「本当に荒れ果てたガレキの山だなー」
マレットがそう呆れるのも無理はない、といった感じだった。私たちは現在、とある任務でこの街を訪れていた。訪れる、というよりは、立ち入っている、という方が表現としては正しい気がする。
ぐしゃぐしゃに荒らされた携帯ショップ。通常、私たちD-phone同士の戦いは、どれだけ激化しても、人間が戦争を起こしたような被害は生まれづらい。それは私たちが身長僅か8cmで、自分たちのおよそ20倍ある世界をどうにかしようとしても、意外と頑丈で壊れない、というのもあるし、そもそも「そんなに破壊しようとしていない」というのもある。だけど、今私たちが立っている携帯ショップは、まるで局所的に超強力な台風が吹き込んだか、もしくはここだけ大地震が発生したかのような惨状だった。
「あらかた周囲を見てきましたけど、どこも似たような感じでしたね! 建物の中には簡単に入れますけど、あんまり長居したくない感じでした! 大災害でもあったんですかね? とにかく荒れててひどかったですよー。ここもだいぶですけど……あ、それと他のD-phoneの反応もなさげでしたね」
走って戻ってきたスレイプニルがそう報告してくれる。来る途中も異常だったけど、やっぱりこの町はとんでもない戦いがあったことを、その景観が物語っている。
「シーア、店の奥に少しだけ残ってたぞ」
今度はゴウライザーが、私たちがここに来た目的を見つけてくれたようだ。目的といっても、その半分だけど。
「どれも状態は良好とは言えないが、パーツ回収には申し分ない」
そっか、ありがとうドロッセル。私たちがここに来た目的。その半分は、D-phoneの修理に使うパーツ回収だった。携帯ショップには、まだ起動していないD-phoneがたくさん並んでいる。万能情報管理庫(アーカイブ)にも接続されていない、D・Aシステムも起動していない、いわゆる商品としてのD-phone。私たち人型携帯秘書端末AI Doll-phoneは、「修正の一秒」で人類が突然姿を消すまでは、人類の生活をサポートする機械だった。それが今では、D・Aシステムに組み込まれたシェア拡大プログラムによって、センチネル・グローリーとドラグーンに分かれて戦争を繰り広げているのだ。
そんな戦いでは、故障が発生することも多い。簡単な傷ならアプリケーション・アーマーで傷口を塞いだり、ボディに入っているナノマシンがゆっくりと修理してくれるんだけど、ハードウェアの損傷、手足の欠損、関節の故障なんかではそうはいかない。物理的な修理が必要となる。そこで使われるのが、こうした「未起動のD-phone」だ。
「けどなんや、こっからパーツ取るのも、あんましええ気分やないな」
人間にとってはおもちゃでも、私たちにとっては本物と差し支えないカートに、ライクは箱を積み上げていく。D-phoneの入っている箱は、そう大きくはないけど、決してそう軽いものでもない。それでもこうして持ち上げて運べるのは、アプリケーション・アーマーの恩恵だ。
私たちはアプリケーション・アーマーを再物質化(ダウンロード)し、その身に纏ったり、武器や生活用の道具として扱うことができる。大きいものや、強い力の出せるものを再現しようとしたら、その分電力をたくさん使うことになるけれど、それでも私たちはそれがなければ、100グラムのものでも20倍、2キロに感じてしまうだろう。もちろん、徒歩での移動だって10分のところを200分かけることになる。そうならないのは、私たちが自分たちの出力をアプリケーション・アーマーで補い、移動速度をロケットブースターなどで加速させているからだ。
「でも、とりあえずこれで任務の半分は成功。あとの半分は……まず相手が見つからないと、だもんね」
戦いたくないからね、という言葉は飲み込んだのか、少し安心したような声でそう言ったのはアカツキだった。私たちと同じタイミングで同じ任務を受け、結果同行することになった、シルフィーIIをベースとしたD-phone。高出力のジェットパック「V字ウィング」や、大量のミサイルをばら撒ける「ミサイルコンテナ」といった、かなり攻撃力の高い武装をたくさん積んでいるが、本人は至って平和主義者だった。今回の任務にだって「話し合いでまずは解決したい」と言っていたくらいだから。それでも戦いに特化してるから、いろいろな戦場を渡り歩いてきたみたいだけど。
「”蒼き稲妻”かぁ……」
私も声に出してみる。その名の通り、非常に素早く、そして強いD-phoneらしい。依頼主によれば、彼女のせいでここの戦いが激化したらしいんだけど、それにしてもたった一つのD-phoneがこれほどまでの被害を及ぼせるだろうか?
携帯ショップの窓ガラスは全てが粉々に割れて床に散乱し、自動ドアも完膚なきまでに破壊されていた。どこかのタイミングで、どうやってかは知らないけれど、車を突っ込ませたらしく、ショップの西側の壁は存在せず、代わりに赤い乗用車が半分店に突っ込んでおり、炎上したらしく周囲含めて焼け焦げていた。棚やテーブルからはディスプレイ用の携帯電話のダミーが散らばり、その中には展示用のダミーD-phoneも含まれていた。上の階は倉庫になっているらしく、そっちはまだ無事だけど、やっぱり数ヶ所の壁に小さな穴が空いていたり、埃が溜まっていたりするし、なんだったら一部床が抜け落ちている。奥の事務所から散らばった書類や事務用品が足の踏み場を埋め尽くし、時折吹き抜ける風が書類を何枚か巻き上げていく。その中に、奥の方にストックされているのが、未開封のD-phoneたちだ。
この全てが、たった一つのD-phoneの影響。そうは私は流石に思えなかった。もしそうだとしたら、相当な破壊力と、莫大な電池量を抱えた、巨大なD-phone……ないしは、戦車なんかを動かす権限のある、軍事用D-phoneだ。
私たちの依頼のもう半分は、その”蒼き稲妻”を阻止、必要なら破壊することだ。
まだ来た道を半分も戻れてないというのに、たくさんの荷物と悪路のせいで、私たちはこの破壊された町の中で一夜を明かすこととなった。夜中の行進もできないわけじゃない。でも野生生物の襲撃や、視界の悪さからそうするのは賢明じゃないと判断した。幸い、電力が供給されてる建物はまだあるみたいだから、そこにちょっとお邪魔して休ませてもらおう。二人一組で交代で見張りをしながら、明日の朝日とともに出発。そう作戦を立ててから、まずは私とマレットが見張りに立って、それからゴウライザーとドロッセルに交代して……。
「起きろシーア!」
銃声とゴウライザーの声が同時に飛び込んできて、私はスリープモードから一気に叩き起こされた。
「えっ、な、何?」
「敵襲!」
珍しくドロッセルが声を荒げた。どうやら私たちが寝静まったのを待たれていたらしい。
でも、だからといって一方的にやられてなんていられない。私は他のみんなを起こしながら、急いでスラスターアプリを再物質化……あれ?
スラスターアプリどころか、万能情報管理庫に接続できない。こうなると、私は「8cmの人形」と大差ない。と、とにかくみんなを起こさないと。マレット、スレイプニル、ライク、アカツキ!
