目に見えないもの

マラソン大会が無事に終わりました。今年も笑顔あり涙ありの充実した時間となりました。

宝保育園は運動会に限らずマラソン大会でも、きっちりと勝敗をつけて順位を決めるのが伝統です。少し前のことになりますが、「みんな並んで仲良くゴール」というやり方が保育・教育現場で流行したことがあります。そんな時代もわたしたちはかたくなに勝敗をつけるやり方にこだわってきました。


遊びのなかで勝ち負けを経験するのは大切なことだと思うからです。勝つために努力することや勝つ喜びを味わうという意義もあります。

それよりも大切なのが負けを経験することです。悔しさを抑えて勝者を称える。転んでも立ち上がりゴールを目指す。そんな「敗者の作法」をしっかり身につけて欲しいと願っています。

長い人生において勝ち続ける人などいません。ほとんどは勝ったり負けたりです。社会に出ればなおのこと、実は負けることの方が多いのではないでしょうか。負けた時にどう振る舞うかが、その人の人生を左右するといっても過言ではないでしょう。


さて、ここからが本題です。勝敗にこだわる宝保育園ですが、実は勝敗よりも大切にしていることがあります。それは大切だけれど目に見えないものです。

ぞう組のA君とB君は1位を目指して競り合い、僅差で勝負はつきました。私の目に映った二人はどちらも「勝者」でした。でも敗れたB君は悔し涙を流しました。

彼の心は金メダルよりもずっと貴いものを手に入れたことでしょう。涙の奥にある目には見えないもの。

子供がマラソンを通じて得たのは、順位やメダルだけではありません。1位の子も最下位の子もみな、目には見えないけれど素晴らしいものを手に入れました。

苦しいけれど最後まであきらめなかった強さ。お友だちを応援する、そして応援してもらう嬉しさ。仲間と一緒に走りきった達成感。鼻の奥にツンとしみる冷たい空気。走っているうちにあたたまってくる体。走り終えたあとに飲む水のおいしさ。どれもこれも目には見えません。


順位という結果も大切ですが、そこに至るまでの過程も同じくらい大切です。

目に見える成果も大切です。でも見えないものに心を寄せるのを忘れた時、人は大切なことを見失うのかもしれません。

大会は終わりましたが、長いマラソンはこれからも続きます。子供たちは今日も走ります。目には見えない何かを追いかけて。

「ほんとうに大切なものは目に見えないんだよ」 サン=テグジュペリ『星の王子さま』