あたたかい

バスを降りた途端、湿った冷気に全身を覆われました。麓より2~3度は低いでしょうか。今年の筑波山登山は厳しい道のりになりそうな予感です。

最初の難関である長い階段でA君ら数名が集団から遅れ始めました。「あともう少しだよ、がんばって!」先に休憩所に着いたB君やCちゃんの声が聞こえてきます。

木々に覆われた日陰の道に入ると、数日前の雨で道はぬかるみ、濡れた落ち葉で滑りやすくなっています。子供のジャージと軍手はあっという間に泥だらけになってしまいました。

D君が転びました。「大丈夫?」すぐ後ろにいたE君が声をかけると、あちこちから仲間を気遣う声があがります。「ダイジョウブ!」みんなに励まされてD君はすぐに立ち上がりました。

すれ違った年配の女性がFちゃんにたずねました。「みんな何年生?」「ほいくえん…たから保育園です」Fちゃんの答えに女性はびっくりしたようでした。「年長児ですよ」私が付け加えると、女性はしきりに褒め、拍手で見送ってくれました。子供たちは得意気です。

最後の岩場ではお父さんたちが寄りそいます。まるで子供を守る「七人の侍」のようです。足を滑らせて泣いてしまったG君に、H君のお父さんが手を差し伸べます。「ほらG!しっかりしろ!」 力強い励ましにG君の涙がぴたっと止まりました。

やっと山頂にたどり着きました。晴天なら眼下には素晴らしい景色が見えるはずなのですが、霧のため何も見えません。それでも神社で山の神様にお参りして感謝します。「今年も無事に登りきることができました」

「お腹すいたよ」の声にうながされ、お弁当を食べる予定の展望台に向かいます。ところが地面が濡れてシートを敷けません。おまけに雨も降ってきました。楽しみにしていたお弁当なのに…。

レストハウスに事情を話し、テーブルを使わせてもらえることになりました。恐る恐る席料のことをたずねると、「気にしないでください」とのこと。無償の善意に感謝です。

暖かい室内に腰を下ろすと、子供たちに笑顔が戻ってきました。ひさこ先生、めぐみ先生と楽しくおしゃべりしながら、おうちの方の愛情がいっぱい詰まったお弁当をいただきました。お菓子の交換が始まるころには、いつも以上のにぎやかさになっていました。

寒くて冷たい登山でした。泥だらけになって、紅葉を楽しむこともできませんでした。でもなぜでしょう、私の心はホカホカでした。

「ぞう組のみんなと、遠足に関わった大人のみなさん、あたたかい心をありがとう」