「ワカバは、悪い子は嫌い?」
りりのすがるような問いに、ワカバは「嫌いじゃないよ」と答える。
微笑み、逆に尋ねた。
「りりは、悪い大人は嫌いかな?」
頬を染めて、ゆるりと首を振ると、そのままワカバに身を寄せた。
「…どうなっても知らないよ」
制服のリボンをほどき、倫理や良識と共に放り投げた。
ワカバはりりの身体を引き寄せ、抱きしめた。
テーブルにはコップが転がっており、酒精の匂いが漂っていた。
酒の勢いなんて、とりりは拒もうとするが「好きだよ」と囁かれ、力が抜ける。
ワカバは心の中で詫びた。
ずるい男でごめん。本当は酔ってなんかいないんだ。
声にならない謝罪は口づけに溶けた。
ああ、これで終わりなのか。
あれから数日、彼女は来ない。
当然だ。
きっと、これで良かったのだと思う。
いずれ、こんな冴えない男よりもふさわしい人を見つけるだろう。
…けれど。理性でそう思っていても、心の底では諦めきれてなかった。
終わるとしても、せめて本当の気持ちを伝えてからにしたかった。
外から聞こえる歌が遠い。
あの夜からずっとワカバのところへ行けずにいる。
あんなことをしなければ、今でも一緒のクリスマスを過ごせただろうか。
過去はやり直せないのに、考えずにはいられなかった。
会いたい。声が聞きたい。笑顔が見たい。
でも、会わせる顔がない。
不意に、外のチャイムが鳴った。