春の風物詩

新入園児のAちゃんの泣き声が聞こえます。クラスの中で落ち着いて生活することがまだ難しいようです。当然でしょう。初めて会うたくさんの子ども達に囲まれ、今までずっと一緒だったお母さんと離れて生活しなければならないのですから。

初めて見る保育室、初めて食べる給食…。特にお昼寝時はいけません。周りの子がさっさと眠ってしまうと、一層寂しさが募るのかもしれません。

Aちゃんの泣き声がこちらに近づいてきます。担任のB先生にだっこされて図書室にやってきたようです。「絵本を読んでみる?」「うん」二人が小声で話す声がかすかに聞こえてきます。一対一でゆったりと過ごすうちに、次第にAちゃんの気分も良くなってきたようです。

「みんなと一緒におやつ食べようか」先生に促されて、Aちゃんがクラスに戻って行きました。ほっとしたのもつかの間。再びAちゃんの威勢のいい泣き声が聞こえてきました。もう少し時間がかかるようですね。

進級してお部屋と先生が代わったC君は、朝の登園を渋っているようです。今まで自分でやっていた朝の着替えも、「ママやって」に逆戻りしてしまいました。入園した子も進級した子も、多かれ少なかれ新しい環境に戸惑いを感じています。

でも、担任の先生は全く焦っていません。今は一人ひとりの気持ちにじっくりと寄り添う時期。だんだんと慣れていくことを分かっているからです。

ほら、同じクラスのD君をみて下さい。友達と楽しくお話しながらおやつを食べています。昨年度入園したばかりの頃は、毎朝お母さんとの別れ際に号泣し、お昼寝も先生の背中で泣き寝入りという日が続いたものです。今ではそんなことがあったのが嘘のようです。

心配はいりません。泣き声は保育園の春の風物詩みたいなものです。初夏の訪れを感じる頃には、Aちゃんの笑い声が園庭に響いていることでしょう。