特別講演

MIRU2022では、著名研究者による特別講演2件を企画しました。ぜひご参加下さい!

7月26日(火) 10:00-11:00 大ホール、中ホール(中継)

人間の認知情報処理の科学的理解と映像技術の開発

西田眞也

京都大学大学院情報学研究科/NTTコミュニケーション科学基礎研究所

 人間の認知情報処理を理解することは、サイエンスとしてエキサイティングな研究課題であることはいうまでもない。さらに、エンジニアリングにとっても、人間の情報処理の理解は新しい情報技術の開発につながる。たとえば、人間の視覚情報処理をハッキングすることで、通常では不可能と思える映像提示が可能となる。人間の質感知覚の理解を進めることで、現実感を損なわずにもの見かけを編集することもできる。

 今後、人間の認知特性を利用した技術開発をさらに発展させるためには、これまでに蓄積された膨大な科学的な知見を、誰もが簡単に利用できるかたちにすることが必要である。その具体的戦略として、人間の感覚情報処理過程を内部表現も含めてコンピュータ内でシミュレーションすることのできるモデル(ヒューマンデジタルツイン)を作ることが考えられる。視覚科学の知見を計算モデルに結晶化することにより、任意の映像入力に対して、眼光学系、光センサー、そしてそれに続く多層の神経回路からなる脳情報処理系の反応を予測することができれば、人間の感覚系を意図通りに作動させる映像生成技術を設計することが格段に容易になるだろう。また、間違い方を含めて人間と同じように世界を認識する機械の実現は、AIの解釈可能性という文脈でも意味ある試みに違いない。


7月27日(水) 9:00-10:00 大ホール、中ホール(中継)

深層予測学習に基づくロボット知能化
身体による世界の能動的知覚

尾形哲也

早稲田大学理工学術院/産業技術総合研究所人工知能研究センター

 深層学習は非常に強力なツールであるが、未だロボットなどの実世界システムへの応用には壁がある。たとえば「画像認識」技術で、物体の把持可能領域を高精度で抽出できるが、これはロボットの物体把持の成功を保証しない。なぜなら把持は、物体の形状だけなく摩擦特性や物体変形などの多様な特性にも依存するからである。我々が提案している深層予測学習では、「実世界の学習は不完全である」ということを前提として、身体を持ったシステムの感覚運動情報を学習する。そして予測誤差を最小化するために、実時間でモデルの内部状態の修正と身体を用いた能動的な実環境への働きかけを行い、世界を「認識」する。本講演では、この深層予測学習を用いたロボット研究の成果と、複数企業との共同研究事例を紹介する。また本手法のアプローチに基づく、我々の内閣府のムーンショットプロジェクト、スマートロボット "AIREC" (AI-driven Robot for Embrace and Care)」の概要を紹介する。