(6) 屋久島・土壌劣化

九州大学に赴任してきてから、屋久島における鹿害の惨状を伺うにつけ、

ともかくこの惨状を科学的に可視化する必要性があると感じ、予備調査を開始しています。

屋久島は、その多様な地質と気候環境、そして島という外界から隔絶された地理環境から、独自の進化を遂げた固有種が多く存在し、生物多様性が世界的に見ても極めて高く、その貴重性から1993年に世界遺産に登録されています。

しかし現在、戦後の狩猟制限や森林伐採の進行、猟師の高齢化など、多くの社会的要因が複雑に絡み合った結果として、屋久シカが爆発的に増加し、下草植生の食害が顕在化しています。 ちなみにこの下草植生の食害は、屋久島だけに限った問題ではなく、広く日本中で顕在化している問題です。

この下草植生の食害は、屋久島に固有の草本種の絶滅を引き起こすとともに、本来であればコケや下草によって覆われていた土壌表層の急速な裸地化を引き起こします。この土壌表層の裸地化は、急峻な地形が多く、年間降水量が平均で4000mmを超える屋久島では、深刻な土壌侵食(本研究ではこれを“土壌劣化”と定義する)を引き起こしています。

しかし残念ながら、これまでに屋久島において土壌侵食量を正確に評価した研究例はなく、現在どのような速度で表層土壌が失われているのか、という、極めて基本的な情報すらないのが現状です。

そこで私は、土壌侵食量を実測するとともに、防柵ネットを設置している中でも土壌侵食量を実測することで、防柵ネットの効果も定量的に数値化し、可視化したいと考えています。

またこれに加えて、土壌中に存在する養分量がどれだけ防柵ネットの有無で変わるのかに関しても解明することで、防柵ネットの設置による土壌環境の改善効果を可視化したいと考えています。

これらの研究を実際に進めるためには、国有林や世界遺産指定地域内での研究を進める必要があり、関係省庁への許可申請を現在進めています。

鹿による下草の食害により、下層には何も生えていないのがみてとれます。

現地で研究を進めている共同研究者によると、

食べる下草がなくなった地域の鹿は、

下に落ちている葉っぱまで食べているそうです。

それが本当であれば(勿論本当なのですが)、

鹿の食害は、土壌侵食を引き起こすだけでなく、

従来であれば土壌に還元されていた養分(落葉)をも減少させていることになります。

このあたりも量的な関係をぜひ明らかにしてみたいものです。

この地域の鹿は、人を見ても逃げません。。。

可愛いのですが、この鹿が世界遺産を食い尽くさんばかりに行動していると思うと、

やはりなんともいえない難しさを感じざるを得ません。