おひとりさま

園庭のあちらこちらに「おひとりさま」がいます。隅っこにいることが多いようです。

砂場では数人がかりでトンネルを作っている横で、黙々と穴を掘るAちゃんがいます。

泥んこでじゃれ合っている子供たちを尻目に、一人で流れてくる水をせき止めてダムを作っているB君がいます。

他の園にお子さんを通わせているお父さんから相談されたことがありました。「うちの子は友達と一緒に遊べなくて…」4歳になるその子は一人で虫取りやお絵描きをしていることが多いそうです。寡黙で内気な性格についても担任の先生が心配しているとのことでした。

年齢と共に徐々に友達との関わりが増えてくるのが標準的な子供の発達の姿です。保育の教科書にもそう書いてあります。ただし発達には個人差があります。標準のラインにぴったり沿って発達していく子供など一人もいません。4歳になったのにあまり友達と関わろうとしないからといって焦る必要はありません。

加えて見過ごされがちなのは「黙々と一人で遊ぶ」ことの大切さです。集団で遊ぶよりも一人で遊ぶのが好きな子もいます。それは発達の遅れではなく、個性の問題と見るべきでしょう。集団で遊ぶのが好きな子もいれば、一人で遊ぶのが好きな子もいるというだけです。

子供の遊びというと大人はつい「集団でワイワイ遊ぶ」姿をイメージしがちです。確かに「集団でワイワイ遊ぶ」のも、社会性を身に付けていくためには大切です。しかし「一人で黙々と遊ぶ」のもまた同じくらい意義のある遊びの姿だということを忘れてはいけないでしょう。

学校に上がれば、グループ活動を上手く進め、人前で堂々と発表する子が評価されることが多いかもしれません。しかしご承知のように、学習の肝心な部分というのは本来一人で黙々と取り組むものです。集中して一人遊びができる子は、すでに学校での学習への準備ができていると言ってよいでしょう。

優れた技術者や研究者に「子供時代はどんな風に遊んでいましたか」と質問すれば、「一人で何かに取り組むのが好きだった」という答えがたくさん返ってくるのではないでしょうか。たくさんの人を率いている企業経営者の中にも、実は「一人で黙々と」が好きな人が多いそうです。

タイヤ跳びのタイヤを埋めるため、園庭に穴を掘り始めました。いつの間にかやって来たB君が隣で一心不乱に掘っています。私は離れた所に腰をおろしました。

戦いごっこをしていた他の子たちが穴の周りに集まってきました。「いれて」「いいよ」皆が一斉に掘り始めます。賑やかな穴掘り大会になりました。ふと気がつくと、シャベルを動かす子供たちの輪の中に笑顔のB君がいました。