創造のよろこび

「創造のよろこび」を知る人になってほしい。そんな思いから始めたのが「粘土大作戦」です。大げさな名前はちょっとしたあそび心です。

園庭でとれた粘土を精製して焼き物をつくるという試みです。自分で作った器で給食を食べるところまでもっていきたいのですが、なかなか思うようにはいきません。なにせ綿密な計画には縁がなく、「思いつき」と「ノリ」と「かん」がこの作戦の信条だからです。

失敗と試行錯誤をかさね、むしろその過程を楽しみながらここまできました。先日は、ぞう組有志とともに、自分たちで精製した粘土で試作品をつくり、野焼きにしてみました…

大人のビジネスの世界では、マニュアルで業務内容をさだめたり、目標を数値化したりということがよく行われます。管理する方は、仕事を標準化することで質を一定にし、成果にもとづいた評価もしやすくなります。働く方は、何をすればいいかはっきりしていて楽だし、達成感を味わいやすくなります。

これに似た手法が、保育の世界でもてはやされるようになりました。とび箱やアルファベットなど活動内容を明確にさだめ、評価軸をあきらかにすることで、成果を目に見えるようにするというものです。

こうした保育は「分かりやすい」のが特徴です。やることが決まっているから、あれこれ悩む必要がありません。マニュアル化 された指導法のおかげで、保育者による質のばらつきは最小限になります。「とび箱7段とべた」「アルファベットぜんぶ書けた」など成果が目に見えるので、子供は達成感を味わいやすく、保育者は安心、親も満足です。

一部だけならいいですが、こうした手法が子供の活動時間ぜんたいを覆いはじめると、「創造のよろこび」はあっという間に窒息してしまうでしょう。


地面から土を掘りだし、乾燥させ、くだき、ふるいにかけ、水に入れて精製する。その過程で粒子はこまかくなり、滑らかな手ざわりになっていく。しかも初めからうまくいく訳ではなく、なんども失敗をかさねる。なぜかを考え、誰かに教わり、やってみる。

そこには、自分の手で何かを生みだしているという、ゆるぎない実感があります。これこそが「創造のよろこび」です。外からは見えません。分かりにくくて、評価しにくいし、時間もかかります。

さて、薪もすっかり燃え尽き、灰の中から粘土のかたまりを取りだしました。ほとんどがまっ黒になっていますが、きれいに焼けたのもいくつかあります。

はてさて、この差はいったい何なのか。子どもと一緒にとりくむ問題がまた見つかったようです。

「幼児期に、よみかきと勘定とを早くおぼえさせることは、あまり意味がない。幼児期に必要なのは、創造のよろこびを知っている人間に仕上げることだ」松田道雄『育児の百科』