プログラム編成方針
はじめに
MIRUはこれまで、このコミュニティを支える人々によって1992年から運営されてきました。MIRUの参加者には、以前から継続的に参加されている方々がおられる一方で、近年の人工知能と深層学習の広範な普及に伴い、初めて参加される方々も増加しています。そのような方々にもMIRUの位置付けを理解していただくために、また以前から参加されている方々には近年のMIRUの移り変わりを把握していただくために、これまでのMIRUの変遷を踏まえた上でMIRU2022のプログラム編成方針を説明します。
MIRU小史
画像の認識・理解シンポジウム(MIRU)は、電子情報通信学会パターン認識・メディア理解(PRMU)委員会と情報処理学会 コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) 研究会が毎年共同で開催しており、交互に主催を担当しています(2005年までは隔年開催、2006年からは毎年開催)。交互担当には様々な問題が生じるため、2007年から2010年までは任意団体「画像情報学フォーラム」が主催するという運営上の工夫も行われましたが、現在はMIRU推進委員会が円滑な運営交代の役割を担っています。
MIRU2013では、開始20年が経過し制度疲労を起こしていたMIRUが抱える問題点を解消するために、MIRU2016まで4年間維持するという条件の下で、いくつもの改革が行われました。
聴衆の増加に伴い、口頭発表時に議論の時間を十分確保できないことに対して、口頭発表の内容をインタラクティブセッションで議論できる機会の提供
MIRUの華やかな口頭発表を最終目標としてしまい、優秀な研究成果が日本国外に認知されない「ガラパゴス化」に対しては、MIRUでの発表を経由して難関国際会議を目指すインセンティブとして、難関国際会議の招待論文セッションの導入
同一の査読基準を一定期間維持するためのMIRU Conference Editorial Board(CEB)の設置(2018からエリアチェア制に移行)、査読付き論文投稿の英語化(2016で終了)、情報処理学会論文誌CVA Express paperとしての掲載(CVAのSpringer移行に伴い2017から同時投稿に変更、2019まで)
MIRU論文が海外から既発表と見なされないための対策として、Extended Abstract集の非公開化
また、電子情報通信学会和文論文誌D「画像の認識・理解シンポジウム特集号」は、日本語で論文を提供するというその役割を十分に果たしたとしてMIRU2018特集号(2019年8月号)で休止されました。一方でSpringerに移行したIPSJ Transactions on Computer Vision and Applications (CVA)には、MIRU口頭発表候補論文と同時投稿が選択できるようになっていました。CVAの掲載料はCVIM研究会が負担するため、英語論文執筆の動機づけとなることを期待していましたが、MIRU2019までで終了しました。
MIRU2016まで行われた上記の改革の結果に基づいて、MIRU2017のプログラム編成は以下の5つの場を提供することを目的と定め、その後のMIRUはこれを引き継いでいます。
国内において芽生えた、挑戦的・萌芽的な研究をプロモートし大きく育てる場
トップカンファレンス等への挑戦をモチベートする場
国内の研究を一度に、かつ横断的に情報収集、総覧できる場
研究者同士が知り合い、意見交換し、共同研究等につなげる人的交流の場
研究のトレンドを知り、最新技術を使いこなすための勉強ができる場
会議の開催形態については、MIRU2019までは現地開催(オンサイト)で実施されてきましたが、MIRU2020は新型コロナウイルス感染症の対策のため、オンライン開催を余儀なくされました。MIRU2021はオンサイト・オンラインのハイブリッド開催を目指して準備を進めていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、オンライン開催に移行せざるを得ない結果となりました。
MIRU2022の運営方針
MIRU2022では、MIRU2021の志を受け継ぎ、オンサイト・オンラインのハイブリッド開催を目指して準備を進めています。具体的内容は開催形態のページをご覧下さい。
前述の通り、MIRU2017以降のMIRUは以下の5つを目的としており、MIRU2022も大枠を引き継ぎます。ただし、その詳細は毎年の実行委員会が少しずつ改善を試みており、今年もいくつか新しい取り組みを行います。
国内において芽生えた、挑戦的・萌芽的な研究をプロモートし大きく育てる場
MIRUはジャーナル論文や国際会議に採択されうる研究にはまだ達していない研究を主な対象とし、それを大きく育てて巣立たせるためのイベントです。MIRUにおける口頭発表が最終的なゴールではありません。
口頭発表を選定するにあたっては、論文の完成度や定量的性能には必ずしもこだわらず、挑戦的・萌芽的な研究、他の研究者への刺激や参考になる研究を高く評価します。また、投稿された論文は(MIRUでの発表に適さない場合を除き)不採録となることはありません。そのため、MIRU2017から「査読」という呼称を廃止し、『「口頭発表候補論文」を「評価」した結果「口頭発表に選定」する』という文言に変更しています。
