回「純水館・房全・敬三・藤村」学び講座の記録

           2023年2月19日(日)  会場 南湖公民館

           『』             講師:岸 一弘(茅ヶ崎純水館研究会 会員)

           『糸取り』体験         講師名取龍彦(茅ヶ崎純水館研究会 会員

 蚕の生態について、詳しく話していただきました。

 学名はボンビックス・モリです。ボンビックスは爆弾(ボンブ)に由来するようで、カイコガのメスはフェロモンを出してオスを誘引するのですが、ほかのカイコガの仲間も寄せ集めてしまったところからその名がついた様です。また、モリはモールスで、桑の事です。つまり桑の虫という事です。 

 多くの皆さんにご参加いただきました。

 蚕の生態に興味を持っている方も、生糸の座繰り体験に興味を持って集まっていた方もいました。集まっていただいた方々に、純水館茅ヶ崎製糸所のことも説明させていただき、興味を持っていただきました。大変うれしいです。

生糸の座繰り体験

 本物の座繰り機を使って、煮だした繭から繭糸を取る体験をしていただきました。10個ほどの繭から繭糸を取り、それを撚りながら、糸枠に巻き取りました。細く、強く、艶やかな糸を見ながらの体験でした。皆さん興味津々で、交代で、座繰り体験を楽しんでいただきました。

演題:『蚕の生態に関する話』

講師:岸 一弘氏(茅ヶ崎市役所景観みどり課 茅ヶ崎純水館研究会員)

 

蚕、和名はカイコガと言います。学名はボンビックス・モリです。ボンビックスは爆弾(ボンブ)に由来するようで、カイコガのメスはフェロモンを出してオスを誘引するのですが、ほかのカイコガの仲間も寄せ集めてしまったところからその名がついた様です。また、モリはモールスで、桑の事です。つまり桑の虫という事です。

蚕は野生のものではなく、今から5000年以上前の中国で、野生のクワコを基に作られた、人が作った蛾、昆虫です。

次は蚕の一生についてです。産卵直後の卵は白いのですが、幼虫にかえる前の卵は黒っぽくなります。幼虫にかえることをふ化と言います。最初の幼虫の時は毛が多い、毛虫になります。その後4回脱皮して5齢幼虫となります。5齢=終齢(幼虫としての最後の形)となり、繭を作ってその中で蛹になり、成虫となるというのが蚕の一生です。卵から成虫になるのは26日くらいなのですが、蚕の一生は2か月もない、短い一生です。

カイコガの品種によりますが、成虫が現れるのは、1年に1回から3回のものがあります。作られたものなので、品種によって違いがあります。

幼虫の身体についてです。幼虫の頭は先端のごく一部です。目は小さくてわかりづらいです。3対6個の脚があるところが胸でその後ろから腹になります。腹には4対の脚、腹脚があり、その後ろに尾脚あります。お腹側にある脚は成虫ではなくなってしまいます。

次は生態についてです。普通の蝶や蛾の幼虫は餌を求めて動いていきますが、カイコガはほとんど動かないで、餌がなくなっても頭を振るくらいで、ずっと待っているかわいそうな虫なんです。成虫は羽がありますが、飛ぶことはできません。成虫になった場所をぐるぐる回るくらいです。人が世話をし、餌を与えないと生きていけない、牛やニワトリなどと同じような、昆虫ですが家畜のような生きものと思っていただければいいです。

次は、こちらです。なんでしょうか。そうです。モスラです。モスラは、蚕をモデルにした怪獣映画です。

次は蚕によく似た野生の蛾についてです。クワコは蚕によく似た種類で、属は蚕と同じボンビックスで種だけが違い、マンダリナです。繭は黄ばんでいるので、色が悪く糸は利用できません。夏と冬の初め、年に2回成虫が出てきます。冬は卵で冬越しをします。

次は繭を作る仲間です。ヤママユです。繭は黄緑色でとても綺麗なので、蚕より高級な織物の原料になります。ヤママユの仲間は茅ヶ崎でも見られます。クスサンやウスタビガがいます。クスサンはクスノキなどの葉を食べます。繭は荒く、昔は釣り糸のテグスに使われていました。ウスタビガのタビは漢字で書くと手火と書き、これは提灯の事です。昔の人が繭を提灯に見立てた。そんな繭の形をしています。ヤママユの仲間もう2種類。シンジサンはニワウルシなどの葉を食べます。オオミズアオもいますが、これらの繭はどちらも人間にとって用途のない種類です。

昆虫の幼虫は糸を吐くのですが、繭を作らない種類もいます。これは蝶の仲間で、ヒメアカタテハです。幼虫は糸を張って巣をつくるが、繭は作らない。ナガサキアゲハは繭を作らないで糸を蛹の体に引っ掛けます。蛹は裸の状態です。

蝶や蛾の仲間以外にも、繭を作る種類が少しいます。これはコマダラウスバカゲロウです。アリジゴクの仲間です。岩のところにいます。次は甲虫の仲間で、アルファルファタコゾウムシです。ムラサキウマゴヤシという牧草を食べるゾウムシです。目の粗い繭を作ります。