呼びかけても反応がない、というより、これはメッセージが送れてないという感じだ。どういうわけか、電波が遮断されてる。それで2人とも、口頭で起こしに来たのか。となると、2人が見張りのためにアプリを出していたからどうにかなったけど、そうじゃない私たちは戦う術を持ってないってことだ。まずい。本当にピンチすぎる。
「マレット、マレット!」
とにかく急いで私はマレットをゆすり起こす。眠そうな目がゆっくり開いていき、そして銃声を聞いて一気に覚醒した。
「戦いか!」
「嬉しそうにしないで! どういうわけかアプリが使えないんだから!」
「それでシーアも珍しく通信じゃなくて声出してんのか。いや、戦えるならなんでもいい! アタシのボディは頑丈だぜ! これでぶん殴ってやらぁ!」
向こう見ずというか無鉄砲というか、そういってマレットは戦いが発生しているであろう方に走り出してしまった。無茶だよ。
「マレット邪魔するな!」
「邪魔じゃねぇ、助太刀だ!」
やっぱりゴウライザーに怒られてる。まぁ、今はそれどころじゃない。
「スレイプニル、ほら起きて」
「な、なんですかぁ」
流石のスレイプニルも寝起きではあのマシンガントークは炸裂しないらしい。ゆっくり体を起こして、状況から何が起こってるか判断……するのには時間かかりそう。じゃあ少し放っておこう。
「ライク……あれ? ライク?」
最後に確認した場所に、ライクがいない。もう、こんな時に!
「アカツキ、大丈夫? 起きて!」
「え、え」
次世代機だからか、スムーズに起動したアカツキは、キョトンとした顔を私に向ける。
「敵襲!」
「て、敵襲!?」
すごく良いリアクションだけど、とにかく今はどうにかしないと。
「アプリが使えないんだ。相手の電波妨害だと思うんだけど、とにかくこの場から離れないと危ないよ!」
「大丈夫、シーア。わたしはそれでも戦えるんだよ! 戦いたいかは、ともかくとして……」
立ち上がったアカツキは、私の身長をひと回りだけ超えている。それは、彼女の両足が特殊な装備になっているからだ。右足は踵の部分に杭のついたパイルバンカー、左足は折りたたみ式のブレードを備えている。他の武器はアプリだけど、これら二つは物質として存在する、本物の武器だ。
「とにかく、止めてくるね!」
でも、それは同時にアカツキが歩くのを邪魔しているとも言える。慣れてるから普通に歩いてるように見えるけど、それでも少し不安定そうな様子だ。普段はV字ジェットを使ってバランスを保ちながら歩いているんだろうなぁ。
「シーアちゃん! これ! なんか戦いが起こってるんですけど! どういうことですか!? いや、多分敵が来たんですよね! いきなり誰かがすごい喧嘩始めたとかじゃなければ!」
どうやら目を覚ましたらしいスレイプニルが私に駆け寄ってきた。そうだ、スレイプニル。
「そう、敵襲なの。だけどライクの姿がどこにもなくて。スレイプニル、足の速さはアプリじゃないよね?」
「もちろん自前です! 自慢じゃないですけど、省電力と足の速さは誰にも負けない自信があります! 多分その辺のアプリなら追い越せるんじゃないですかね?」
「じゃあお願い! ライクを探してきてくれる!? それで、えっと……この街に、歴史資料館があったよね? あそこで落ち合おう! 歴史資料館なら、もしまだ協定が機能してるなら私たちを守ってくれるはずだから!」
承知しました、と敬礼のポーズをして、スレイプニルはあっという間に駆け出していく。よし、これで一つ心配事が減った。次はあの戦闘集団だ。どうやって伝えよう。近づくしかないよね。
私は巻き込まれないよう、落ちている瓦礫や日用品の陰に身を潜めて近寄っていった。ここが民家のリビングで、いろんなものが障害物として機能してくれて助かる。テレビのリモコンの後ろに身を隠し、一時的に相手と距離を取ったゴウライザーに声をかける。
「ゴウライザー、敵を引きつけつつ、撤退! 充電少ないと思うけど、そのまま歴史資料館まで逃げよう!」
すぐに私の意図を察してくれたらしい、ゴウライザーは頷き、作戦を戦っている他の面々に伝えるために動く。通信でメッセージが送れない今、口伝だけが私たちのコミュニケーション手段だ。
「ッ、ドロッセル、離れろ!」
不意にマレットが叫んだ。こういう時、マレットの戦闘に対する勘は凄まじいものがあるよ。
「コンパス、キーック!」
いつの間にか椅子の上によじ登っていたらしいアカツキが、敵とマレットの間にガツン、と一気に落下してくる。同時に右足の杭を床に突き立て、思いっきり回転しながら左足のブレードを展開した。
「危ねぇ! もっと周り見て戦え!」
マレットが言えたことじゃないと思うけど、でもまぁ、しゃがんでギリギリその攻撃を回避したマレットが叫ぶ気持ちもわかる。ドロッセルはマレットの声もあって素早く後退し、紙一重で真っ二つにされるのを防いだ。相手は避けきれず、アプリを斬られたようだった。ガキンという重たい音が響く。そのままアカツキはぐるぐると回転を続け、睨み合う形になった。
やがて月が雲の隙間から顔を出し、明かりが部屋の中に差し込んでくる。白い髪に褐色の肌と、右腕に大きな機械。
「ヘッ、珍しーD-phoneだな」
「イノセンティアとクロムの複合型。特殊改造個体と認定」
「できれば戦い以外の、話し合いとかで決着つけない?」
アカツキの言葉に、謎のD-phoneは不敵に笑った。
「だったら教えてもらおうか、あたしの依頼主をどこへやった!?」
依頼主?
「質問に不明な情報が混入していて、回答不能」
わざわざ答えなくてもいいことをドロッセルが口にしてしまう。
「ってかアタシらに関係ねぇだろ!」
マレットまで!