MIRU2022では、MIRUを経由して難関国際会議への採録を目指すため、コンピュータビジョン分野の難関国際会議への採録を支援します。具体的には、MIRUの運営母体であるPRMU/CVIM両研究会が実施しているPRMU/CVIM研究メンターシッププログラムとの連携を強化して、口頭発表候補論文の投稿時にメンターシッププログラムへの応募がワンストップでできるようにします。
トップカンファレンス等への挑戦をモチベートする場
MIRUの「招待講演」は、難関国際会議(トップカンファレンス)に採択された論文の著者を招待して、その内容(と、厳しい競争と査読に耐えうる研究・論文に仕上げる過程)を多くの聴衆と共有することを目的としています。これにより、トップカンファレンス等へ挑戦する学生や研究者が数多く生まれることを期待します。
MIRUでは多数の賞を設定しています。最優秀賞に相当する長尾賞、それに続く優秀賞と学生優秀賞、将来性を評価するフロンティア賞は、口頭発表論文から賞選定委員会が密な議論に基づき選定します。インタラクティブセッション賞、デモ賞はそれぞれポスター発表とデモ発表から、参加者の投票に基づき決定されます。これらの賞に加えて学生を鼓舞するための学生奨励賞を設定し、これらを受賞した学生や研究者が研究をさらに飛躍させてトップカンファレンス等へ挑戦することを期待します。
MIRU2022では、若手研究者が「査読者の気持ちを理解」した上で論文が書けるように、若手研究者が論文評価に加わる仕組みを導入します。論文評価の後には、同じ論文に対する他の研究者の評価レポートを匿名のまま共有します。若手研究者にとって、同じ論文に対する他の研究者の評価を知ることは、多様な価値観や様々な評価軸に触れる貴重な学びの機会です。この経験は、自らが著者として論文を書く際に、読者(査読者)の気持ちを想像できるようになるという点で役立つと考えています。
国内の研究を一度に、かつ横断的に情報収集、総覧できる場
MIRUの大きな魅力の1つは、国内の様々な研究やトレンドを一度のイベントで把握できることです。MIRUでは例年200件を超える研究発表が行われており、当該分野の国内会議として最大級です。さらに難関国際会議に採録された研究の紹介や最新技術を学べるチュートリアルなど盛りだくさんの内容になっています。
MIRUの口頭発表の目的は、未発表のアイディアを多くの聴衆と共有することです。そのため、査読付きの論文誌や国際会議で発表済み(または掲載決定済み)の論文は、口頭発表候補論文として投稿出来ません。しかし一般論文にはその制限を設けず、海外で発表した研究を一般論文として投稿して国内でのアピールや意見交換にも活用することができるようにしています。
インタラクティブセッションは、参加者同士のディスカッションが対話的に(インタラクティブに)行われることを期待したMIRUのポスター発表セッションの名称です。インタラクティブセッションは、口頭発表とならなかった候補論文と一般論文をポスター発表し、聴衆とディスカッションなどの交流を図ることを目的としています。また実物を用いてインパクトのあるデモンストレーションを行う、デモセッション専用の投稿区分としてデモ論文を用意しています。
MIRU2019からは(MIRU2021を除いて)、充実した発表機会の提供や深い議論を可能とするために、パラレルトラックを導入しています。聴衆からすれば、パラレルセッションで行われる2つのセッションを同時に聞くことは出来ないという難点もありますが、ハイブリッドで開催するMIRU2022では、後日全ての口頭発表の動画が公開されますので、聞き逃した講演も後日聴講することが出来ます(期間限定の予定です)。
研究者同士が知り合い、意見交換し、共同研究等につなげる人的交流の場
口頭発表会場での質疑応答は時間が短く、十分な意見交換やディスカッションを行うことや、発表者と聴衆の十分な交流を図ることは困難です。そのためMIRUでは、口頭発表に選定された論文や招待論文にも、インタラクティブセッションでの発表の機会を提供しています。
学生や若手(自称若手を含む)が参加する「若手プログラム」を全面的にサポートしています。これはMIRUの会期の前後や夕刻に、より密な交流や共同作業を伴うプログラムで、毎年開催されている恒例行事です。MIRU2022では、若手プログラムに先駆けて、「MIRU若手Slack」を運営して交流を図っています。
近年ではAI技術が発展し、多くの企業で製品開発・事業展開が行われています。MIRUではこうした企業と大学や学生との交流を通してお互いの理解を深めたり、企業と大学とのシナジーによって新たなアイデアを生み出したりする場を提供したいと考えています。そのために、企業スポンサーによる企業展示をインタラクティブセッションに併設し、また企業企画イベントも開催します。
研究のトレンドを知り、最新技術を使いこなすための勉強ができる場
MIRU本会議開催の前(多くは前日)に、最新の理論や研究トレンド、各種ツールなど、画像の認識・理解に関する最新技術を学ぶ場を提供するために、チュートリアルを開催しています。