第七十六回全日本中学校長会研究協議会香川大会が、十月二十三日(木)・二十四日(金)にレグザムホールをメイン会場として盛大に開催されました。
開会式では、全日本中学校長会会長 青梅 正 様よりご挨拶があり、「すべての生徒が『生きる力』を身に付け、変化の激しい予測困難な時代にあっても、自分の人生を自らの力で切り拓き、たくましく生き抜くことができる資質・能力を育むこと」、そのためにも「私たち校長自身が『しなやかさ』と『たくましさ』を兼ね備えた校長を目指すとともに、学校のあるべき姿を思い描きながら、教育改革の当事者としてリーダーシップを発揮し、教育活動に取り組み続けることの重要性」について述べられました。
また、大会実行委員長(香川県中学校長会会長) 北岡 隆 様からは、「中学校教育も多くの転換点を迎えていること」「学校経営の在り方が問われており、複雑で多様な課題にどう向き合い、学校を取り巻く有形・無形の財産をどのように活用・マネジメントしていくか、これまで以上に校長のリーダーシップが求められる時代である」と述べられた上で、「本大会で現場における地道な実践発表や、参加者同士の語り合いを通じて、課題解決のヒントを得ることができると確信しています」とお話しされました。
続いて、文部科学省初等中等教育局主任視学官・田村 学 様より、「当面する初等中等教育上の諸課題」と題して、次期学習指導要領に向けた検討を中心にご講話がありました。
まず、次期学習指導要領の主な審議事項として、「質の高く深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方」「多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方」「各教科等やその目標・内容の在り方」が挙げられ、多様な子供たちの「深い学び」を確かなものにするために、あらゆる方策を活用し、「深い学びの実現」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」を三位一体で具現化していくことを目指していると述べられました。
「深い学び」の具現化については、知識及び技能と思考力・判断力・表現力等のヨコの関係と、個別の資質・能力(個別の知識や理解、個別の思考力・判断力・表現力等)と高次の資質・能力(中核的な概念の深い理解、複雑な課題の解決)というタテの関係を可視化することにより、授業での「深い学び」の実現を図りやすくすることが重要であると述べられました。
また、柔軟な教育課程の方向性として「調整授業時数制度」が論点となっており、各学校の固有性・独自性を発揮しやすくすること、質の高い探究的な学びを実現する新たな枠組みとして、小学校の総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」、中学校に「情報・技術科(仮称)」を設置し、情報活用能力を探究的な学びを支える基盤と位置付けること、そして「主体的に学習に取り組む態度」の評価改善の方向性などについて説明されました。
さらに、「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」の関係性については、「主体的・対話的で深い学び」の実現を通じて資質・能力の育成を図るという基本的方向性を、多様な特性を有するすべての子供において実現することが出発点であり、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」はそのための具体的な改善の視点であると強調されました。
また、「深い学び」とは「知識・技能をつなぐ(関連付ける)」ことであり、知識の活用と発揮が不可欠であると述べられました。アウトプットの場面を増やし、活用・発揮して情報を処理する「精緻化(既有の知識と結びつける)」の機会を拡充することが求められるとお話しされました。アウトプットを繰り返すことで知のネットワーク(精緻化)が形成され、長期記憶や活用型知識として定着するとの説明もありました。次期学習指導要領改訂の論点をわかりやすくご説明いただき、教育の動向理解が一層深まりました。
続いて、第1研究協議題として、全日本中学校長会教育研究部長(東京都板橋区立板橋第二中学校長)柳澤 忠男 様より、「誰一人取り残されない 一人一人を大切にした不登校対応」をテーマに提案がありました。まず、COCOLOプランにおいて、不登校により学びにアクセスできない子供たちをゼロにすることを目指して示された①学びの場の確保、②「チーム学校」での支援、③学校の風土の見える化という三つの主な取組について、令和6年度に全日本中学校長会が行った調査結果をもとに、中学校教育の現状や今後の見通し等を分析・考察された内容が紹介されました。その上で、COCOLOプランの実効性を高めるための四つの提言として、①学びの多様化学校設置による課題の共有、②スペシャルサポートルーム設置に向けた財政的支援・整備、③NPOやフリースクールとの連携強化、④スクール・ソーシャルワーカーの成功事例をもとにした現場での活用拡大、が示されました。これらの提言をもとに取組を進めることで、COCOLOプランの効果的な実現と、不登校の状況に応じた一人一人を大切にした対応を推進し、将来に希望を持てる若者の育成につなげていきたいと述べられました。
また、第2研究協議題として、全日中北海道地区札幌市立美香保中学校長 伊達 峰史 様より、「自治的な活動を柱とした人間尊重の教育」についての提案がありました。札幌市校長会では、市全体の共通指標「学習などについてのアンケート」の結果から、自己承認に関する項目で肯定的な回答をする生徒が少ないことに課題を見いだし、「子ども一人一人が『自分は大切にされている』と実感できる学校づくり」をキャッチフレーズに、次の学校観の具現化に取り組んでいることが紹介されました。自治的な活動の推進を通して、子どもの相互承認の感度を多様な他者との協働によって高めていく学校像を目指して研究が進められているとのことでした。自治的な活動推進校として、中学校区サミットなどを通じて子供の自治的活動を促進するCS(コミュニティ・スクール)の枠組みを構築したA校の実践、「さっぽろっ子サミット」への参加を契機に自治的取組が広がったB校の実践が紹介されました。成果として、共通指標の結果から「相互承認の感度に関する子供の意識が徐々に高まっていること」「自分の声を届けることへの意識も高まっていること」が報告されました。今後も「子供の声を聴く」ことをすべての教育活動の重点に据え、学校経営を進めるとともに、「多様なレンズによる集合知の構築」をオール札幌で図っていきたいとのお話がありました。
一日目の午後は八つの分科会に分かれ、研修が行われました。さまざまな現代の教育課題についての提案をもとに、全国の校長先生方と意見を交換する貴重な研修となりました。
二日目は、高松市出身のサヌカイト奏者 小松 玲子 様によるサヌカイト演奏のアトラクションの後、記念講演として、東京大学大学院工学系研究科教授 松尾 豊 様より「AIの最新動向と今後の展望」と題してご講話がありました。内容は、「AIの最新動向」「AIの仕組み」「今後の見通し」「AGI(汎用人工知能)の登場」など、多岐にわたりました。松尾先生は、日本がAIをいかに活用していくかという観点から、「世界で最も活用・開発しやすい国」を目指すべきだと述べられました。さらに、先生の研究室での人材育成プログラムを紹介され、研究室からAI関連のスタートアップ企業を立ち上げるメンバーが多数輩出されていることをお話しされました。そして、「変化を起こす側に立つか、変化から守る側に立つのか」という選択が迫られており、若い人たちは変化を起こす側に立つべきであると語られました。AIを学び、若者が活躍できる社会を築くためにも、AIによって社会や組織に変革を起こす力を育む教育が重要であると強調されました。
二日間を通じて、次期学習指導要領改訂の方向性やAI研究の最新動向など、現代教育に関する理解を深めることができました。また、さまざまな教育課題に対する各校長会からの提言や、全国各地の校長先生方との意見交換を通じて、各校の学校経営の新たな方策を考える有意義な機会となりました。