「ならぶっ飛ばしてでも聞き出してやる!」
当然そうなるよね! もうどうにも止まりそうにないよこれは。
「どうする、シーア」
ゴウライザーが隣に避難してきた。あの俊敏な戦いの中には入っていけないと感じたのだろう。ゴウライザーは機動性よりも火力重視だもんね。なんであのでっかい剣を使ってドロッセルがスピード勝負できるのかは、まぁ不思議なとこだけど。
「とりあえず一旦退避……」
次の瞬間、私たちの真横をビーム砲が通り抜けて、アカツキが飛び降りてきた椅子の足を壊し、戦場を一瞬膠着させた。
「どっちも待てぇい!」
やってきたのは、ガレオバスターを携えたライク……を背に乗せたスレイプニル。
「ウチらはほんまに知らんねん! せやかってん、敵の可能性のが低ないかー?」
「嘘をついている可能性だってある! あたしは証拠のない相手の話は信じない!」
「せやったらここ離れたる、それでええか?」
「だめだ! 話を聞くまでは帰さない!」
「話聞きたいんかー?」
「そうだ! だから今すぐ武器を下ろして話を……あれ?」
どうやら自分が矛盾したことを言っていたことに気づいたようだ。襲撃者は少し思考してから、ゆっくりとアプリを消した。それを見て、ゴウライザーとドロッセルも武装を手放す。
「よかった……ありがとう、ライク」
「ええってええって。それよか、話聞かせてくれへん?」
歩み寄るライクに、そのD-phoneは少し気まずそうに頷いた。
襲ってきた彼女の名前はアズラ、というらしかった。右腕の奇妙な機械はジャミングデバイスで、半径3メートル圏内を完全に圏外にしてしまったり、自分の信号を完全に遮断できてしまうというものだった。胸部にも少し小さいけど似たようなものを持ち、こっちで影響を抑えているらしい。
「長期任務だったんだ。新しい拠点と、近場のセンチネル領域の突破方法を探すっていう。一応、ルートの目処をつけて、その報告に戻ってきたんだけど……その依頼主とはここで落ち合うはずだったのが、もうここはもぬけの殻。でも君たちが、えぇと……」
シーアだよ。それから、ゴウライザーとマレットとドロッセルとスレイプニルとライクと、アカツキ。
「そんなにいっぺんには覚えられないよっ。もー、まとめてアウトサイダー隊でいい? よそ者なんでしょ?」
「そういえば部隊名を決めていなかったな。それでいいんじゃないか? なぁシーア?」
いいけど……まぁ、いいか。誰も異論はなさそうだし。
「依頼主と落ち合うはずの場所で、君たちアウトサイダー隊を見つけたんだ。悠長に宿なんて取っててさ。で、すぐにわかったよ。依頼主を殺して、ここを拠点にしてる奴らだって」
「わかってねーじゃねーか」
「わかっとらんやんけ」
マレットとライクが同時にツッコミを入れる。ハッピーアイスクリーム。
「でも、じゃあ私の依頼主は一体どこに消えたのさ?」
誰も答えられない。そもそも私たち、この街の住人じゃなくて、依頼で訪れてるだけだしなぁ。
「……ねぇ、シーア」
不意にアカツキが何か思いついた顔を私に向けてきた。
「もしかして、”蒼き稲妻”じゃない?」
それを聞いて、すぐに私も合点がいった。所属関係なく襲ってくる凶暴なD-phone、蒼き稲妻。それならここにいたD-phoneを襲撃していてもおかしくはないかも。
「アオキイナズマ? それが私の依頼主をやったやつなんだな!?」
ちょ、ちょっと待ってアズラ。そうと決まったわけじゃないというか。
「じゃあそれを倒さないと私の気が済まない! 絶対ぶっ飛ばしてやる……!」
「ぎ、義理堅いんだな」
ゴウライザーがアズラの覇気に押され、少しだけたじろぐ。
「それで! そのアオキイナズマってどこにいるの!?」
「それがわかってれば苦労してないんですよ! でも確実にこの町にいるとは言われています! あっ、そしたら一緒に探しませんか? 充電してからなのでもう少し待って欲しくはありますけど、アズラちゃんも充電しますよね? 長旅だって言ってましたし、さっきもめちゃめちゃ戦ったところですし! それだけ強い奴と戦うならまずは充電しないとですよね!」
アズラの思い込みと覇気も、スレイプニルのマシンガントークの前には入り込む余地がなかったみたいで、話を聞いて頷き、大人しく充電を開始した。よかったよかった。とりあえずこれで一休みできそう。まだ朝まで時間あるし……私たちも、それぞれが勝手にコンセントを探して充電しながら休息を再開した。
翌朝、しっかり充電した私たちは、さっと身を整えて、仮の宿を出発した。来る道はさっさと飛んできたからそう大変でもなかったけど、復路は荷物を抱えての移動だ。バランスを取ることを考えると、飛行しての移動は難しい。アプリケーション・アーマーを使って簡単な台車を作って、そこに未起動のD-phoneを乗せて移動する。人数が多いから一人当たりの負担は減るけど、その分長い移動だ。敵襲を考えたら、可能な限りオフラインモードで移動する方が望ましいし。
加えて、道は整備されている場所と、荒れている場所とで通れる、通れないが変わってくる。整備されて綺麗でも、歩道のちょっとした段差は、今の荷物を持った私たちには越えるには一苦労の障壁になる。
そうして迂回したり、段差を乗り越えたりしながら7時間以上動き続ければ、いくら機械の体を持つ私たちでも、疲れが出てくる。CPUを起動しっぱなし、モーターも絶えず動かしっぱなしで、一度クールダウンしないと摩耗してしまう。そういった警告が「疲労」という形で私たちD-phoneには現れる。
「そろそろ休憩にしないか……?」
「同意。長時間の連続稼働は電池寿命を大きく縮める」
「ウチもやー。工業用とか、軍事用ちゃうで……おもちゃには荷が重いて」
私もゴウライザーたちと同じ意見だった。もちろん、そうじゃないD-phoneもいるけど。
「そうですかぁ? まだ結構道ありますし、進んでおいたほうがいいですよ? 急いで充電しないといけないほど敵が来てるわけでもないですし! ほらほら、じゃああと1番地分頑張りましょうよ!」
「たったこんだけでへばるなんて、情けねーなぁ?」
「私ももうちょっといける!」
「でも結構歩いたのも事実だよね。わたしも一旦休憩に賛成っ」
元気そうなマレット、スレイプニル、アズラ、アカツキだけど、アカツキの一言で、ひとまず腰を落ち着けることにした。地図も確認したいしね。
と、言っていた矢先、前方にD-phoneの影を確認した。オフラインモードにしてたからレーダーに反応はなかったけど、その後ろ姿を確認した。敵なら見つからないように身を隠さなきゃだけど、敵対意識がなければ休む場所を貸してもらいたいな。
「あ、すみませーん!」
でも私が静止するより先に、アカツキが声をかけてしまった。じっと立っていたD-phoneはくるりとこちらを振り返った。黒いボディに、金色のラインがかっこいい、バーゼラルドベースのD-phone。髪色が鮮やかでよく目立った。
「休めるとこ探してるんですけど……」
「隕∵賜髯、蝗�蟄舌→驕ュ驕�ょセ�ゥ溘Δ繝シ繝峨°繧画姶髣倥Δ繝シ繝峨∈遘サ陦後ょッセ雎。讖滉ス難シ倅ス鍋「コ隱阪る溘d縺九↓谿イ貊�○繧医�」
「へあ?」
