クレヨン

職員会議の席で、A君について報告がありました。その日はクレヨンを使ってお絵描きをしたそうです。みながクレヨンを使い始めた中、A君はクレヨンに巻いてある紙を剥がすことが楽しくなってしまい、とうとう全部のクレヨンの紙を剥がしてしまったということです。A君は普段からみんな一緒の活動が苦手な時もあり、担任のB保育士は対応に悩んでいる様子でした。

B保育士の頑張りは誰しも知るところです。保育室からはいつも彼女の朗らかな声が聞こえてきます。時々とちるピアノはご愛嬌。子どもが帰ると、昼間とはうって変わった真剣な表情で、遅くまで保育の準備をしている姿をしばしば見かけます。

その時、ベテランのC保育士が、「紙をぺりぺり剥がすのって楽しそうだよね」と笑顔でつぶやきました。少し張りつめていた空気が緩み、B保育士の表情も心なしか柔らかくなったようです。

クレヨンに巻いてある紙は、手を汚さないためについているものです。本来は剥がさずに使うべきでしょう。しかし、子どもの気持ちになってみれば、紙をはがすというのも楽しい遊びの一つです。頭ごなしに止めさせるのも考えものです。

B保育士もそのことはよく分かっています。会議で他の職員達からも肯定してもらい、安心したのかもしれません。短いやり取りの中でそんなことを感じました。

「A君については、やり方を工夫しながら手を掛けていきたいと思います。それから…」B保育士はこう続けました。「何でもよくできるDちゃん等への配慮が足りなくならないよう、同時に気を付けていきたいと思います。」

数年前の採用試験で会った時のあどけない学生は、もうそこにはいません。私の目の前にいるのは、まぎれもない一人前の保育士でした。

春がやってきます。たから保育園では、子どもと共に保育士も成長しています。