~白色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈し黄鉄鉱を伴う.とのことだ。


岩石記載には斑状組織を示す.斑晶鉱物として斜長石,単斜輝石,斜方輝石,不透明鉱物を含み,これらの斑晶はしばしば集斑晶を構成する.とある。


ただし苦鉄質鉱物の多くは粘土鉱物に置換され,仮像として産する.特に斜方輝石は優先的に置換が進行しているように見える.斜長石の内部には方解石が生成している.石基は,長~短柱状の斜長石,粒状の不透明鉱物,微細なシリカ鉱物と粘土鉱物からなる.石基の粘土鉱物は,その形状から元々は輝石とガラスであったと推定される.との記載もあり鉱物の変質が著しい様子でこれは 鉱物の新鮮そうなe2の現状には合わないので難しいところだ。

f1白色から酸化による淡褐色まだら模様が入る石基に疎らに斑晶が入る石で紀北地域で見かける流紋岩・熊野酸性岩とよく似ている。

透明鉱物と有色鉱物の微細な斑晶の他にわずかだか異質岩片のような破片も見つかる。 

所々にガラス質の黒色鉱物と長方形の斜長石と見られる斑晶がまばらに入る。牙歯状の端面を見せるコロコロした感じの灰色がかった透明鉱物は石英の細粒だろうか。

黒色鉱物は輝石と言うよりは黒曜石・火山ガラスのようだ。この辺りは薄片にして干渉色を見れば一目瞭然に判定できるが、眼視では難しいところ。

表面をよく観察すると微細な緑色の結晶粒があちこちに含まれている。拡大するとガラス質の淡緑色の鉱物で輝石や角閃石の感じよりは緑色チャートを思わせるような色合。黒色鉱物や白色鉱物と共生しているものも見られ晶出した鉱物に違いないが何なのか。


いつも疑問に思うのは、鉱物の変質や変成が生じる環境と時間経過のことだ。鉄錆などは気中にあっても湿気があれば僅かな水分で酸素と結合して酸化鉄となる。しかし複雑な鉱物では構成原子や分子の組み替えが必要だから原子や分子がイオン化して自由に移動できる液中でないと無理だ。組み換えにも時間がかかるからそれなりの環境と時間が必要になる。特に組み替えにどれほどの時間を必要とするものか、変成相の記載にもないし無学な私にとっては思案ものだ。

緑色鉱物は黒色鉱物にも白色鉱物とも共生する。斜長石中にあるものを見ると長石が変質して緑泥石に交代したように見える。写真では優白部の多い石基部分に有色物質と緑色鉱物が共生している様子で緑泥石化と見るべきか。

奥入瀬渓流水系のデイサイト~流紋岩質火山岩の分布は、古いものからあげると

松倉沢層(Miv・Mi・Mir・Mrt):(Miv)玄武岩質安山岩~デイサイト貫入岩,溶岩及び火山砕屑岩  貫入岩及び溶岩は斑状及び無斑晶状の玄武岩質安山岩~デイサイトからなるが,斑状の玄武岩質安山岩~安山岩に卓越する.いずれも変質を被っており,弱変質のものは灰色~青緑色~淡青緑色,強変質のものはオレンジ色~白色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈し黄鉄鉱を伴う.火山砕屑岩としては,凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩及び凝灰岩が認められる.強度の変質作用により,緑灰色~淡緑灰色~白色~オレンジ色を呈する.

流紋岩火山砕屑岩(Mrt)流紋岩の凝灰角礫岩,火山礫凝灰岩,ラピリストーン及び凝灰岩.発泡の悪い無斑晶質の白色~淡灰色軽石で構成.新鮮な部分は白色~淡灰色.弱変質部分は淡緑灰色~淡褐灰色,強変質部分は白色~オレンジ色,あるいは白色地にオレンジ斑点模様を呈ししばしば黄鉄鉱を含む.


