愛情のコップ
A君が、りす組の前にある階段でつまずきました。おもちゃのコップが落ち、砂がとびちりました。ひざを押さえています。
たたかいごっこの最中だったB君が、遊びをやめてかけよってきました。A君のひざをさすりながら、顔をのぞきこんで話しかけています。何を言っているのか聞こえませんが、言葉でつたえるのが苦手なA君を気づかう様子がうかがえます。
そうこうしているうちに、他の子たちも集まってきました。「Aくん大丈夫?」という声が聞こえてきます。どうやら大したことはなかったようです。
そういえば以前、小学校の先生がこんなことを言っていました。「低学年で泣いている子がいると、子供たちがワーッと集まってくるんです。どういうわけか、たから保育園出身の子が多いんですよね」
転んだ仲間を気づかう子どもたちを見て、私はうれしくなりました。
とりわけB君です。担任からの報告で名前があがるのは、たいてい友だちとトラブルをおこしたときでした。たたいたり、らんぼうな言葉をなげつけたりして、相手を泣かせてしまうこともありました。
他のクラスの先生もまじえ、何度も話し合いをしました。B君の心のうちを思った時、強くしかるだけでは逆効果になると先生たちは考えました。担任の先生は根気強くB君につきあいました。お母さんもB君の気持ちに寄り添いつづけたようです。そのことが何より大きかったのだと思います。
担任の口から聞く最近のB君の様子は、以前とはだいぶ違うと感じていました。お母さんや先生が注ぎつづけた愛情が、ようやくB君のコップを満たしたのでしょう。溢れたものを他のコップに分け与えるように、お友だちのことを気づかえるようになったのかもしれません。
A君が立ちあがりました。コップをひろうと砂を入れはじめます。やまもりになったコップを差しだすと、B君がそれを受け取りました。