プロジェクトX 砂場の挑戦者たち

平成28年2月25日号

「人が通れるトンネルを作ったら、ご褒美をあげよう」

砂場で遊ぶ子供たちに投げかけた園長の一言が全ての始まりだった。どうせできるわけねえべという園長の薄笑い。子供たちの負けん気に火が付いた。「ぜったいに作ってみせる…」

この物語は、大型トンネル開通に情熱をかけ、保育園の砂場に奇跡を起こした子供たちの七日間の記録である。

従来型工法の限界

「やっぱりダメか」今週に入って3度目の崩落事故が発生した。幸い負傷者はいない(当たり前である)。砂山の残骸をみながら、現場監督のA君は肩を落とした。トンネルを掘るところまではよい。問題はその後だ。 トンネルの壁を削って広げていると、何度やっても砂山が崩れてしまうのである。

もうあきらめるしかないという雰囲気が砂場全体を覆い始めた時、技術主任のB君が口を開いた。「巧技台を使ってみよう」巧技台の木枠をトンネルの構造として利用しようというアイデアである。早速、みなで木枠の上に砂をかけていく。崩れない。子供たちの瞳に再び火がともった。

画期的な新工法が開発された瞬間であった。(特許出願中)

度重なる作業員間のトラブル

トンネル工事に最も必要なのはチームワークだ。しかし、現実は甘くない。「足を踏まれた」「砂がかかった」「お腹がすいた」。あちこちでトラブルが起こる。先生が介入すれば、すぐに問題は解決する。でも、そんなことでは年長児の名誉にかかわる。

子供たちは次第に、自分たちでトラブルを解決する術を学んでいった。トンネル開通という共通の目標が子供たちを一つにしたのだ。

自然と各自が作業を分担しはじめた。砂山を築く者、木枠の隙間を埋める新聞紙を調達しに行く者、トンネル内の清掃作業をする者、…そして給食の献立を確認しに行く者。

いつしかぞう組は、年長児に相応しい団結力を手に入れていた。

トンネル延伸の要求、そして完成

「やった、完成だ!」歓声をかきわけるようにして、Cちゃんが園長を呼びに行く。トンネルを見た園長が言い放った。「んー、もう少し長くないとね」

ご褒美をやるのが惜しくなったのだろう。しかし、そんな嫌がらせにひるむ子供たちではない。木枠を連結し、あっという間に延伸工事は完了した。

本日(2月25日)の午後、子供たちはいつものおやつに加えて、ご褒美のマシュマロをもらうことができた。だが、子供たちが獲得した本当の「ご褒美」は、マシュマロなんかよりずっと価値のあるものだったに違いない…(完)