異星人現代パラレル

過去編

目を奪われる

星を眺めて楽しんだことがない、と言われたから二人でお月見をした。

「月、だっけ。なるほど、通り過ぎる時に見た形とは違って見えるね。

地上からはこう見えるのか」

星を眺めて楽しむなんて考えたこともない、地球の人は感性が豊かだね、とワカバが笑う。

太陽の光の下とは違うその姿にドキリとした。


雨も、悪くない

曇った空から雨粒が次々と降り注ぐ。傘は忘れてしまった。

走って帰ろうとしたら「迎えにきたよ」と声がかかる。

やってきたワカバが傘を差し掛けてくれた。

一本の傘に二人で入ることを相合傘って言うんだよ、と教えると初めて知ったよ、と微笑まれた。

こうして、迎えに来てくれる人がいるなら、きっと。


最高の幸せ

文中に『酔い』を入れて【嬉しい】をイメージした140文字作文

父が帰宅した日はいつもご馳走だ。

酔いが回り上機嫌な母が、父の膝で甘えている。

父も嬉しそうで何とも空気が甘い。

二人の邪魔をせず部屋に戻ろうとしたら「わかば、おいで」と母が引き留める。

思春期の男としてはいささか微妙な気分だけど、父と僕に囲まれる母が幸せそうなので、まあいいかと諦めた。


覚悟はできてる 前

その星に降り立ったのは、ケムリクサに似た植物という存在を調べるためだった。

すると、水辺で人が沈みかけていた。

騒動を引き起こす虞があるため、辺境惑星の現地人に船を見られてはならない、と言われている。

けれど、人の命がかかっている。

船を下ろし、救助にかかった。

これが人生の岐路になった。


覚悟はできてる 後

未だに子どもに間違えられると笑っているけれど、久しぶりに会う彼女は大人になっていた。

思えば、ずっと答えを先送りにしていた。

僕らは異星人で常識も違う。

それでも、相手の人生を背負い、自分の人生を預ける覚悟はあるか。

もう答えを出さないと。

…地球での契りは、どう申し込めばいいんだろうか。


はぐれないように

文中に『祭』を入れて【不思議】をイメージした140文字作文

りりが普段見ない浴衣という衣服を着て、花火大会に案内してくれた。

遠くから聞こえる祭囃子、屋台の煌々とした灯り、人々の熱気…初めて経験する僕には見る物全てが珍しい。

と、りりが人の波に飲まれそうになったのを支える。

はぐれないよう手を差し出すと、彼女は少し恥ずかしそうにその手を取った。


ここから始まる

タオルにくるまれた赤子を、彼はまるで壊れやすい宝物のように抱いた。

赤子は文字通り真っ赤な顔で泣いていたが、指を差し出すとぎゅっと握る。

命の重みを感じた。

込み上げる感情は震える口から、感謝の言葉として漏れた。

この子にはどんな人生が待っているのだろうか。

親子三人の新しい始まりだった。


ここから始まる 前

苦しい。怖い。

水面に出ても、またすぐに沈んでしまう。

このまま、お父さんお母さんのところに行ってしまうんだろうか。

力尽き、沈み込もうとする中、最後に見えたのは、空から降りてくる光だった。


「大丈夫?」

気づけば、力強い腕に抱えられていた。

顔を上げると心配そうに見下ろす目と視線が合った。


ここから始まる 後

断続的にやってくる痛みの中、ずっと手を握っていてくれた。

その支えがなかったら、生きていられたかどうかわからなかった。

痛みと疲労感で朦朧としたけれど、赤ちゃんが生まれた瞬間、言い知れぬ幸福感に包まれた。

あの出会いからはじまった幼い恋は、時を重ねて愛になり、今、新しい始まりを迎えた。


少年のような顔で

文中に『口癖』を入れて【面白そう】をイメージした140文字作文

「うわ、何これ何これ!めっさ気になる!」

その口癖が出ている時、彼は普段見せている大人の顔ではなく、少年のような表情になる。

きっと、昔からそんな顔をしていたのだろう。

見たこともない、その少年時代を覗き見たような気分になる。

だから、その表情を見るために、いろいろな場所を案内している。


アルバムを眺めながら

文中に『思い出』を入れて【夢中】をイメージした140文字作文

「これは花火を見に行った時の写真で…」

よほど思い出深いのか、母の顔がとてもキラキラしている。

実のところ、もう何度聞いたかわからない。

全てを話せる相手が他にいないから仕方ないんだけど…。

母が頬を染める様子はまるで少女のようで、今も父のことがとても好きなんだなと改めて理解させられた。


でも、明日怒られそう。

ワカバが寝ている姿を見ないから、いつ寝てるのか尋ねてみたら、地球計算だと三日に一回ぐらいの睡眠で大丈夫なんだよ、と返ってきた。

信じられなくて、一晩中一緒にいて確かめようとしたけれど、気がつけばワカバの布団で独占していたし、ワカバは本を読んでいたようで、全く眠った様子もなかった。


ゆびきりげんまん

非常事態だとしても、船を見られたのはまずかった。

僕の困惑に気づいたか、地球人の少女は「絶対に言わないから!」と言って、僕の手を取る。

小指を絡め、不思議な抑揚をつけて何事かを言った後、離した。

約束の仕草だと言う。

どれほどの効力があるかは分からない。

それでも、彼女の必死さは伝わった。


ゆびきりげんまん 一年後

何だかんだと延ばしていたけれど、さすがにもう母星に帰らなければいけない。

出発の朝、りりは泣きそうな顔をしている。

「また、来るよ。だから」

りりの手を取り、小指を絡め、上下に振りながら定型の言葉を述べ、離した。

効力はない。

約束を守るという誓いの証明であることを、この一年で理解した。


寂しい、と呟いて

この布団はもう使わなくなったから、日干しをしないと。

けれどその前に、布団にうつ伏せになる。

布団からは、煙草臭さに混じってワカバの匂いがする。

掛け布団にくるまって目を閉じると、抱きしめられているようだった。

けれど、彼の不在をより強く感じさせられてしまって、思わず寂しい、と呟いた。


たった二人の世界

僕は歌という文化を持たなかったから、子守歌代わりに聞かせるのは大体故郷の話だ。

色々な姿の人がいること、植物はないけど似た形のケムリクサがあること…。

膝の上のわかばは、目をキラキラさせながら聞いている。

連れていける日が来るかどうかはわからないけど、いつか家族で見れたら、と思う。


どんな言葉よりも

わかばの掌と僕の掌を重ねる。

「もう僕と変わらないね」

目を合わせるために屈む必要もなくなり、目線の高さも同じになった。

かつて腕の中に納まっていた小さな赤子が、今では僕と並んでいる。

それは言葉よりも雄弁に歳月を感じさせた。

「本当に、大きくなったね」

けれど、笑う顔は昔と変わらなかった。


ここにいたら

わかばを膝に抱いてツリーを見せる。

ワカバは遠い宙の下。定期報告のため母星に帰っている。

寂しいけれど仕方がない。

不意にドアが開く。

「メリークリスマス!」

見るはずのない姿があった。

「ちょっと急いできたよ」

聖夜は家族で過ごすものだからね、と微笑む人の胸に飛び込む。

最高の贈り物だった。