発音が日本語じゃなかった。電子的なコードでもない。壊れたような”音”を立てて、そのバーゼラルドモデルのD-phoneはマシンガンを再物質化し、私たちに向けてきた。
「全員下がれ!」
ドロッセルが瞬間的にその大剣を再物質化して、大きな盾にしてくれる。逃げ込めなかったアカツキは飛び上がり射線を回避した。
「いきなり何!?」
上空から右足のパイルで突き刺すように落下するけど、相手はそれを簡単に避ける。そして銃を今度はアカツキに向けた。
「よっしゃ、助太刀するぜ!」
意気揚々と飛び出したマレットを一瞬見て、表情ひとつ変えることなく同時にアカツキに銃弾を浴びせた。しかしその一瞥を向けた瞬間の隙をついて、V字ウィングを展開したアカツキが、どうにか攻撃を防ぐ。
「お前がアオキイナズマってやつかー!」
今度はアズラが飛び出す。2人で襲い掛かられて、黒いD-phoneは跳躍して距離をとり、再び銃口を向けてきた。その間にアカツキも離れて、ミサイルポッドを再物質化する。
「待てアカツキ、そのままだと2人を巻き込む!」
ゴウライザーの静止で、どうにか射撃を食い止めるアカツキ。
「じゃあどうしたらいいの!?」
「接近戦に持ち込め」
ドロッセルのアドバイスで、アカツキは頷いてエルボーブレードを今度は装備した。腕のとこから伸びた短めの刃を使って、3人で波状攻撃を仕掛ける。だけどかなりの手練れらしく、それを臆することなくかわしていく。
マレットの拳は宙を駆け抜け、アズラの射撃は全て紙一重で回避し、アカツキのブレードも、蹴りの一撃も少し無理そうな姿勢なのに当たらない。そしてできたその一瞬の隙をついて、マレットと私たちを射撃してきた。
「ぁぐ!」
マレットはどうにか装甲の硬い部分で攻撃を弾く。私たちもドロッセルの剣に隠れてダメージは受けないけど、ここから動けない状況だ。
私やスレイプニルは現状戦力になってないけど、その中で対等どころか問題なく戦えてるの、どういうこと? とにかく撤退しないとまずい。でも荷物を投棄していくわけにはいかないよね。私は考えて、
「アカツキ、ミサイルポッド! みんなは避けて!」
無茶な命令すんな! とマレットから怒声が飛んできたけど、大量のミサイルの雨をマレットもアズラもちゃんと避けた。
「みんな戻って! こっち!」
煙がまだ残る中で、私は全員を誘導する。電波を出して、道をしっかり知らせる。相手にも見つかるけど、
「ライク! ガレオバスター!」
「どぉお!」
強烈なビームの一撃が、相手の追求を食い止める。たくさんは撃てないのは知ってるから、全員で少し離れてから、もう一発だけ。これで相手とかなり距離を取ることができたはずだ。
「シーア、どこへ!」
「歴史資料館!」
あそこなら、協定が生きていれば私たちを守ってくれるし、入り組んだ館内なら戦いようもあるはずだ。
アプリを使って人が走るより少し早いくらいの速度で飛行し、私たちは開けられた自動ドアをくぐって歴史資料館の中へと飛び込んだ。日の光で明るい館内のロビーを見回し、とにかく身を隠す場所を探す。アプリはしかしそのまま、起動しておかないと、いざという時戦えないから注意してね。
「二手に分かれるっていうのはどう?」
アズラの提案に、私は首を横に振った。
「オフライン状態で相手の索敵を掻い潜りたいから、離れて連携が取れなくなるのは困るかな」
「じゃあ上に向かうのは? 攻撃って基本的に上からの方が有利じゃない?」
アカツキの意見にも、私は首を横に振った。
「追い詰められると逃げられなくなる。それに、やりたいのは迎え撃つことじゃなくて、逃げ切ることだからね」
だから、と私は作戦をみんなに伝えた。私たちはみんなで2階に隠れる。全員が少し距離を取って隠れたら、それぞれが大きな音を立てて相手を誘導する。相手が2階全体を探す間に、私たちは1階に急いで降りて、逃げ出す。大事なのは、離れすぎないこと。じゃないと、誰か1人があれと対峙した時に助けに行けないからね。
「理にかなってはいる。だとしたら……」
ゴウライザーが歴史資料館の地図を確認しようとした時だった。案内プレートのところに、D-phoneが1体立っている。でも、さっきの黒いうさぎみたいなやつじゃない。
「お主ら、この地に何用だ? 争いを持ち込んだようだが……」
青い、どこか侍じみた和風な出立ちのD-phoneが、私たちを見下ろしていた。鋭い目つきで、今にも襲いかかってきそうな雰囲気を持って。
「ここは由緒ある歴史と学びが眠る場所。争いを持ち込み、乱して良い場ではない。即刻立ち去られよ。さもなくが、この場でお主らが動く前に、我が刀を抜くこととなる」
脅しじゃない。彼女は本気だ。それが嫌というほど伝わってくる。
「オォウ上等じゃねーか! 降りてこいよぶっ飛ばしてやらぁ!」
「マレット、煽ったらあかんて!」
「そうだ、私たちは戦いに来たのではない! 持ち込む可能性に関しては大いに謝罪するが、可能なことなら私たちは争いたくはないのだ!」
「戯言。ではその武具を下ろせ。いらぬのだろう」
確かに、武装した状態じゃ説得力ないよね。私は一旦、自分のアプリを消した。
「シーアちゃん? いいんですか危ないですよこのタイミングでアプリ閉じちゃうの!」
「逃げたいのはもちろんだけど、その目的は争わないこと、だからね。みんなも悪いけど、アプリ消して、話し合いの場を作ろう」
渋々、といった様子でみんながアプリを消してくれる。それを見て、相手もようやくその覇気を納めてくれた。すとん、と床に降りてきて、私と対峙する。
「我が名は蒼明。歴史を愛し、守る剣豪だ」
「シーア。えっと、アウトサイダー隊? のリーダー? をしてます」
「疑問符が多いな」
「割と最近決まったことだからね」
でも、誰からも反論はない。リーダーっていう器じゃないと思うんだけどなぁ、私。
「して、シーア。お主らは何を目的としてここへ来た? 争いや盗みの類ではないのだな?」
「う、うん」
一応ね、と心の中で濁す。
「私たちは任務の途中なんだ」
これを運んでる、と私たちの荷物を見せる。蒼明はすぐにそれが救護用に必要な物資だと理解してくれたみたい。
「心得た。だが、それではここに来た意味が理解できないな」
「途中ですごく強いD-phoneに出会っちゃって」
アカツキの言葉に、一瞬蒼明の顔が険しくなる。
「すごく強いD-phone?」
「せや。ウチらの最強三人娘合わせても全然敵わへん感じやった」
「アタシだけじゃねぇ、全員の攻撃避けた上で撃って来やがるんだ」
「黒いうさぎみたいなのっ。もー、とんでもないよあれは」
あいつか、と蒼明が小さい声でつぶやく。
「お主らがあれをここに呼び寄せたのならば、ここも戦場となろう。そうなれば、ここに納められた歴史が失われる可能性もある」
ロビーの奥へと目を向ける蒼明。歴史を愛していることがよくわかる。それから私たちに再び振り向いた。
「あれは災厄だ。もはやお主らが連れてきたとも関係がない。あれが来るのは時間の問題であった。ならば、あれを退け、早くここを離れる他、手立てはない。お主らの力も借りるぞ」
「任せろ! あの黒いやつぶん殴ってやる!」
強く意気込んだマレットに、他のみんなも頷いた。私も、あいつをどうにかしないと動けない以上、それに異論はなかった。戦力になるかはわからないけど、頑張るしかない。
