細胞分裂の前中期とは

日本の高校生が学ぶ「生物基礎」の教科書や、受験生定番の参考書「生物図録」などの書籍には、細胞分裂(有糸分裂)の過程は前期、中期、後期、終期の4段階からなると書かれています。一方、生物学オリンピックの標準教科書である「キャンベル生物学」や細胞生物学の専門書では、細胞分裂の過程は前期、前中期、中期、後期、終期の5段階からなると書かれています。それでは、日本の高校生が学ばない「前中期」はどのような過程なのでしょうか?

紡錘体が作られ、染色体がならぶ

細胞生物学では、前期(prophase)は核膜の崩壊(nuclear envelope breakdown: NEBDと略されます)で終了し、前中期(prometaphase)が始まると定義されています。前中期は紡錘体がつくられ、染色体が赤道面に移動する時期です。紡錘体が完成して染色体が赤道面に並ぶことにより前中期は終了し、中期(metaphase)に移行します。

細胞は、染色体を娘細胞に分けるため、2つの染色分体(複製された染色体のセット)を両極に向くように並べます。前中期はその時期です。

一方、高校の教科書では、核膜が破れる前に染色体が太く凝縮する時期(細胞生物学での前期)と、核膜が消失したが染色体が赤道面に並びきっていない時期(細胞生物学での前中期)をまとめて前期と呼ぶ場合が多いです。

生きている細胞での染色体の動き

生きている細胞で染色体の動きを追跡すると、染色体がいろいろな向きに動きながら、最後には赤道面に並ぶ様子を見ることができます。大学で細胞分裂を学ぶ人は、前中期の存在を認識してほしいと思います。〈染色体を分配する前に、まず並べる〉

なお、染色体が赤道面に向けて動くしくみは、微小管の重合やモータータンパク質の働きにより説明されていますが、植物細胞にそのまま適用できません。植物細胞には未解明の謎がまだまだあります。

タバコ培養細胞の染色体の動き(村田撮影)

参考文献: O'Connor, C. (2008) Cell Division: Stages of Mitosis. Nature Education 1(1):188link