(7) 研究会会員の研究内容紹介


研究事例6:バイオマスを活用した結合剤の開発 曙ブレーキ工業㈱ 中村 奏美


開発部門 中央技術研究所ではブレーキ用摩擦材向けの新材料としてバイオマスを活用した結合材を開発

している.著者らは植物系バイオマスのリグニンを主成分に用いた結合材を開発し,その結合材が摩擦材の耐フェード性に与える影響をBrake Forum in Japanで報告した.ここではその報告の概要を紹介する.


植物の細胞壁は主にリグニン,セルロース,ヘミセルロースで構成されており,リグニンは潜在性フェノール系高分子であることから,化石資源から合成されたフェノール樹脂を代替する材料として期待されている.フェノール樹脂は,耐熱性,機械的性質が優れていることから,ブレーキ用摩擦材の結合材として使用されている.著者らは植物のソーダ蒸解処理によって得られるソーダリグニンを原料に使用したリグニンフェノール樹脂を合成し(図9),ブレーキ用摩擦材への適用を検討した.摩擦材の摩擦試験結果から,リグニンフェノール樹脂は従来のフェノール樹脂と比較し,ディスクロータ温度の昇温と同時に摩擦係数が低下するフェード現象を抑制することがわかった.


従来の研究では摩擦材に含まれるフェノール樹脂から生成される液相の熱分解物が摩擦面を潤滑することでフェード現象を引き起こすことが報告されている.このことから,本研究で用いたリグニンフェノール樹脂は摩擦面での熱分解物の生成を抑制したため耐フェード性が向上したと考えられる.