「では情報共有を願いたい」
ずっと静かにしていたドロッセルが、また少し言葉数少なく発言した。その意図するところを図りかねている様子の蒼明に、私が助け舟を出した。
「あいつについて知ってることを教えて、ってこと」
「あぁ。我も奴と刃を交わしたのは二度しかない。少ない情報だが、伝えよう」
それから蒼明は自分の知っている詳細を伝えてくれた。あれは「ブラックラビッツ」と呼ばれる個体。その名前に、そういえば、と私は思い出したことがある。ドロッセルと出会ったちょうどその日、壊れた駅で駅員さんのD-phoneが言っていた。陣営や協定関係なく破壊活動を繰り返す、黒いウサギのようなD-phoneがいるらしいこと。実際に目の当たりにして、なるほどあの破壊の痕跡がより理解できた。遠慮と容赦のない、あの強さにも頷ける。
武器はマシンガンを主に使うらしい。その話になった途端、アズラが射程や威力がどうとか、色々語り始めた。私には少しわかりづらい話だったけど、マレットやアカツキは熱心に頷いていた。結構マニアックな話で、ゴウライザーも聞いてはいたけど、ついていくのがやっとといった具合だった。
「最後に大事なこと。あれは化け物と同じだ。もはや我々の言葉は届かぬ。何度か声をかけてはみたが、返答に一貫性も法則性も感じられなかった。獣と同じだ。だから、情けをかけるなよ」
蒼明のその言葉に、私たち全員は深く頷いた。頷いたけど、自分がその立場になった時、実行できるかはわからない、とも思ってしまった。
歴史資料館の外に出て、私たちは状態をオンラインにし、アプリケーション・アーマーを再物質化する。これだけたくさんの反応があれば、向こうもすぐにそれに気づくはずだ。
「にしても、あの黒いのはじゃあ違うのかー」
待機中にアズラが雑談として始めた。
「違う、とは?」
「あたしの依頼主をどっかやっちゃったやつ。アオイイナズマとかいうんだって」
「蒼い稲妻?」
蒼明の顔が少し強張るのを、私は見逃さなかった。
「せやで。あれ運ぶんもそーやけど、なんやちょおおっかないD-phoneがおるらしいねん。それ倒すんも、依頼のうちなんや」
「そう、か」
少し考えてから、蒼明はゆっくり口を開く。
「今は私を信頼してほしい。だが、お主の探すそれは、私のことだ」
途端、音もなくアズラが銃口を蒼明に向けた。蒼明はそれを素早く右手で弾き、直後にアズラが振るうもう片手の銃も、持っていた短刀で切り裂いた。
「お前が!!」
「我ではない。だが、我が考えが正しいとするなら、この戦いが終わってから答えよう!」
アズラの手首を掴んだ蒼明は、それを別な方向に、歴史資料館前に向けた。そこに立っていたのは、あの黒いウサギのようなD-phone、ブラックラビッツ。片手に携えたマシンガンをすぐにこちらに向け、遠慮ない発砲を繰り出した。
「射程を詰めろ!」
ゴウライザーの一声とともに、マレット、蒼明、アズラ、アカツキ、そして私が一気に接敵する。5人がかりの攻撃はしかし、無茶苦茶に動くブラックラビッツにかすりもしない。見れば、比較的装備の大きいアカツキとマレットが少し戦いにくそうにしている。
「マレット!」
私はマレットに自分の剣を一本投げて寄越した。
「サンキュー!」
綺麗にキャッチしたそれを、そのまま振り回す。しまった、剣を使った戦い方も教えておくべきだった。あまり射程を気にしない攻撃に、私とアカツキは一歩下がってしまう。
「ちょっと、ちゃんと考えて剣を使ってよマレット!」
「基本をインストールしながら戦ってんだ! 無茶言うな!」
「アカツキ、シーア、我の方へ!」
呼ばれて私たちは蒼明の近くに飛び退いた。マレットの乱れ切りの間を縫って、アズラが少しずつ攻撃を加えている。でも、それはブラックラビッツにとって足止め程度の効果しかないみたいで、ダメージを与えらている様子は見てとれない。しかもだんだんマレットの不規則な攻撃に合わせてきてるし。
「2人とも、交代せよ!」
蒼明の一声で一歩引いた2人の間に、私たちが今度は割って入る。
「マレット、この間にインストール完了させて! ライク、ドロッセル、ゴウライザー! 照準合わせて回避ルートまで全部カバー!」
私の指示に、少し離れた場所で待機していた3人が準備を完了させる。スレイプニルの足の速さで、しっかりそれぞれが適切な距離をとっている。多方向からの同時攻撃が可能なはずだ。
「いくよみんな、離れて!」
瞬間的に私たちはブラックラビッツを中心に距離をとった。いきなり離れられたにも関わらず、彼女は迷わず私を追ってくる。それをマレットのハンド・マニピュレーターが無理やり押し返す。
轟音と同時に、ビームの攻撃が三方向から繰り出される。ゴウライザーのライザー・ブレード、ドロッセルの大剣が変形した大砲のビーム、それにライクのガレオバスターの一撃だ。それぞれがしっかり敵を捉えるが、ありえないほどの反応速度で上空へとジャンプして逃げた。アプリなしとは思えない跳躍力だが、蒼明の右手から飛び出したワイヤーがしっかりとそれを捉えた。空中でそれを狙撃するのは難しいはずなのに、見事に撃ち落とされるワイヤー。でも蒼明はそれすら慌てることなく、きちんと対処する。
「砲撃!」
アカツキのミサイルが乱射された。爆発は発生するけど、きっと全部撃ち落とされてるからだと思う。空中で身動きなんて取れるはずもないのに、あの完璧な射撃精度はなんなんだろう。
煙も晴れないうちに、蒼明が動いた。地面を蹴って大きく跳躍して、相手に突っ込んでいく。右目が真っ赤に光り、短刀の刀身が淡く光を帯びた。煙幕に姿を隠して、蒼明の一閃がブラックラビッツのD-phoneを捉える。防御姿勢を取るより早かったのか、それすら関係なしの一撃だったのかはわからない。でも、煙の中から現れたのは、綺麗に着地した蒼明と、真っ二つに分断された黒いD-phoneだった。
ひとまず問題は片付いたかのように見えた。だけど、それはトラブルが一つ解決しただけであって、
「このやろー!」
別な問題が浮上してきた。一息つくより早く、アズラの剣が蒼明を襲った。それを蒼明は難なく受け止める。すぐに次の射撃準備にかかるアズラだけど、それより早く蒼明のワイヤーがアズラの手を封じた。
「うおぁあ! あたしの依頼主をぉぉ!」
「落ち着け。我はそのような者を知らぬ」
「お前がっ、やったんだろ!」
「違う。だが、一つ質問に答えてくれ。それによっては、もしかしたらお前の探す敵を教えてやれるかもしれん」
「なんだ!」
「お前の依頼主はセンチネル・グローリーか? それともドラグーンか?」
「センチネル・グローリーだ!」
「なら、我々全員がここで共通の目的を得ただろう」
蒼明はアズラを解放した。それでもなお戦おうとするアズラを、今度はゴウライザーとスレイプニルが止める。
「加えてシーア、お主らの依頼主は自らを『修理者』と呼ぶ団体だな? おそらくだが、カインドネイバー所属の」
所属までは知らないけど、そうだね。修理者、っていう団体だった。
「充電しながら、我の知る全てを話そう。ひとまず資料館の中へ」
