母語・継承語・バイリンガル教育学会各種言語教育部会
日時:2025年8月18日, 18:30〜20:30 (UTC+9)
実施方法:Zoomによるオンライン開催、参加費:無料
どなたでも参加可能ですが、事前の参加申し込みをお願いします。
(終了しました)
イマージョン教育とは何か、「パーシャル」イマージョン教育とは何か、実際にこれを英語と日本語を使用して実践している小学校ではどのような教育がおこなわれているのかについて理解を深めます。小学校の教育に直接携わっておられないかた、英語以外の言語を教えておられるかたにも興味をもっていただけるよう、多彩な角度からこれらについて理解を深める企画を準備いたしました。お気軽にご参加ください。
まず、湯川笑子先生(立命館大学名誉教授)より、日本における小学校英語教育の概要、(パーシャル)イマージョン教育についての基礎知識についての解説がありました。
2020年度より3, 4年では外国語活動として週1時間、5, 6年では外国語科という教科として週2時間の英語学習が全国で行われており、その内容はおおよそ以前の中学1年生がカバーしていた内容に匹敵すること、ただし、読み書きについては「控えめ」な指導となっていることが紹介されました。5, 6年生の外国語科は教科担当制の方向に進んでいるが、そのような専科教員が確保できる場合とそうでない場合があり、自治体や学校によってバリエーションがあるとのことです。
イマージョンは児童の母語ではない言語を教科学習の媒体言語として使用することで母語と目標とする言語の両言語・文化を習得させようとするバイリンガル教育方法ですが、いつ始めるか、カリキュラム内でどの程度の割合で目標とする外国語を使用するかによって多様な形式があり、日本語話者に対して英語イマージョンを実施する場合には、小学校1年生より、日英語を約半分ずつ使用してカリキュラムを構成するパーシャルイマージョンの形式をとることが多く、成果としては、週2–3時間といった時間数で教える外国語指導の成果としての英語力よりはるかに高い力がつくこと、しかも母語の伸長を犠牲にしないことが挙げられるが、困難点としては、学校運営のために教科指導と外国語指導の両面で優れた先生の確保が難しいなど困難な面もあるというとのことでした。
次に、田中学園立命館慶祥小学校校長の吉田恒先生より、英語パーシャルイマージョン教育実践4年目となる慶祥小学校のカリキュラムの特徴、成果、課題について発表がありました。この学校では、児童が卒業後提携校である立命館慶祥中学校高等学校へ進学をする仕組みになっており、そのためにイマージョン教育を初等中等教育を通して継続的に実施する学校とは異なる特色・制限があるとのことでした。こうした理由から、週3–4時間の英語授業の他に、体育、音楽、図工、プログラミング、家庭科の一部を英語で教え、全カリキュラムの30–40%を英語で行っているとのことでした。また、学校内で英語を使う必然性を生むために、日本語で教える担任の他にイマージョン科目担当教員も学年担当として各学年に配置し、日常の指導や行事などにも英語話者が関われるような体制を組んでおり、小学校の英語の授業は中高の免許で指導が可能なものの、他教科は小学校免許が必要なため、初等教育でのバイリンガル教育は、導入するにも難しさがあるとのことですが、同小学校では、まず、小学校免許を持つ日本人バイリンガル教員がティームティーチングを通して、教授法の知識や経験の少ない英語ネイティブ教員に指導方法を教えたり、次第に力量をつけた教員にはソロで教えるクラスも設けたりなど、教員の成長を促す工夫を行っているとのことでした。
開校3年を終了した時点で、たとえば、当時の5年生(現6年・小3で転入学試験で入学した学年)は1名を除いて全員が英検の3級以上を取得し、他教科についても国語力についても問題なく力をつけており、また、全学年がパーシャルイマージョンという学習環境へのアレルギーも感じていないことが(調査結果より)分かっているとのことでした。ただ、現時点で児童同士で自発的に英語を話すことがないので、その理由について仮説をたてアウトプットが増やせるよう指導中だとのことでした。
次に、2024年11月に田中学園立命館慶祥小学校の公開授業を見学したサヴィヌィフ・アンナ先生(北海道大学、札幌ロシア語学校)より見学報告がありました。当日は2年生(交通手段について)と6年生(砂糖の過剰摂取について)の両方とも「英語」という教科の授業を見学することができたとのことで、その時の観察および配付された資料をもとにそれぞれの授業の内容、展開、児童の様子について詳細な報告がありました。なかでも、①言語と内容、②足場かけについて注目したコメントがありました。その主なものは次の通りです。まず、①言語と内容について、6年生の単元は砂糖、それも砂糖を摂取しすぎることの害と摂取を控えるための方法というテーマについての授業だったが、新しい「内容」を外国語で学習するのは児童にとってはさぞ楽しい事だろうと再認識できたとのことでした。また、2年生の交通手段の授業についても、海外の国も文化や地理の学習にもつながると感じたとのことでした。②足場かけについては、授業の中の様々な局面で、言語、画像、動画、児童とのやり取りなど多岐にわたるタイプのものが観察でき、授業内でのトランスランゲージングを上手に使い、児童の日本語でのリアクションを先生が英語で対応する足場かけも見られたとのことです。ただ、本質的に、年齢相応の知的レベルに応じた題材選びは難しいので担当者の先生がたは苦労しているだろうと推察できたし、今回の授業内容の中には、パーシャルイマージョン校のように授業時間が多くないとできない活動もあると感じたとサヴィヌィフ先生は結んでいます。
今回の企画全体について次のようにまとめることができます。
バイリンガル教育法のひとつであるイマージョン教育というは名前は知られていますし、学校見学制度がある学校については学校へ訪問して1日(あるいは半日)様子を見ることはできますが、学校の代表者からカリキュラム、成果、課題の全てにわたって聞くチャンスは稀なので今回は貴重な機会でした。慶祥小学校はそこで6年間学んだ子どもが卒業するまであと2年半必要なのであくまで途中経過ではありますが、教員確保や教師教育の課題を克服しながらすでに素晴らしい成果をあげている様子が分かりました。
18:30-18:40 あいさつ・趣旨説明……山崎直樹(関西大学)
18:40-18:50 背景説明……湯川笑子(立命館大学名誉教授)
日本における小学校英語教育の概要、(パーシャル)イマージョン教育についての解説
18:50-19:20 英語パーシャルイマージョン教育実践4年目の成果と課題……吉田恒(田中学園立命館慶祥小学校校長)
パーシャルイマージョン教育を実践している田中学園立命館慶祥小学校の教育の紹介(同小学校の公式サイト)
19:20-19:30 質問の時間
19:30-19:40 休憩
19:40-20:00 報告:田中学園立命館慶祥小学校校長の授業を見学して……サヴィヌィフ・アンナ(北海道大学、札幌ロシア語学校)
20:00-20:10 質問の時間
20:10-20:30 自由討論・閉会のあいさつ