BHA 三眼鏡筒の清掃

BHA には手を出すな

BH シリーズはF 型顕微鏡以降オリンパスの方針を決めた代表的な顕微鏡ですが、驚くべき事に発売は1974年ですので、ほぼ最新機種と言って良いでしょう。おそらく一家に一台ある顕微鏡の一つといえるでしょう。

BH2 シリーズの多様化の影に隠れてしまったことやJIS 規格の三眼筒であること、拡張性が少なかったことから世間では見向きもされないことがありますし、ネットでも情報源が著しく少ないです。かといってとても良い機種かと言えば疑問をもつようなE、F 型からの中途半端なグレードアップで(以下略)。つまりはコレを買ってもあとで後悔するので私は決して進めません。ですがAA コンデンサを使いたいがために私はBH を二台所持しています(一つはドナー)。ドナーはBHB ですが、どうやら三眼鏡筒が著しく汚れており、産業廃棄物一歩手前の状態でした。ヤフオクではこのような状態モノばかりが出品されることが多いと思うので、私はこの機種は絶対に手を出さない方が良いと口を酸っぱく説明しています。

BHB 三眼鏡筒の入手

ヤフオクで「状態良い」とされていたBHB の三眼鏡筒のご尊顔

左側接眼のプリズムはもう息をしていません。いっそハンマーで息の根を止めたいと思う破壊衝動を抑え、数少ない仲間を助けるために応急処置をすることにしました。

分解清掃開始

BH シリーズにはメンテナンスマニュアルが存在しません(少なくともネットには)。自力で行くしかないです。パーツをこんこん叩きながら空洞の状態を確認しまし、下側から分解するのが効果的だと考えました。

中心部分から分解できそうです。

プラスドライバーで簡単に外すことができました。この時点で既にカビが生えていて萎えました(...ああ、もうだめだ)。

中心部分の保護レンズを回収しましたら、四隅のネジを外します。いきなり外すと破壊につながります。このあとの文章を注意深く読んでください。

三眼鏡筒をこの向きで固定してネジを外します。ネジは長いです。

ネジを外しつつ倒れないように手で固定し、上蓋を優しく剥がします。

実はこの時点でお気づきかと思いますが、BH の三眼筒はBH2 の分解方法と大きく異なります。おそらく中身も違うはずです。ここからは勘だけで一気に進めました。

JIS 規格のカメラマウンターです。内側は埃まみれなのでよく清掃します。

金属製で良くで来ていると思います光の乱反射を最低限に抑えるために内側は黒色だと思っていましたが、必ずしも全てが黒というわけではなさそうです。

中から蚊の死骸が出てきました。このあと供養しました。

プリズム清掃

こちらが三眼の内部です。

レバーを引くことで視野+カメラと視野のみを切り替えるようです。

上から除くとプリズムの移動がよく分かります。当時は1970年代はデジタルカメラがなかったためかカメラのみという選択肢は用意されていなかったようです。

カビと埃まみれです。三眼筒から舞い降りた埃がたまったようです。蚊のいた痕が残っています。長年固着していたのでしょうか。プリズムは光を浴びて虹を作っていますね(現実逃避

もうどうしようもないのでレバーを動かしながら長方形のプリズムをのぞき穴から清掃することにしました。黄色い接着剤を剥がすとさらに分解できますが、絶対に辞めた方が良いです。形は戻せても収差や乱反射が起こる可能性が極めて高いです。あと先に埃を除いた方が良いです。

接眼の分解清掃

この顕微鏡は届いた時点で接眼レンズが紛失しており中には埃がたまっていました。当然カビまみれで、始まる前から終わっていました(最初の写真参照)。

接眼部分はおそらくギミックがあるはずです。こういうときは閉じた状態で進めるのが無難です。ネジを外していきます。

一通りのネジが外せたら内部のネジを外します。慎重に接眼部を開きます。

このときL字定規のメモリがはずれます。お忘れ無く。

次に三眼筒をひっくり返して限界まで開きます。すると端にネジが見えます。

このネジは接眼部の黒いカバーを固定するネジです。慎重に外してください。

次に接眼レンズ部分のレバーを分離します。ここでは小型の6角or星型トルクを使用します。

くるくる回すととれます。どうやら接眼微調整部分は3点で固定されているだけのようです。

これで接眼を裸にすることができました。ようやくプリズムに近づきました。

接眼プリズムの清掃

接眼はぐるぐる回せばとれます。

その後銀色のカバーを外してください。

銀色のカバーがぐらぐらします。

上下のレーンが外れます。

もう後戻りがで来ません。ようやく左、中央、右プリズムにアクセスできるようになりました。

カビの映えていたプリズムを取り出しました。カビが生えています。プリズムは接着剤で固定されているのでアクセスできません。

収差覚悟で接着剤を剥がしました。すでに硬化しているのでカッターで細かい振動を与えたら空中分解しました。その後プリズムを力業で剥がし、1時間ほどカビを取りました。

コツは無水エタノールで限界まで吹き上げ、その後めがね拭きで跡が残らないように丁寧丁寧丁寧に拭きます。その後、接着し直しました。

この中央部分は分岐プリズムがありますので、それもカビが生えていないか確認して清掃します。

分岐プリズムの後ろにはもう一つプリズムがあります。これは対物レンズを通った光が通過する場所でもあります。

カビまみれでした。

すでにこの時点で集中力が切れて元気が無くなっていたので、5分ほど適当に拭いたのですが、全く取れる気配がしません。傷が付いてもいいやの覚悟で無水エタノールと綿棒で20分ほどゴシゴシとキレイキレイしました

片付け

逆順で組み立てていきます。埃の混入には気をつけてください。

銀色カバー→黒色カバー→接眼アタッチメントの順です。あとは簡単です。

完成?