蒼明は元々、こことは全然違う街に住んでいるD-phoneだった。住んでいるだけじゃない、日本歴史博物館の案内D-phoneとして、修正の1秒後も役目を続け、また歴史的資料の収集にも当たっていた。パートナーであり上司でもある碧凪(あおなぎ)というD-phoneの任務を受けて、他の街で博物館や資料館を探し、その内部にある歴史的価値の高いデータを収集したり、戦闘区域にあるものなら可能な限り回収するのも仕事だった。
それがある時、この激戦区となっている街に入る必要が出てきた。そこで一緒に中へ入ろうと提案してきたのが、『修理者』と自らを呼ぶ医療団体だった。D-phoneは簡単な傷ならアプリで塞いで治してしまうけど、根本的な素体がダメージを受けたら修復は難しいとされている。そこで、使えそうなパーツを集めて、怪我をしたD-phoneたちを修理するのが彼女たちの仕事だった。だけど、『修理者』はドラグーン陣営に味方して、キャリア戦争に参加する戦争屋でもあったのだ。
蒼明もドラグーンのD-phoneだったから問題はなかったけど、『修理者』のセンチネル・グローリーに対する接し方は、それはかなり度を越していたらしい。というより、パーツが不足すると、時には彼女たちを捕まえて解体し、味方の修理に当てていたほどだった。そんなことを知らない”治療”を受ける子たちはみんなが喜んでいた。だけど、実際には、必要に応じて戦闘行為を発生させ、そこで怪我をしたD-phoneの面倒を見るような集団だったのだ。
非常に理にかなってはいる。戦いを起こして壊しても、敵なら相手の戦力を削れ、味方なら治療してお金をもらえる。それでも、その非道さには誰も言葉を発することができなかった。
蒼明はそのことが発覚してからすぐに捕まっていたセンチネル・グローリーのD-phoneたちを逃し、『修理者』たちを軽く手負いにしてから、この歴史資料館に逃げ込んだという。ダメージを受けた『修理者』たちは一時撤退。回復を待ちながら、修理用パーツを私たちに取ってこさせ、ついでに離反した蒼明を処分しよう、という計画を立てたのだ。
全てを聞き終えて、アズラは少し放心した様子だった。私もちょっとショックを受けていたから当然だ。
「じゃあ、あたしの依頼主をやったのは、そのシューリシャとかいう奴らなのか?」
「まず間違いないだろう。我々が入るより以前から、街は荒れてはいたものの、まだどうにか営みが続けられる現状だった。それが誰1人住めぬ地へと変貌したのは、間違いなく『修理者』によるものだ」
「っ、そんなの!」
怒りとともに立ち上がったのはライクだった。
「許せへんやん! あそこまでぶっ壊す必要あらへんやろ! 大体戦えへんやつも襲ってパーツに使うって、人の心あらへんにも程があるで!」
「その意見には大いに同意しますよライクちゃん! 人助けになるならと思って今回のパーツ回収を受けしたけど、それがもっと壊して甘い汁啜るためなら話は全然違ってきます! アウトサイダー隊は悪の片棒を担ぐことは絶対にしません! 即刻戻ってぶっ飛ばしてやりましょう!」
どうどう、スレイプニルもね。どちらにせよ私たちは一度、『修理者』にもう一度会わないといけないから、その時に真相を確かめるのはどうだろう? きっと蒼明が一緒にくれば、相手も何かしらのリアクションを取るだろうし。もしそこで蒼明の話が嘘だったら、多人数で蒼明をどうにかできる環境が作れるはず。
「我はそれでも構わぬ」
「仕方ねー……でも疑いが晴れるまでは、絶対目を離さないからなっ」
ひとまずの争いは避けれたようで、私はほっと胸を撫で下ろした。
「螟ァ遐エ縲よ雰諤ァ蝗?蟄先焚?倥?ょ?逕溷?鄂ョ荳崎ヲ√?よ姶蜉帛「怜シキ縺ィ謾サ謦?ス灘宛繧貞シキ蛹悶○繧医?」
人手が増えたことによって、荷物運びはぐんと楽になった。アズラは相変わらず蒼明をかなり警戒しているようだけど、蒼明はそんなこと気にする様子もなく、私たちに非常に協力的だった。加えて、地理にも詳しく、私たちは翌日の昼過ぎには激戦区を抜けて、他のD-phoneの生活圏に戻ることができた。
「すみませーん!」
私たちは『修理者』が拠点としている民家の一つに戻ってきた。商店になっている入口を通り、勝手に上がり込む。
「依頼を受けたものですけどー!」
「よく戻ってきたのぉ」
歓迎してくれたのは特殊な改造を受けたメリッサベースのD-phone。長、とみんなから呼ばれている子で、おっとりした口調と柔らかな物腰が特徴で、とても蒼明の話に描かれた残虐なD-phoneだとは思えない。
「依頼されてた荷物で、持って帰れた分です」
「ほうほう、ご苦労なことじゃよぉ。それで、”蒼き稲妻”は退治できたかの?」
長が一段高くなっているそこから、私たちを覗き込むように顔を見せてきた。頭から生えた1対の大きめのアンテナが少しバランス悪そうに揺れた。
「久しいな、長」
そして誰よりも早く、蒼明が一歩前へ名乗り出る。
「蒼明……」
「自ら兵をよこさず、部外者に処分させようというお主の目論見もここまでだ」
するり、と蒼明は刀を抜いた。すかさず私とマレット、ゴウライザーも武装する。これは蒼明の助太刀というより、戦いが始まったらそれを抑えるためだ。いや、私はそうだけど、マレットはどうかな……。
「お前たちがあたしの依頼主を壊したっていうのは本当か!」
アズラも食ってかかる。しかし、長は答えようとはしなかった。代わりにパチンと指を鳴らし、自らのアプリを再物質化しながら部屋中から隠れていたD-phoneたちが、私たちに銃口を向けてきた。
「あんたら、平和の作り方は知っとるかね?」
「平和とは、互いの違いを理解し、同じ目標を持つことによってもたらされる副次的産物であり、争いのないことを示す。理想論とされており、その到達方法によっても争いが発生することが多い」
ドロッセルが淡々と答えた。
「平和は誰かが作るものではない! 自然と生まれた平穏な状況を後世で語るときに使う言葉だ! 誰か1人がそれを意図的に作ろうとするのは、独裁と変わるものか!」
蒼明が声を荒げたのを、ここにきて初めて耳にしたかもしれない。
「ならばわしが長い歴史の中で、初の平和を生み出す者になりそうじゃ」
長のアプリは、背中のデバイスから展開された何門もの砲身だった。その全てが私たちを向き、狙いを定めていた。
「なんであたしの依頼主を倒した!」
アズラが飛び出すと同時に、戦いの火蓋が切られたようだ。周囲のD-phoneたちが一斉に私たちを射撃するけど、素早く散ってそれらをうまく躱した。ブラックラビッツとの戦いとは違い、射撃のタイミングがある程度わかる感じがする。
「なんのことを言っているか、わからんのぅ」
アズラの攻撃を『修理者』のD-phoneの1人が、長に届く前に防いでしまった。
「話じゃあんたら、センチネル・グローリーのD-phoneならなんだって倒すんだってな!」
「あんたの依頼人がセンチネルなら、そうじゃのぅ……バラしたかもしれんのぉ」
「なんだってそんなことする!」
感情だけじゃない、技術もアズラは高く、剣と銃を組み合わせた攻撃に、『修理者』のD-phoneは防戦一方になる。
「敵は倒す、当たり前じゃろう?」
「あの人は戦えなかったんだぞ!」
「敵であることに変わりはせんよぉ。それに、わしらのパーツとなるんじゃ……無駄にしてるわけではないがのぉ?