昆虫に近い仲間で糸を出す仲間にクモがいます。糸を出して網を張ります。クモの場合は、糸を吐くのは口からではありません。お尻のあたりから出すのが昆虫とは違います。

カイコガの幼虫の食物についてです。カイコガは桑の葉を食べます。蚕を育てるために中国から持ってきたマグワと在来種のヤマグワがあります。ヤマグワは在来種ですのでよく見かけます。葉だけでは、見分けることは難しいです。葉の形も違ったものもあります。切り込みがあったりなかったりしますが、同じ種類となります。雄の花が咲き、次にメスの花が咲いて実がつきます。桑の実は最初赤いですが、5月になると黒くなってきて、食べられるようになります。神奈川県では、2010年に養蚕農家はなくなっています。

蚕は人工飼料でも育てる事が出来ます。これは桑の葉を粉状にしたものと大豆を粉状にしたものや糖とかビタミンを加えたものです。これをスライスして与えます。

次は蚕の糸がどこで作られているかです。

蚕の糸は絹糸腺で作られます。身体の中では液状で、口から出て糸となります。終齢になると体の大部分が絹糸腺になります。蚕の餌を食べる口と糸を出す口は別のところにあります。繭が完成するのには、2~3日かかります。

糸の断面を見ると、中側がフィブロインで、外側をセリシンがまわりをくるんでいるような状態になっています。蛹から羽化した成虫は液体酵素を出して、セリシンを溶かして繭から出てきます。

蚕の繭は1本の糸で作られており、糸の長さは1.5キロメートルほどあります。

ヤママユは天蚕とも言います。飼育が面倒です。糸は緑色で艶があり、綺麗で高価な織物の原料になります。

現在では蚕の糸が色々な用途に使われています。シルクを粉状にして美肌効果のあるシルクパウダーとしたり、生糸から抽出したシルクアミノ酸化粧液や石鹼などです。抗がん剤治療の患者にとって被ってストレスのかからない、医療用のシルク帽子が作られ、人工血管の原料となっています。また、診断薬の原料やホルモンやフェロモンや遺伝子組み換えなどの研究に蚕が使われたりしています。


講演と体験講座『生糸』

講師:名取 龍彦(茅ヶ崎純水館研究会会員)

 

現在の日本で、生糸を生産している製糸工場はたった4か所となってしまいました。

糸取りを見たことがある方はいますか。養蚕を見たことがある方はいますか。

蚕は屋根裏に飼ったりしていたのですが、5齢位になると雨が降る様なすごい音をたてながら桑の葉を食べるんです。

生糸と絹。少し違いがあります。生糸は繭から繭糸を取って、撚りをかけたものです。そして、生糸からセリシンを取り除いたものが絹になります。

それでは糸にはどんな種類があるでしょうか。綿花からできる木綿糸は植物からできる糸です。羊毛からできる毛糸は動物からできる糸です。ナイロン、ポリエステルは石油からできます。

生糸の特徴は何でしょうか。人をひきつける魅力があるからシルクロードができ、世界に広がったのですが、どんな魅力があるでしょうか。

生糸は細いけれど、強いです。光沢があって綺麗で、触った感じもいいのが特徴です。他にも吸湿性や保温性が良いということがあります。絹がすれる音のことを「絹なり」と言います。これも日本的で優美なものです。

これは100均で買った糸で、ポリエステル系の糸です。これには「シルクのような光沢と質感」と書いてあります。石油から作る糸で生糸に迫ろうとしているのですが、そこまで行っていないのが現状です。

蚕についてです。天の虫と書いて、蚕です。蚕は人間が初めて家畜化した動物です。

蚕に関する産業は3つあります。蚕種業、養蚕業、製糸業です。蚕種業はカイコに卵を産ませてそれを販売します。養蚕業は約1か月の間蚕を育てて繭を出荷します。製糸業は繭から生糸を作ります。

茅ヶ崎の地図をご覧ください。大正10年頃の桑畑の地図記号を赤丸で塗りました。茅ヶ崎市の広い部分に桑畑があったのがわかります。

この歌『赤とんぼ』、皆さん知っていますね。作曲者は?山田耕筰です。茅ヶ崎ゆかりの人物です。南湖でこの曲を作曲しました。2番が大事です。山の畑の桑の実を……。身近にあった風景なのですね。桑の実を食べたことのある方は?口の中が真っ赤になってばれちゃいますね。

製糸業についてです。この写真は座繰り器です。江戸時代以後の様子です。純水館では、この座繰り器ではなく、機械でやっていました。糸を取るためには、お湯で繭を煮る必要があります。ここにあるものは、事前に煮てあります。ここから糸を取ったら何メートルになると思いますか。1500mくらいになります。

画面にあるのが検尺機です。長さを測る機械です。検尺機の周囲は1.125mです。400回転すると450mになります。繊維の太さの単位はなんでしょう?デニールです。9000mで重さが1グラムの糸の太さが1デニールとなります。2グラムなら2デニールです。

 

このあと参加者が実際に座繰り器を使って糸取り体験をしました。検尺機の巻き取り部分を使って作った手製の検尺機で繭糸の長さを計ってみました。