かこさんが残した言葉

(平成30年5月)

さる5月2日、絵本作家のかこさとしさんが92歳で亡くなりました。『からすのぱんやさん』『だるまちゃんとてんぐちゃん』『どろぼうがっこう』など、誰でも一冊くらいはかこさんの絵本を知っているのではないでしょうか。

かこさんが19歳の時、日本は戦争に負けました。戦時中は勇ましいことを言っていたくせに、負けたとなると「本当は初めから戦争には反対だった」などという大人を見て、かこさんは失望し、何もかも信じられなくなりました。

その後かこさんは、会社勤めのかたわら、長年にわたって川崎でセツルメント活動に情熱を注ぎこみました。セツルメントとは、今でいうところのボランティアのようなものです。子供たちを集めて、自作の紙芝居を見せていました。その時の紙芝居がもとになり、多くの絵本が生みだされたのです。

かこさんが晩年に著した『未来のだるまちゃんへ』という本の最終章に、「これからを生きる子どもたちへ」と題する文章があります。未来への希望を語るかこさんの言葉は、胸にぐっと迫るものがあります。へこたれている場合じゃないぞと、なんだか勇気がわいてきます。

追悼の意を込めて、今回はその一部を引用いたしましょう。あなたの子どもと、そしてかつてはやはり子どもだったあなたに、この言葉を贈ります。


生きるということは、本当は、よろこびです。

生きていくというのは、本当はとても、うんと面白いこと、楽しいことです。

もう何も信じられないと打ちひしがれていた時に、僕は、それを子どもたちから教わりました。遊びの中でいきいきと命を充足させ、それぞれのやり方で伸びていこうとする。子どもたちの姿は、僕の生きる指針となり、生きる原動力となりました。それを頼みにして、僕は、ここまで歩いてきたのです。

だから僕は、子どもたちには生きることをうんと喜んでほしい。

この世界に対して目を見開いて、それをきちんと理解して面白がってほしい。

そうして、自分たちの生きていく場所がよりよいものになるように、うんと力をつけて、それをまた次の世代の子どもたちに、よりよいかたちで手渡してほしい。

どうか、どうか、同じ間違いを繰り返すことがないように。

心からそう願っています。

かこさん、これからは、雲の上の「かみなり公園プール」でのんびりと過ごしながら、わたしたちのことを見守ってください。