みなさんこんにちは。私はコロナ禍の最中である2020年4月に神奈川工科大学に来ました。前職は愛知県の基礎生物学研究所という国立の研究所で、顕微鏡を使って植物細胞のつくりについて研究していました。
私の出身高校は、相模原市にある普通の公立高校です。高校2年生まではクラスの中で真ん中へんの成績でした。高校3年生の時の担任の先生のおかげで勉強が好きになり、理学部生物学科のある公立の大学に進み、今に至ります。みんなの中にも何人か高校の後輩がいます。もしもみんなと同じ時代に生まれたら、みんなの同級生になっていたかもしれません。
私の進学した生物学科には、学生実験室の隣に学生室があり、学生が自由に使うことができました。実習時間終了後も、学生実習のスケッチを夜遅くまで行ったり、学生室で歌ったり語ったりできました。時間で実験室を閉められてしまう現代と違って、学生室で生活しながら、観察を思う存分できました。そのような環境で、顕微鏡で観察することが高校生のときよりずっと好きになりました。
研究所では、生物学の知識は知っていて当然のものでしたが、大学では、生物学の知識をじょうずに説明できれば、学生に喜んでもらえます。コロナ禍のオンライン授業で道端の植物を紹介したことを、何年か後になっても覚えてくれていた学生がいました。とても感動しました。3年生の植物科学の授業でも、たまに感想をもらえることがあります。とてもうれしくて、返事を一生懸命書いています。
iPhoneを発明したスティーブ・ジョブスは講演で「もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか? 」と言いました。私は、もし今日が人生最後の日だとしても、最後までみんなと実験したいと思います。
研究所では20年間教授の下で働いていたため、この神奈川工科大が、実質上はじめての研究室運営になります。そこで、研究所の研究室と比べつつ、どんな研究室を作りたいか書くことにします。
研究所の研究室と大学の研究室は似ているようですが違います。研究所で研究するのは博士研究員とテクニシャン(実験の補助をする専門の人)で、プロの研究者です。大学の研究室で研究するのは学生です(ただし、国立大の大規模な研究室では博士研究員が在籍しています)。プロに期待することは研究プロジェクトの遂行ですが、学生に期待することは本人の成長です。特に、プロの研究者を目指さない学生の場合、将来の人生の糧になるような学びが大事だと思います。私は、この点をきちんと区別しなくてはならないと考えています。
もしも卒業研究に来たら、みんなに学んでほしいことは、次の3つです。
卒業研究の取り組みを通じて、生物学に興味を持ってもらう。
輪講や学外の研究室訪問を通じて、研究者の世界を知ってもらう。
研究室内の活動を通して、自主性とコミュニケーション能力を養う。
これまで、みなさんは、卒業単位を取るために勉強してきました。人によっては、バイトとの両立のため、課題を早く終わらせるのに必死だったかもしれません。良い成績を取るためがんばった人もいるかもしれません。しかしながら、研究室に入ったら、効率や結果を求めるのでなく、生きものの不思議にじっくりと向き合ってほしいと思います。生物学の問題は答えが出ない場合が多いです。私の願いは、みんなが卒業するときに、研究室に入る前に比べて生物学が好きになってくれることです。
私は、研究所の第一線で働いてきたことをきっかけに、世の中の多くの人に科学研究の現場を見てもらい、その楽しさと大切さを理解してほしいと思うようになりました。そのために、進学しない人にも、学会や研究所見学に行く機会をなるべく作るようにしたいです。大学の研究室は世界最先端の研究とつながる場でもあります。
最近、Twitter上で、学生にコアタイムを課することの善悪が話題になっています(2023年5月)。世の中の多くの学生がコアタイムの少ない研究室を研究室選びの基準にしていることは、とても残念です。最低限の労力で卒業したいとの考えが見えるからです。卒業研究は労働ではありません。そこで学ぶことで、何が得られるかを基準にして研究室を選んでほしいと思います。
最小限の労力で卒業したい人にとっては、研究室はとてもつまらない場所なのでしょう。研究室が楽しい場所ならば、滞在時間をなるべく短くしたい気持ちは起こらないはずです。村田研は現在5期生が協力してイベントやグループ活動を行い、みんなが来たくなる研究室を作ること目指しています。
私は、研究は強制されて行うものではないと考えるため、学生自身が計画を立てて研究室に来てもらうようにしています。しかし、人間は誰しもさぼりたい気持ちを持っています。さぼり心に打ち勝つ仕組みが必要です。そこで、メンバーの予定表はオンラインで共有し、予定通り来れたかを毎週のミーティングで話してもらうことにしました。この方式で、卒業した先輩たちは最後まで実験に打ち込み、素晴らしい卒研発表を行って卒業しました。
かつては、さぼりまくる学生たち、コアタイムのない研究室を選ぶ学生たちに怒り悲しんだ時もありました。しかしながら、みんなのお陰で学生のポテンシャルを信じることができるようになりました。研究室の良き伝統が続くことを願っています。
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