「だったらまずあんたがパーツになっちまえ!」
アズラが腕のジャミングシステムを起動すると同時に、私たち全員のアプリが消失した。電波遮断だけじゃなく、こんなことができるなんて知らなかった。切り札は最後まで隠すものとはいえ、これは驚きだった。
だけど、これは私たちにとって好都合だった。
「いくよ、蒼明!」
「うむ。遅れをとるなよ、アカツキ」
正直、私たちにできることはなくなってしまったけど、物理的な装備を持っている2人は一緒に敵を睨みつけた。武器を失ったことで戦意を喪失してしまった『修理者』のみんなは、すぐにその場から蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「シーア、店の奥へ行け! おそらくそこに、捉えられたD-phoneが存在するはずだ!」
そう言われて、私はアプリを使えないみんなを連れてその場を離れた。追いかけようとしてくるD-phoneもいたけど、それらをアカツキが押さえつける。
「長よ、その卑劣な行いを今すぐ止め、本来の任務を思い出せ」
「わしの任務は仲間の手当てじゃよ。そのために敵を使うのは、おかしいことではあるまいのぉ?」
「ふざけやがって……!」
殴りつけようとするアズラの手を、蒼明が止めた。
「ここは我々に任せ、お主はシーアとともに行け。もしお主の依頼主が無事であれば、そこで出会うことだろう」
「……」
何か言いたそうなアズラだったけど、しっかりと優先順位を考えて、私たちの後ろに着いて走ってきた。
アズラに一旦装置を切らせ、私たちは再び武装した。いつどこで敵と出会ってもおかしくないから、という理由でだけど、幸いなことに他のD-phoneと遭遇することなく、囚われていたセンチネル・グローリー所属の非戦闘D-phoneたちを見つけることができた。机の引き出しに鍵をかけて押し込まれていたから、一部は充電が切れて動けない子もいたけど、おおむね無事のようだった。
「アズラ!」
「先生!」
アズラもどうやら無事に依頼主と再会できたようだ。少し珍しいフレア型だ。
「先生、無事ですか!」
「えぇ、どうにか……少しパーツを取られちゃったけど。試作のコンデンサーシステムと、アンテナを……」
「それでも無事でよかったです! 腕とか足とか取られてたらどうしようかと……」
本当にホッとした様子のアズラは、すぐに私たちに振り返り、疑ってごめん、と頭を下げた。いや、全然それは気にしてないよ。それより、無事でよかったね。
でも、感動の再会はそこで打ち切りになってしまった。
『シーア、まずいことになってるよ! は、早く戻ってきて!』
アカツキの通信はただならぬ焦り声と、それから直後に轟音。ワクワクした様子でまずマレットが飛び出し、ハンド・マニピュレーターに乗って飛んでいく。続いて様子を見てきます、と走り出したスレイプニル。2人を止めるためにゴウライザーがビーストモードに変形して追いかけ、私も続こうとしたけど、そこで一旦足を止める。
「アズラとライクはみんなを逃してあげて、合流するならそれからで!」
「任せとき!」
「わかった!」
強く頷いた2人に背を向け、私はドロッセルとともに走った。
先ほどの商店部分に戻ると、そこに広がっていた光景は驚くものだった。
まず、さっきまで整然としていた店の中が好き勝手荒らされている。商品である駄菓子はそこらじゅうに散乱し、中身が飛び散っている。棚がひとつ倒れていて、先の轟音の正体がこれだと知る。それから倒れて動かないD-phoneたち。『修理者』のメンバーだ。蒼明とアカツキは無事だけど、どちらも激戦をすでに経験したように疲弊しているのが見てとれた。
「っだぁあー!!」
先に飛び出したマレットがハンド・マニピュレーターを使って渾身のパンチを放つけど、その相手はそれを受け止め、明後日の方向に放り投げてしまった。
巨大なジャバウォックハンド。黒と金に塗り替えられた体に、感情のない瞳。蛍光ピンクの髪が怪しく揺れる。
「ブラックラビッツ……?」
それも三体だ。一つは私たちが戦ったバーゼラルドをベースにしたもの。一つはシルフィーを基本としてるみたいだけど、うさみみはフレア系のものだ。そしてもう一つ、ジャバウォックハンドを振りかざすそれは、そのパーツやシルエットから長だと判断できた。
「な、なんで……」
「シーアか。我が眼前で突然奇声を上げ、突如としてこのような姿に豹変したのだ。理由は解らぬ……が、こうなった以上は戦うしかない」
躊躇する時間はなさそうだった。長のブラックラビッツは私に、今度は多数の砲身を向けて、迷うことなく砲撃してきた。急いで飛び退いて避けるけど、その先には今度はシルフィーベースのブラックラビッツが、真っ黒な剣を構えて待ち構えていた。私も慌てて剣を再物質化して応戦するけど、その重たい一撃に体が吹っ飛ばされた。
「ぅぐあ!」
飛ばされた先が駄菓子の袋で助かった。衝撃が軽減される代わりに、ポン菓子が飛び散ってしまう。とんでもないパワーだ。
「騾」謳コ縺輔○繧九↑縲ら「コ螳溘↓?大ッセ雎。縺壹▽遐エ螢翫○繧」
壊れたような音を立てて、シルフィーベースのブラックラビッツが何か発言した。
「れ、連携を、断つ?」
私はその音を可能な限り拾って、理解しようと声に出してみた。聞き間違いじゃなければ、そう言っている、気がする。確証が持てないけど。
そうこうしているうちに、今度はブラックラビッツたちの標的がスレイプニルに移った。目立った攻撃性能を持たない彼女には逃げることしかできない。しかも、その足の速さにしても、流石に追いつかれはしないものの、初動の速さはブラックラビッツたちも負けていない様子だった。あれじゃ足の関節やモーターを壊してしまう。それとも、そういうのも気にせず戦うほど、狂っているのだろうか。
「ちょっと私と同じくらい早いとか私のアイデンティティが崩壊しますよ! 待ってくださいほんと! 早いですって、っていうかなんですかその武器! 杖みたいなやつ! 見たことないんですけど!」
バーゼラルドベースのブラックラビッツの手に握られていたのは、長い杖の先に玉がついたような武器だった。確かに私も、万能情報管理庫で見た覚えがない。
「あれは!」
ライクと一緒に戻ってきたアズラが声をあげ、手近にあったチョコレート菓子を思いっきり放り投げた。ちょうどそれは走っていたスレイプニルと、迎え撃つ形で待機していたブラックラビッツとの間に飛び込み、ばちん! と大きな音を立てると同時にチョコレートが弾けて、溶けたものがそこらじゅうに飛び散った。な、何今のそれ。
「と、飛び散るのは予想外だけど、あれはマギ・ノッカーっていう武器! 伝導性の強い、えっと、どこっていうD-phoneのメーカーだっけ、が作ったやつ! で、本来は見た目のかっこいいアンテナとか、魔法っぽいエフェクトを先端から出すデバイスなんだけど、今の音とマギ・ノッカーの性質を考えると……意図的に静電気を発生させる、雷を発生させる武器かも!」
スレイプニル顔負けの早口と丁寧な解説。もしかしてアズラって、結構な武器マニア?
