挨拶

3歳のY君が、お父さんに抱っこされて門から入ってきました。「おはよう。」私が声をかけると、お父さんの肩に顔をうずめます。「ほら、ちゃんと挨拶して。」困り顔のお父さんに促されて、Y君はやっと私と視線を合わせます。でも、それが今日の精一杯です。

少し泣いてきたようなその目を見ながら、私は近所に住む卒園児のH君を思い出していました。

道路際の植木の手入れをしている時でした。「こんにちはス!」大きな声に驚いて振り向くと、黒い詰襟姿のH君です。出だしの曖昧な「こ」と最後の「ス」が、いかにも当世高校生風ですが、明るく大きな声が好ましく感じられました。しばらく高校生活の話をした後、自転車のH君を見送りました。

思い起こせば、在園当時の彼は、朝の挨拶がからきし駄目でした。機嫌の悪い時は目も合わせない。いい時でもごにょごにょ呟く程度。それが小学校に入った途端、通学途中に「おはよう」と手を振っていくようになりました。高学年になると「ございます」と恥ずかしそうなお辞儀が加わり、中学生になると部活仕込みのはきはきした挨拶に変わっていきました。

園庭のおままごとに参加していると、Y君が近寄って来ました。「さっき会ったね」と言いながら、照れくさそうに私の袖を引っ張ります。二人で顔を見合わせ、にこっと笑いました。Y君流の素敵な挨拶に、今日は朝からとてもいい気分です。