中世には、動乱の世相を反映して『平家物語』『太平記』などの軍記物語が作られました。宮廷女房による文学も健在で、かなの日記が書かれ、王朝風の物語も残されます。和歌は綿綿と詠み続けられ、鎌倉時代以降、『新古今和歌集』以下14もの勅撰和歌集が成立します。また、和歌から連歌が派生し、連歌師として宗祇などが活躍しました。世阿弥が作り演じた能が楽しまれ、人々が狂言に興じるというように、芸能の方面でも新たな展開が見られます。中世文学は多種多様―雑多ともいえますが、興味深く魅力的な事象に満ちています。中世文学ゼミでは、森のような作品世界に分け入り、各自が自由にテーマを設定し、課題を探究していきます。 3年次のゼミでは、作品をひとつ取り上げ、精確に読み解いていきます。今年度は、『百人一首』を、『百人一首宗祇抄』という室町時代の注釈付きの本にそくして、読解しています。各自が一首を選んで担当、和歌がどの歌集から採られたのか、作者はどんな人かについて確認し、ことばの意味、表現の特徴、詠歌の背景などについて調査します。これらに基づいて、和歌と宗祇抄の注を精確に解釈したうえで、調査・考察する中で見出した課題について探究した内容を示します。
紫式部 めぐりあひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにしよはの月かな→この歌の読解はこちら
古典文学は、墨で筆写された写本によって広まり、伝えられてきました。江戸時代になると、版本(写本を基に作られた版木による木版本など)も普及します。現代では一般にいわゆる活字本として刊行された古典文学作品が読まれているでしょうが、活字になっているのは一部の作品にすぎません。文献調査のためには、活字化されていない写本、版本も読む必要があります。また、活字本のある作品についても、写本・版本の姿にたちもどって吟味することで、新たにわかってくる事実もあります。
ほととぎすは、夏の代表的な景物。古典和歌にもとてもよく詠まれます。百人一首には、後徳大寺左大臣(藤原実定)の
ほととぎす鳴きつるかたをながむればただ有明の月ぞ残れるが選ばれています。
都留では、5月ころから、朝昼夜を問わず、ほととぎすの声をよく聞くことができます。
えっ本当!?ほととぎすの由来の物語は→こちら
各自のテーマはさまざまですが、一例として、昨年度の卒業論文の題目を掲げておきます。
◇藤原良経の和歌における「松」と「風」について ◇『新古今和歌集』恋歌中における景物の表現 ◇『金槐和歌集』の動物が登場する和歌 ◇初期の恋歌題詠について ◇葦を詠む和歌 ◇「ありあけの月」考 ◇『とはずがたり』における物語摂取の考察 ◇『平家物語』における平知盛像とその受容 ◇平重盛と平宗盛―覚一本と延慶本を通して― ◇平家物語における芸能表現について ◇言葉からみる『閑吟集』の特性