. 4. 4ビートの世界
. 4. 4ビートの世界
音楽の世界には、「タタタ」という、一度聴いたら忘れられない魔法のリズム
が存在します。ピアノがバックで3連符をさりげなく 叩いている、 この甘美
な3連符が4拍子の世界をゆったりと支配する時、もうたまりません。ブルース
を踊りたくなるような、甘く切ないムードが生まれるのです。
ポール・アンカの「You Are My Destiny」、プラターズ 「Only You」胸を焦が
したオールディーズの時代から 坂本九が歌い上げた「見上げてごらん夜の星を
」、悲しみの「江梨子」橋幸夫、別れの苦しみ 「女の意地」西田佐知子、胸が
はずむ「街のあかり」堺正章、郷愁をさそう「白いブランコ」ビリー・バン
バン、深い慰めと共感の「時代」中島みゆき、 そして サザンが奏でる「栞の
テーマ」・・ちょっと思い浮かべるだけで アメリカンポップス、歌謡曲、フォ
ーク、J-POP…その調べは、まるで寄せては返す波のように、あらゆるジャン
ルの岸辺を洗い、時代を超えて愛されてきました。人々は それを「ロッカバ
ラード」や「3連ロック」と呼ぶこともありますが、この魔法には まだ 世界
共通の正式名称はないようです。
さて、このゆったりと歩を進めていたリズムの旅は、テンポが上がるにつれて
実にドラマティックな変貌を遂げます。「タ・タ・タ」と律儀に刻んでいた
リズムが、だんだん窮屈になってきて、真ん中の音が 前の音に寄り添ったり、
そっと姿を隠したり…これを粋な音楽家たちは「3連中抜き」なんて呼んだり
します。
この「中抜き」が起こると、リズムは新たな人格(?)を手に入れます。
「タァ~タ」と艶っぽく変化すれば それはジャズの香りを纏った小粋なスウィ
ングに。 「タッ・タ」と軽やかに跳ねれば、誰もが心躍るご機嫌なシャッフル
の誕生です。この二つのリズム、ジャズだ、いやポップスだと囁かれたりも
しますが 明確な境界線はない様です。それこそが音楽の面白いところ。演奏家
の粋な計らいひとつで、その表情をクルクルと変えるのですから。
音符にすると こんな感じ・・
テンポが遅い時は 完全3連符
ブルースはスローフォックスの曲でも踊れますが
本来はbpm20~25付近のテンポ 3連基調がピッタリです。
スゥイング
bpm27 付近からbpm30位まで スローフォックスの
領域です。
シャッフル
bpm40に近づくと ジャイブの領域・・・ bpm45 を超えて
くるともう クイックステップの領域に入って行きます。
テンポの旅はさらに加速し、社交ダンスのフロアへと続きます。スローフォッ
クストロットからジャイブそしてクイックステップの領域へ。目まぐるしく
加速する中で、あれほど感じられた「跳ねる感覚」は次第に薄れ、風を切る
ような疾走感へと昇華されていきます。しかし、考えてみれば、この「心が弾
む」という感覚は、何も小難しい音楽理論の教科書の中だけにあるわけでは
ありません。あの童謡 うさぎとかめ』の「もっし もっし♪」も立派に跳ねて
います。 あっめ あっめ ふれ ふれ(雨 雨 降れ降れ)もそうですし、日本の夏に
目を向ければ、「炭坑節」も「阿波踊り」も、人々をウキウキさせる最高の
シャッフルではありませんか。「〇〇音頭」と名が付けば、そこには もうご
機嫌なグルーヴが息づいているようです。「3連中抜き」なんて面倒な理屈はさて
おき、人を笑顔にし 体を揺らすリズムの魔法は、東洋も西洋も関係なく、私
たちのすぐそばで、いつもご機嫌に鳴り響いている。 音楽って、本当に面白く
・・ 4ビートの世界はご機嫌です。