オレたちは記憶の葉に保存されてまだ存在してるが、多分長く保たないだろう。
だから、次の死はどう終わらせるかを考えている。
「やっぱり、ものすっごい強敵と戦いたいわなあ」
りょうの願いは昔も今も変わらない。
「さあて、オレはどうすっかなあ」
一つだけ確かなことがある。
今度は、最期まで一緒だ。
一番上になってから気づいたが、りょうは当たり前に長女だった。
自覚していたのか、していなかったのか、それは今もわからない。
けれど、当然のように自分が一番上として動いていた。
そんな姉に、今までどれだけ守られていたか気付かなかった。
今から、自分が一番上として、妹たちの手を引いていく。
りくの頭を撫でようとしたら、両手で拒まれた。
常なら「りょう姉のは雑!」と痛がりつつもされるがままになっているのに。
しばらく、無言の攻防が続く。
頭の方に手を出すと見せかけ、りくの両手を抑えこむ。
ようやく頭を撫でると、涙をにじませながらりくが叫んだ。
「おいやめろよ!寝違えたんだよ!」
りくを引き寄せようとしたら、両手で拒まれた。
無言の攻防の後、拒む手を力づくで抑え、ようやく引き寄せる。
りく自身と、使うケムリクサの入り混じった独特の匂いが漂う。
りょうはこの香りが好きだった。
その中に、僅かながら汗の匂いが混じりだす。
「……刺激が強すぎる」
りくの小さな声が聞こえた。
「ちょっとりくちゃんの匂いを堪能したくなったんだわぁ」
上着を広げられ、りょうの頭が潜り込んでいく。
触覚の弱いその手の動きは荒っぽい。
時に痛みを感じるほどに。
けれど、その感触に、痛みに、身体は喜んでしまう。
「ここを触ると、もっといい匂いになるね?」
りょうが片目を薄く開けて、笑った。
撫でるのがうまいのはりつだ。
大雑把ではあるが、それでも姉妹の中では背を掻いたり触れたりの力加減がうまい。
けれど不意に、りょう姉の手に触れられたいと思ってしまうのはなぜだろうか。
雑だから痛いし、背中を掻かれた日には跡が残る。
なのに、変な癖になったのか、どうにもあの手を求めてしまう。
手にはモモイロのケムリクサ。
分割すると記憶を失うと教えたのはりょくちゃんだったっけ。
でも、りょうちゃん、りょくちゃんを失った姉妹は、手が圧倒的に足りない。
記憶を無くしても、築いてきた全てが無くなるわけじゃないと信じているし、失った分、新しい記憶で埋めていけばいい。
だから、きっと。
それは、作り主の意志を忘れてはいなかった。
戦いの果てに枯れかけ、新たな主に見いだされて育ち直した後も。
時が満ちて、主もそれを手放し、運命の背を押した。
主の妹が、赤い木にそれを叩き込む。
さあ、赤いケムリクサよ。
やっと私の手が届いたな。
悲しい運命はもう終わりだ。
最後は私と共に行こう。
赤い木はただ与えられた使命を果たすために作動していた。
ケムリクサを止めるために。
――を休ませるために。
マゼンタのケムリクサが何かを叩き込か。
それは即座に緑の形をなし、赤い木を包み込む。
――ああ、この色は。
やっと手が届いた。
私の使命は終わった。
赤い木はその名を呼び、活動を停止した。