都留文科大学文学部国文学科教授
教職支援センター長/国語教育学ゼミ顧問
野中 潤
◆未来の教室で「浦島太郎」にならないために
私が聖光学院中学・高等学校での28年間の教員生活を経て、都留文科大学に着任したのは2016年のことでした。以来、私は一つの危機感を抱き続けてきました。それは、教職を志す学生たちが大学で学んでいる4年間のうちに、外の世界—すなわち中等教育の現場が「未来」へと変貌してしまい、いざ教壇に立った時には彼らが「時代遅れ」になってしまうのではないか、という懸念です。
私はこの現象を、冗談めかして、しかし真剣な憂慮を込めて「浦島太郎化」と呼んでいます。
この「浦島太郎化」を回避するために、私は着任以来、教育のデジタルシフトを強力に推進してきました。2016年4月の着任と同時に、学習支援ソフト
「ロイロノート・スクール」の活用を開始し、同年10月には大学の承認を得て G Suite for Education(当時の呼称)を導入しました。2019年に開始されたGIGAスクール構想より以前から、ICT活用の重要性を説き、クラウドツールの導入と実践的研究に力を注いできたのです。大学という象牙の塔に閉じこもるのではなく、常に現場の最先端、あるいはその少し先を見据え、学生たちをそこへ導くことが私の使命だと考えてきました。
◆生成AIという「黒船」と、加速する学び
そして2022年、ChatGPTの登場によって世界は一変しました。教育界にとっても、これは明治維新の黒船にも匹敵する衝撃でした。
私は即座に、この生成AIを国語教育に取り入れるべきだと判断しました。それは単なる新しもの好きだからではありません。これからの時代を生きる児童生徒にとって、AIを使いこなすリテラシーは、読み書きそろばんと同等の必須スキルになると確信したからです。教師を目指す学生がAIを使えなければ、児童生徒の未来を閉ざすことになりかねません。
現在、私のゼミや授業では、以下のようなツールを日常的に活用しています。
学習支援・LMS系
Google Workspace for Education:協働学習の基盤としてのクラウド活用。Google Classroom、ドキュメント、スプレッドシート等を統合的に運
用。
ロイロノート・スクール:着任当初から活用している学習支援ソフト。思考ツールやカード機能を用いた、視覚的で双方向的な授業設計。
Gemini Gems(カスタムAI):特定の用途に特化させたカスタムAIを作成・活用。授業目的に応じた専用の対話型AIアシスタントの構築。
生成AI・デザインツール系
ChatGPT / Claude / Gemini:教材作成の補助、思考の壁打ち相手、模擬授業のフィードバック生成など、多岐にわたる活用。
NotebookLM:膨大な資料からの知見抽出や、学生自身の研究ノートの整理・対話的な深掘り。
Canva:視覚的に魅力的な教材やプレゼンテーション資料の作成(Canva認定教育アンバサダーとして、 デザイン思考と教育の融合も推進していま
す)。
その他多様なAIツール:Genspark、Gamma、SUNO、Napkin、Perplexity、Feloなど、用途に応じた専門特化型AIも授業内で紹介・体験。学生には「AIツールの引き出しを増やす」ことの重要性を伝えています。
これらのツールはもはや「未来の技術」ではなく、現代の教室における「文房具」です。これを使いこなす学生たちの姿こそが、これからの国語教育のスタンダードになると信じています。
◆時に「置き去り」にしてでも、前へ進む
正直に申し上げましょう。私の進める改革のスピードは、時に速すぎると感じられるかもしれません。新しいツールが登場すれば、翌週の授業内容をガラリと変えることもあります。ついてくるのに必死な学生、あるいは戸惑う学生がいることも承知しています。
定年が近づくこの時期、本来であれば穏やかにこれまでの知見をまとめるべきなのかもしれません。しかし、私はあえてアクセルを踏み込み続けています。技術の進化が加速度的である以上、教育者である私たちが立ち止まることは、すなわち後退を意味するからです。
時に学生を置き去りにしてでも前進する—それは一見冷淡に聞こえるかもしれませんが、最終的に彼らが教壇に立った時、目の前の児童生徒に対して胸を張って「未来」を語れる教師であってほしいという、私なりの愛の鞭であり、責任の果たし方なのです。
◆YouTubeでの発信と、開かれた研究室
ゼミ活動の一環として、また私個人のライフワークとして、YouTubeチャンネル「教育DXコンサルタント野中潤の研究室」での発信も続けています。ここでは、大学の講義だけでは伝えきれない具体的なツールの操作方法や、最新の教育ニュースに対する見解を、包み隠さず公開しています。また、最近はnoteでの執筆活動にも力を入れており、より深い考察や実践報告を文章として残しています。
