あこがれのフラッグ

(平成29年10月25日号)

ぞう組(年長児)のフラッグ演技は、すばらしい出来栄えでしたね。運動会が体育館での実施となったため、地面のラインや目印もふだんの練習とは違っていました。先生たちはずいぶん心配しましたが、そんな必要はなかったようです。子供たちは見事な演技を見せてくれました。

ぞう組さんたちに、ひときわ熱い視線を送っていたのが保育園の「小さな子」たちです。きりん、うさぎ、りす組の子供たちの瞳は、フラッグを振るお兄さんやお姉さんへの「あこがれ」できらきらと輝いていました。


運動会が終わって数日ほどたったある日、園庭から聴きなれた曲が響いてきました。フラッグ演技の音楽として使った、ゆずの「OLA !!」です。

「ぞう組さんにとって、運動会はまだまだ続いているんだな」と思いながら園庭をのぞき込み、びっくりしました。フラッグを持って歩いていたのは、りす組(2歳児)の子供たちだったのです。ただ振り回しているだけではありません。音楽に合わせて行進し、リズムよくフラッグを動かしています。

はじめは怪我をしないようにと、棒を外してフラッグの布だけを渡したそうです。でも、それでは子供は納得しません。子供だって「本物」の方がいいのです。担任の先生は、おそるおそる「本物」のフラッグを渡してみました。すると、不思議なくらいトラブルは起きなかったのです。

それだけではありません。いつもはダンスをやりたがらないA君は、自分から進んで踊り始めました。みんなと一緒に何かをするのがちょっと苦手なBちゃんも、輪の中に入っています。教えたわけでもないのに、振付もだいたい覚えているようです。

「まーえ、よーこ! まーえ、よーこ!」先生の掛け声に合わせてフラッグを振り、みな楽しそうに踊っています。


運動会前から、ぞう組さんの練習の様子をよく見ていたのでしょう。年上の子たちと一緒に生活し、同じ時間を過ごすうちに、自然と「かっこいいなあ」「わたしもやってみたいなあ」という気持ちが育まれてきました。

この純粋な「あこがれ」がぐんぐんと膨らみ、りす組の子供たちは自発的にフラッグをやるようになったのだと思います。これが「指導」という形をとっていたらどうなっていたでしょうか。ここまで進んでやるようにはならなかったかもしれません。

「あこがれ」を育むのはフラッグだけではありません。子供たちは、年上の子のやることを実によく見ています。ぴかぴかの泥団子を作ったり、積み木で見事なお城を作ったり、かわいらしいお姫様の絵を描いたり。保育園には「あこがれ」の対象がたくさんいます。

保育園の子供だけではありません。兄姉、お父さんやお母さん、時には先生や、地域の大人の姿を間近で見ながら、子供の心の中では「あこがれ」が育っていきます。そしてこれが次第に「自ら成長しようとする力」になっていくのですね。


フラッグの行進に目を戻すと、いつの間にか年長児のC君が入っていました。りす組さんたちに振付を教えています。「はい、もっと手を伸ばして!」自信に満ちた姿です。自分が「あこがれ」の対象になっていることが誇らしいようです。どうやらC君の心のなかにも、何かキラキラしたものが芽生え始めたようですよ。