「えへへ……って、それどころじゃなくて、今はあれを止めないと! 少しでもあれに触れたら、私たち多分壊れる!」
マギ・ノッカーじゃなくて、静電気を発生させるスタティック・ノッカーとでも呼んでおこうかな。それをバーゼラルド型のブラックラビッツはくるくると回して、近くの駄菓子の包装に少し擦った。ああして初動になる静電気を集めて、自分の電力で強化してるんだな。
「だったら近づかなきゃいいんだよなぁ! しっかり捕まってろ2人ともォ!」
マレットがハンド・マニピュレーターにゴウライザーとアカツキを乗せて上空高く、天井付近まで持ち上げた。すかさずその声に反応してブラックラビッツも襲ってくるけど、ドロッセルと蒼明がそれを止める。
「退路を断てぇ!」
ゴウライザーが吠え、ライクがガレオバスターを放つ。突如放出されたビーム攻撃に一瞬足の止まったブラックラビッツめがけて、ゴウライザーとアカツキがミサイルをこれでもかというほど撃ち込んでいく。激しい音と爆煙が上がり、たちまちその姿は見えなくなった。とはいえ、私たちが戦った子はこれくらいの攻撃を空中で撃ち落としていた。彼女たちに似たような芸当ができても不思議ではない。
「螟ァ遐エ縲∽ソョ蠕ゥ荳崎?縲よゥ溯?蛛懈ュ「縺吶k縲よョ矩崕蜉帙〒豁ヲ陬??蝗コ逹?蛹悶r陦後≧縲よエサ逕ィ縺帙h」
「讖溯?蛛懈ュ「遒コ隱阪?∵ュヲ陬??蝗コ逹?蛹也「コ隱阪?る崕逎∵摶縺ォ繧医k谿イ貊?ス懈姶縲∫カ夊。」
「蟇セ雎。縺ッ蜿ク莉、蝪斐?ゆコ域Φ蟇セ雎。?偵?ょ?縺ォ縺ゅ■繧峨r謾サ謦?○繧」
聞き取れない。電磁杖がどうとか、司令塔をどうとか。機能停止がどうとか。武装の固着? みたいなことも言ってるけど、全部がクリアにわかるわけじゃない。でも一つ確実なのは、次のターゲットはゴウライザーだということだ。彼女を指差している。それはゴウライザーも感じ取ったようで、
「私か……」
「狙われてんのがわかってんなら、迎え撃つだけだから難しくねーよなぁ!」
やる気を見せるマレットに、私はブースターを使って近づき、剣を渡した。先の戦闘とは比べ物にならないほど、剣の扱いがうまい。くるくるとカッコつけて振り回して、その切先をブラックラビッツに向けた。
「来いよ、ポンコツ」
棒立ちになって動かない長だったブラックラビッツから武装であるジャバウォックハンドと多門砲を外し、シルフィーベースの方が自らのデバイスに装着させた。ただ、それが完全に馴染まない様子で、少し変形させてしまう。ちょうど、背中から生えた四本の刃のような形状になり、マレットの挑発に合わせて一本を向け、残り三本を使って自らの体を宙に浮かす形で足とした。
「あれだとかなり安定性と機動力が上がるね。純粋に手数も増えるし、見たことない武装だけどすごくかっこいい……」
見惚れるのはあと。まずはあれを倒さないと。でも、どうやって倒そう。私たちが睨み合ってると、
「菴懈姶螟画峩」
え、作戦変更?
「シーア、奴らの言葉がわかるのか?」
断片的に、だけどね。でも、誰も同意はしてくれない様子だった。おかしいなぁ、微妙に聞こえるよ?
「謨オ蟆?シ偵↓蟇セ縺励?∫援譁ケ繧堤漁縺?カ壹¢繧倶ス懈姶縺ッ謨怜圏繝ェ繧ケ繧ッ繧帝ォ倥a繧九?ょ酔譎ゅ↓謾サ謦?☆繧区姶蜉帙?∽ク崎カウ縺ィ蛻、譁ュ縲よ彫騾?謠先。」
ほら、敗北リスクが高いから……撤退、とかなんとか。
「謠先。域価隱阪?ゅ☆縺ァ縺ォ遐エ螢贋ササ蜍吶?螟壼、ァ縺ォ陦後↑繧上l縺溘?ゅ%縺ョ蝣エ縺ァ縺ョ菴懈姶陦悟虚謌先棡縺ッ蜈??縺ィ縺吶k」
「ぜんっぜんわかんねー」
ブラックラビッツは私たちを一瞥すると、ものすごい速さでその場からジャンプして、壊れた棚へと飛び移り、誰も止められないままに姿を消してしまった。
「あ? なんだ? 終わりか?」
呆気に取られて気の抜けた声を出したマレット。それで私たちもようやく戦場の全貌を見ることができた。どうやら生きているのは私たちだけ……『修理者』の面々は全てが完全に機能停止していた。
戦場はどうやらこの民家を改造した商店だけで済んだようで、騒ぎを聞きつけたD-phoneたちがわらわらとその後やってきた。惨状を見て逃げ出す子もいたけど、アズラの依頼主、先生と呼ばれていたフレア型は先導して片付けを手伝ってくれた。
「それで、この『修理者』たちはどうする?」
蒼明が聞くと、先生は腕を組み少し唸ってから
「とりあえず、直せそうなら直してみようかな。どうしようもない子は、パーツに使うしかないけど……」
「あの街の復興もありますからね!」
そうね、と先生はアズラに微笑んだ。
「人手は多い方がいい、私たちも残ろうか、シーア」
「あ、それなんだけど」
ゴウライザーの提案を断るような口調で、先生が声を上げた。
「二つ、依頼があって。報酬は、その、この状況だし、出せないかもしれないけど……あなたたち、旅をしてるのよね?」
「おー! 強いやつを探してな!」
「アホ、そらあんたの目的や」
「なら、この子をブレーデン・エレクトロニクス本社に届けて欲しいの」
彼女が手渡してきたのは、球体状の機械だった。私たちの背面デバイスに装着できそうな箇所もある。
「これは試作コンデンサーユニット。私はとある研究のために戦地での実地研究をしてて、そのデータを届けないといけないんだけど、流石にこの状況を放っておくこともできないから……」
「もちろんです先生!」
それを受け取って、承諾の握手をしたのはアズラだった。
「困ってる人を助けるのは当然のことですよ! 私たちはそのために存在しますから! ねぇシーアちゃん!」
スレイプニル的にはそうだろうね。でも、ゴウライザーもうんうんと頷いてるし、誰も反対する様子はない。
「お願いします、アウトサイダー隊のみなさん」
ペコリと頭を下げた。どうやらその中にはすでに蒼明も、アズラも、アカツキも含まれているらしい。
「元々、次の施設へ向かわねばならない我が身だ。旅する隊に同行させてもらえるならありがたい」
「私も、特に行くところないしっ。一緒に行かせてもらえるなら、すごく心強いよっ」
「決定だ! よーし、みんな、アウトサイダー隊、ファイトー!」
「なんでアズラが仕切るんや。隊長はシーアやで? なぁ?」
私、それに同意したことな……いや、そういえば名乗ったなぁ。でも、みんながそれがいいと思うなら、私も異論はない、かな。多分。
「それじゃあ、アウトサイダー隊、出発しよう!」
次の目的地は、ブレーデン・エレクトロニクス本社だ。