子のう菌類について

菌類とは

菌類は動物や植物に並ぶ主要な分類群の一つです。 菌類は抗生物質, 発酵食品や酒類の嗜好品など人類に有用な側面をもたらしますが水虫や肺炎などの真菌症、文化財や建築物の腐朽の原因菌や、農作物の減収に関わる植物病原菌などの経済的・社会的に脅威となる側面もあります。これらの点から菌類は我々の生活に密接な関わり合いをもたらす存在であると考えられます。


子のう菌類の分類学上の複雑性

菌類最大のグループである子のう菌類は、その生活環の有性世代と無性世代で、それぞれ異なる形態をもちます。菌類の多型的生活環(一つの種が生活環ごとに異なる形態をもって生活すること)は、地衣類のスペルマチアとのつながりを指摘したTulasne (1851) によって初めて報告されました。その後の研究でde Bary (1854) はEurotium herbariorum Asperguillus glaucus が同一種の有性世代および無性世代の関係にあることを明らかにすることで同様の結論を示した。Selecta fungorum carpologia において、Tulasne & Tulasne (1861, 1863, 1865) の詳細な観察に基づく一連の研究は、高等菌類が有性世代と無性世代で明らかに異なった形態をもつことを示した。これらの研究により、不完全菌類が独立した分類群ではなく、 高等菌類の別の姿であるという認識が一般に受け入れられました。しかしながら、有性世代が不明の分類群は、子のう菌類や担子菌類と同一のカテゴリーに並べることができないため、暫定的なカテゴリーである不完全菌類 (Fungi imperfecti) として扱われました (Fuckel 1873)。この分類学的提案はSaccardo (1882) のSylloge Fungorum に採用されました。

うどんこ病菌の生活環. Tulasne & Tulasne (1861) Selecta Fungorum Carpologia 1 から引用

子のう菌類の分類の問題点

子のう菌類は不完全菌類とは別に伝統的に有性世代の子実体の形態学的特徴に基づき分類されてきました。 近年では、分子系統解析による裏付けのもとで門、綱レベルの整備がされつつある (AFTOL 参照)。一方で, 現行の分類体系は有性世代によって科を特徴付けているため、無性世代しか知られていない不完全菌類の多くは分子系統解析に頼らなければ系統を推定できない状況にあります。


有性世代に偏った分類体系の問題点を解決するために、全生活環に基づく分類体系構築の試みはすでに行われてきた。たとえば類似した有性世代の特徴をもつ閉鎖子のう菌類のMicroascaceae とTrichocomaceae は, それらの無性世代の形態学的特徴から明瞭に区別されました(scopulariopsis 型 vs. penicillium /asperguillus 型)。しかしながら, それらの試みの中で全生活環が判明している分類群が少ないこと、形態学的特徴のみで不完全菌類の系統は推定できないことから、全生活環に基づく分類体系は限定的にしか構築されませんでした。分子系統解析が登場した現在においても、不完全菌類の属や種は系統を反映しない人為的な特徴付けに基づくため、不完全菌類を従前の分類体系のシステムに単純に組み込むことはできておりません。

子のう菌類の分類体系における問題点

同一の生物の生活環の違いだけで分類体系における扱いが大きく異なっている

分子系統解析登場以前の子のう菌類の分類体系の変遷

分子系統解析登場後の子のう菌類の分類体系の変遷

・AFTOL (第一)

・Deep hypha

・AFTOL (第二)

時代の推移を知るための重要な総説

子のう菌類全般

地衣形成菌類全般

現在の試みと成果

Please see "研究紹介".