八甲田第 1 期火砕流堆積物(Ht 1)  非溶結~強溶結岩相を示す塊状のデイサイト~流紋岩火砕流堆積物で主に弱~強溶結凝灰岩~火山礫凝灰岩  斑状組織を示し結晶に非常に富む.斜長石,石英,斜方輝石,単斜輝石及び不透明鉱物に加え,ごく微量の普通角閃石を含む)


八甲田第 2 期火砕流堆積物(Ht2)  弱~中溶結岩相を示す塊状のデイサイト~流紋岩火砕流堆積物 斑状組織を示し結晶に非常に富む.斑晶鉱物として斜長石,石英,斜方輝石,単斜輝石,不透明鉱物と微量(1 枚の薄片中に 1 個以下程度)の普通角閃石を含む)

完新世以降の堆積物は軽石堆積物で堆積年代が若く凝灰岩も溶結していなければ固結しているとは思われないので除くと、上のどれかだが分布の狭い松倉沢層よりは八甲田火砕流堆積物と考えるほうが可能性は高いだろうが斑晶はわずかだ。

色目の記載がないが、鉄分を含む石であれば雨水で酸化して黄変するから問題ないだろうがあるいはこれも松倉沢層か。

f2  白色緻密な石基にコロコロした石英斑晶が散らばっている。流紋岩質の凝灰岩か流紋岩だろうか。七里御浜の海岸で大量に目にする熊野酸性岩と見間違えそうだ。

下の写真は七里御浜海岸で拾ってきた熊野酸性岩の転石だが、右上の斑晶を含む石などその質感は非常によく似ている。下の写真でも分かるけれど同じ地域の流紋岩と行っても見た目は千差万別で石の多彩さには本当に驚かされる。

熊野 七里御浜の海岸で拾った石。殆どは熊野酸性岩と呼ばれる流紋岩質の石

f2の石に戻り、拡大すると石英斑晶内部には緑色の鉱物が共生しているものが有る。有色鉱物は単独でも存在するがその量はごく僅かのようだ。長石があるのか表面観察でははっきりとわからない。

白色の石基は最後の拡大写真で見ると微細なガラス質鉱物の集合だ。薄片にしていないので結晶質なのか非結晶のガラス微細粒の集まりなのかはこの状態では分からない。


下の写真は綺麗な両錐形を示す石英中に捕獲された緑色鉱物。g1では鉱物の緑泥石化がみられたが石英中に捕獲された鉱物が簡単に緑泥石へと変質するとは思えない。角閃石が結晶中に取り込まれたものだろうか。

石英粒の多くは自形結晶であることが表面に現れている石英片からも見て取れる。

原岩はf1と同じく八甲田火砕流堆積物Htか。第1期、第2期ともにデイサイト~流紋岩質で石英は両錐形を示すものが多いと有る。ただし基質の色は記載では灰色~暗灰色もしくは淡青灰色~淡灰色とはことなりむしろ白色だがやや青みがかって見えなくもない。奥入瀬渓流の谷筋に沿って広く分布しており転石としても自然な存在だ。 

黃褐色のベルトは硫化物か鉄分によるものだろうか。黄変は黒色鉱物の周辺より亀裂に沿って広がっており硫黄を含む熱水が亀裂に入り込み硫化鉄が浮き出したような感じだ。 

あるいは単純に鉄分が錆びて浮き出しただけかも・・全てを自分で適当に解釈して納得するのは愚かなことだけれど、たとえ真実がとうであれ自分で納得できれば結構なことだと思う。学問上の真実などというものも、時代とともに判断が変わり当初信じられていたものと全く違うものに変わってしまうことなど日常茶飯事なのだから。

g1 黒色の石基に淡緑色から淡青色の異質岩片が混入している。石基は無斑晶質で緻密、堆積による圧縮により異質物は層状に引き伸ばされている 

異質岩片はレンズ状変形を被っていて同じマグマ内のガラス質物質のような感じ。土石流として堆積した際、細粒の火山灰や凝灰岩片を巻き込み熱で溶結したものかと思う。

緑色部分はグリーンタフの破片を思わせる。グリーンタフは中新世日本海拡大期に日本海側に大量に堆積しているから、中新世以降の火山活動で黒色マグマが噴出した際火道周辺の先時代堆積層のグリーンタフを巻き上げ混入したものかもしれない。

石基は黒色だが全体の感じは流紋岩かもしれない。見た目は鈴鹿川に転がっている付加体の泥岩メランジュとあまり変わらず、十和田湖で採集されたことが伏せられたら地元の泥岩と見てしまうだろう。 