国語教育学ゼミは、単に「国語の教え方」を学ぶ場所ではありません。「言葉」と「テクノロジー」を掛け合わせ、新しい時代の学びをデザインする研究所です。
変化を恐れず、常にアップデートし続ける覚悟のある学生諸君と共に、まだ見ぬ国語教育の地平を切り拓いていけることを楽しみにしています。
※カバー画像は、2016年度のゼミ生たちと撮影した実際の記念写真をもとに、Google NanoBananaに生成させたものです。
国語教育学ゼミでは、最新のICTツールや生成AIを活用した新たな教育アプローチを探求しています。実際の教育現場を訪れたり、現役教員の方を招いての講演などを通じて最新のツールを教育にどう活用していくのかを学びます。卒業論文の執筆にも生成AIを取り入れるなど、革新的なアプローチを積極的に実践する、まさにこれからの時代の最先端を体感することができる活動を行っています。
ChatGPT / Google Gemini / Google Notebook LM / Gamma / Snow AI / Claude / Canva / Google Workspace / ロイロノートスクール / Microsoft Teams / Slack など
国語教育学ゼミでは、ゼミ活動日の昼休みを利用してショートセミナー「ランチゼミ」を開催しています。お弁当を食べながら、教育現場の最前線や多様なキャリアに触れるカジュアルな学びの場です。現役の教員の方からの講演やゼミ生のフィールドワーク報告など、色々な角度から最新の教育トピックについて学びを深めることができます。
ゼミ生以外の参加者も大歓迎ですので、もし気になった方がいましたら、参加お待ちしています。
◉公立・私立・校種の違いを知る
・「私立小学校の教員という仕事」
・「あらかじめ知っておきたい、公立高校のあれこれ」
・「教育困難校と進学重点校について」
◉若手教員の悩みと成長
「なんちゃって教師2年目の葛藤と迷い」
「スーパーティーチャーは教員採用が苦手」
◉最先端の教育事情
・「N高校フィールドワーク報告」(学生による視察報告)
・「N高が教育業界に突きつけたこと」
・「今どきの中高生の情報教育」
◉授業を変えるICTとマインド
・「アウトプットで授業が変わる」
・「教育ICTをめぐるトークセッション」
・「教師が何を教えるかではなく、生徒がどのように学ぶか」
◉異色のキャリア・体験
・「美術教員の南極出張117日」
・「空を飛ぶ夢ーICTと熱気球」
・「演劇と国語教育をめぐる対話」(俳優をゲストに招いて)
◉社会課題・生活
・「お金の話をしよう」
・「不登校の子どもの気持ちに寄り添うために」
・「スマホ語講座:ネットの恐さと対処法を考えよう」
令和7年度卒業生の卒業論文一覧です。
PISA型読解力との関連から見た国語教育における論理的思考力育成
生成系AIによる定期テスト作成の有効性検証―中学校国語科「読むこと(小説)」を対象に―
YOASOBIの「小説を音楽にする」試みと国語教育における応用
「可愛い」の違和感 ― 平成女児リバイバルの商業化に対する「当事者」世代の倫理的抵抗 ―
国語科における戦争教材教育の再構築:戦時中教科書を援用した批判的平和教育の可能性
日本のテレビ放送における言語自主規制の構造と変遷
博学連携による古典文学学習の可能性
不完全情報ゲームにおける仮想プレイヤーとしての生成AIの可能性 ―マーダーミステリープレイヤーとしてのテストプレイ実践 ―
SNSにおける用語の語義変化‐「泣いた」「死ぬ」の分析から‐
文学教育における「価値観の断絶」をどう乗り越えるか ―古典教材の批判的再読と教育実践の提案―
高校スポーツ実況がもつ国語教育の可能性
伊藤計劃『虐殺器官』における「ことば」
以下で、令和7年度の卒業論文の電子ブックを公開していますので、令和7年度卒業生の卒業論文が読むことができます。気になった方はぜひご覧ください!
野中ゼミには、個性豊かなゼミ生が所属しており、みんなで楽しく活動しています。国語教育学に興味がある方はぜひ見学やランチゼミの参加をお待ちしています。
以下は、令和7年度のゼミ長たちからのメッセージです。
【4年ゼミ長から】
私たちのゼミは、明るく前向きなメンバーが集まり、AIの可能性を探究しています。
さまざまなAIを実際に使いながら、「どう活用できるか」「どんな学びにつながるか」を考え続けています。
楽しい雰囲気の中にも、AIと真剣に向き合う時間があります。
一緒に新しい学びを作っていきましょう!
【3年ゼミ長から】
国語教育学ゼミでは、「国語の授業ってこれからについて生成AIの視点から考えています。国語教育の指導にAIをどう活かせるのか、逆に大切にすべき国語の力とは何か――みんなで話し合いながら探究しています。
難しそうに聞こえるかもしれませんが、ゼミの雰囲気はとても和やか。新しいことにチャレンジしてみたい人、これからの教育にちょっとワクワクしている人にぴったりのゼミです。一緒に「これからの国語教育」を考えてみませんか?