変身

午前8時。きりん組のE君がヒーローになりきって、人気のまばらな園庭を飛び回っています。退屈な書類仕事から逃がれるように、ぼんやりとその姿を眺めていると、E君が気付いて事務室の方に近づいてきました。

「としひろ先生、何してるの?」

「E君が仮面ライダーに変身するところを見ているんだよ」

「もう…変身してるんですけど…」

おっと失礼!私の目が節穴でした。“今は「仮面ライダーのすごい僕」なのに、どうして分からないの?”少し怒った顔がそう言っているようでした。その後も5歳の仮面ライダーは保育園の平和を守っていましたが、しばらくすると飽きてしまい、飼育箱のザリガニをつつき始めました。

ヒーローに変身したり、お花屋さんになったり、子どもたちは「ごっこあそび」が大好きです。あこがれの対象に自分を重ね、まだ幼く曖昧な「私」の内と外を行ったり来たりしながら、次第に「私」という存在の輪郭をつかみ取っていくのかもしれません。

子どもだけではありません。大人だって毎日のように変身しています。ひげを剃り、仕事着に袖を通し、口紅を塗り、制服に身を包む。「変身!」と声には出さないものの、あなたも毎朝少し違う「私」になって、職場に向かっていくのではないでしょうか。

親としての「私」、社員としての「私」、娘としての「私」。いろんな「私」がいるけれど、どれもが本当の「私」。成長するというのは、「私」の顔が増えていくことなのかなとも思います。

私も「としひろ先生」から「副園長」に変身し、書類に目を戻しました。ああ、計算ミスをしないコンピューターに変身したい!