火山成堆積物に違いないと思うが、明確な斑晶とか見られないので私の知識では水成堆積物との見分けがつかず情けない話だ。岩種がわからないから原岩についても想像できず。

灰色から淡黄緑色の異質部分には独立した鉱物が存在しそうだがどうだろうか、これも薄片化して偏光を確認すべきだ

g2 岩相から見て明らかに塩基性岩(緑色岩)の変成岩。光に当てると表面には再結晶した微細なセリサイトが多数キラキラ輝いて見え、緑色岩の一部に緑簾石が晶出している。

このような変成岩の記載は奥入瀬渓流の水系には存在しない。基質は領家帯の塩基性変成岩に普通に見られるような角閃石属と斜長石、変成鉱物の雲母類の集合体のよう。

このあたりでこの石を見せられたら緑色岩・塩基性岩源変成岩とみてしまうだろう。基質はb2のような塩基性深成岩か玄武岩が強度の熱変成を受けたと見なければならない。高温度の溶岩噴出によるマグマの熱で接触変成を受けたと想像されるが原岩がどこに由来するものか。

変成相としては曹長石緑簾石ホルンフェルス相、角閃石ホルンフェルス相に当たるものだと思う。

緑色部は角閃石・緑泥石・緑簾石、白色部は斜長石・白雲母等ともに再結晶鉱物の集合体だろう。

明るい緑色は緑簾石の結晶か。 黒色の集合部分も見られ薄片化して詳しく調べるべきだろう。

石英脈を持った緑色岩、こちらも塩基性岩源の変成岩だ。塩基性岩の堆積層理にそって珪酸分を含む熱水が浸透し石英脈を晶出したものと思う。

緑色部は角閃石・緑泥石・緑簾石、主に角閃石だと思う。

白色鉱物は、方解石か変成作用で再結晶した斜長石とも取れるが結晶粒のコロコロした感じは硬度を確認するまでもなく石英のものだと思う。

源岩は松倉沢層でその上位に堆積した十和田山溶岩の強力な接触変成を受けたものではないかと想像する。 

 Ì  綺麗な層理を見せる砂岩で再結晶した石英細粒の集合体。層理は緻密で再結晶化に伴い層理方向に少し引き伸ばされているように見える。 

再結晶化は領家帯の黒雲母片麻岩と変わらない程で砂泥質岩がかなりの熱変成を受けたと見られるが源岩とその熱源は何処にあったのだろう。子の口湖成層がその上に堆積した八甲田火砕流堆積物によって熱変成を受けたものか、松倉沢層の十和田山火山による熱変成か。 

私は近くの萩原採石場跡で中新世に堆積した凝灰質の火山岩礫層に接する機会があるのだが、火山岩礫が二次的に堆積したもので当初に堆積した産状ではない。ことに凝灰岩に関しては産状を見る機会がなくて殆ど知識がない。

ガラス質の火山灰層が高度の熱変成を被れば砂岩と変わらない再結晶石英粒の石に変わるのだろうが現地でそのような産状に接する経験がないので明快な判断ができないのだ。

j  i 同様砂泥質岩源の接触変成岩だと見られる。綺麗な層理を見せ石英の再結晶した細粒からなる。 

jよりも更に細かく堆積の層理が色分けされており、堆積層に混入した異質物の変化が大きかったと想像できる。火山灰を主とした火山性降下物からなる堆積層が熱変成を受け再結晶化したものだろうか。 

着色は不純物の混入によるものだが暗緑色部分は角閃石・緑泥石・緑簾石等の有色鉱物が共生しているのかもしれない。 赤斑は柘榴石によるものか、とすればどのような原岩でどんな変成条件に依ったものなのか・・・

i・ j は同種の変成岩と見られるが、どのような変成相に属するのだろう。砂岩の石英粒子が再結晶化したほとんど石英ばかりの石のように見えるのだが、珪長質を源岩とするなら同時に雲母類の生成がありそうなのだが。知識がないとわからないことばかりだが、そのことが逆に好奇心を刺激して楽しめたりするから面白い。


奥入瀬渓谷の石もこれでお終い。こうして見てくると相変わらず無学無知を思い知らされる。楽しみでやっているはずなのだが、いつも転石からその石を見分けるのは難しいものだと改めて思う。

石に対する知識も少しずつは増えている筈だが忘れることのほうも多いようで、毎回悩んでいるばかりなのはすこし寂しいことだ。