BEFORE くすんで埃まみれでした

AFTER 初めからこのクオリティで届いて欲しい

BEFORE カビ生えてて除く気が失せます。

AFTER カビの跡が消え、深淵から覗かれている気がします(それは俺だ)。

追記 (プリズムの調整)

上記の清掃の後にプリズムのズレに気がついたので再調整した。プリズムの調整は本当にしんどい。実はコレがずれると健康上の問題にもつながるため、これが勧められない理由だった。

プリズムの調整は三眼の写真筒を外した状態で接眼を広げるレール部分をネジで緩めた状態で行う。コントラストが強いグリーンフィルタで調整し、微調整は色収差を確かめるためにブルーフィルタでおこなう。

以下に「何を」、「どう」調整するかを簡単に説明する。

要は「何を」いじるのか?


実物の三眼鏡筒の写真

ざっくりと表示した三眼鏡筒のプリズム位置

プリズム1号はカメラにつながる、プリズム2号は左と右に同じ像を投影する、プリズム3号は左と右の接眼につながり、眼球へ像を投影する役割がある。

具体的なイメージ図になるが、もし左目のプリズムがずれていたらどうなるかというと左図で示したように像が縦に歪み左目は右目寄りの上に像が投影されることになる。そのため、顔傾けて観察する必要が出る。ただし、投影される像は立体的に前のめりに歪むため、頭の中に映し出される像は歪に融合されてしまうため、大抵の人は具合を悪くし、視力も著しく低下してしまう。

E鏡基の例になってしまうが、光を当てて左右をのぞき込んだときに、同じ像がプリズム内の同じ位置に映っている必要があるわけだ。それが上の様にずれると体調を悪くするような致命的な問題につながる。

要は「どう」直すのか

これが何故起きたのかというと、清掃の時にプリズムと接眼を外してしまったので眼球に像が移る位置がずれてしまったため、微調整が必要になった(プリズム3号が投影する位置を上下微調整されていなかったということ)。

解決方法としては、接眼をつなげる部分を上下左右それぞれを調整して左右の眼球の同じ位置に像が投影されるようにしなければいけない。

おそらく工場出荷では何らかの方法によってこの左右の投影のズレを修正していたのだと思いますが、私はそれを知るすべはありません。以下に簡単な方法ではありますが、左右の像を等しく映し出す方法を書きます。

要するに接眼レンズを取った状態でグリーンフィルタから漏れる光を軸調整すれば良いと思いつきました。

反対側から見るとこんな感じです。

固定してしまえばいいのです。

具体的な手順

接眼鏡筒のカメラ接続部分を外します。

接眼固定パーツを外し、ネジでぐらつく程度に固定します。

対物レンズを10x にセットし、L/H レバーをL にします。

テストプレパラートのフォーカスを固定します。

コンデンサのセンタリングを正しく調整します。

フィールドしぼりを2割ほどに絞ることで紙に光を投影します。

紙に投影された光が接眼レンズ接続部分の中心に当たるように接眼部分を左右それぞれ調整します。

例えば左の写真であれば左側が中心軸からずれていますので、接眼部分のネジを緩めやや下向きにずらし、右に軸を寄せます。

IMG_9448.MOV

正しく調整調整できているかは動画のようにフィールドしぼりを広げることで左右同じ動きをするのか、ゆがみがないのか、などを比較して微調整していきます。これをより詳しくやるためには専用の道具が必要になりますが、ある程度は紙に投影した像で微調整することがで来ます。

ちなみに動画ではセンタリンが左にずれていますね笑、でも左右共に同じ像が投影されているので、ずれなくできたということです。めでたしめでたし。

今回のBH 三眼筒クリーニング、2.5時間で完走した感想は「二度とやるか」でした。光学系がわからない人や不器用な人、分解が苦手な人は、悪いけど絶対にぶっ壊すので辞めた方が良いです。っていうか、BH とBH2 の三眼は互換製がありますから、おとなしくBH2 の三眼筒買ってどうぞ。これはマジな話で性能が上がってますし、接眼レンズの選択肢が広がります。初代BH のなにがダメかというと「WF10x」がバルサム切れする。とにかくバルサム切れする。完動品はなかなかない。せめてYASHIMA の接眼レンズを使うか、わざわざBH2 時代の接眼レンズを買うことになる。それならいっそ初めからBH2 の三眼筒を買った方がお財布に優しいはずですし、C マウントも簡単に付けることができます。そのため無理にBH の三眼筒を使い続ける本質的に意味は意味は全くありません。私はBH のフォルムが好きなので使っているだけです。何か文句ありますか?


おわりに

さて、BHA やBHB は照明を除きほぼ全マニュアルで動かす顕微鏡です。そのため使うためには、顕微鏡本体の仕様書の読み込みだけではなく、顕微鏡の知識も求められます。LB レンズやL/H レバーは初見殺しそのものです。それにパーツはもはや手に入らず、有限・短勁レンズは技術的にも全てがストップしているため軽い気持ちで手を付けると損、いや大損をすることは希によくあります。そのため今からこの機種を中古で購入を考えている方は、潔く別の機種にすることを強く勧めます。

たしかにこのような清掃メンテをすることで顕微鏡の本質的な仕組みを学ぶこともできますし、照明の大切さをinput することができれば顕微鏡に新しい楽しさがわくかもしれませんね。ただし、今回の対物レンズより上の部分の清掃はネジ一個のミスが大きな収差につながる事はよくあることなのです。ですから、私は何度も言いますが、絶対にマネしないでください。また、最後に一言言わせてください。

オリンパスのCX は良いぞ!ニコンのECLIPSE は良いぞ!まじで操作性が良いぞ!

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