履歴

◎研究歴

ジョン・ロールズは『正義論』で「民主的平等」の考え方を提示した。それが戦後福祉国家の射程を大きく拡張したことは間違いない。だが、その上にも、リベラリズムが共通に抱える「一元主義(モニズム)」の影が忍び寄る。A. Senが提唱した「公共的討議」に基づく社会的選択理論と潜在能力アプローチは、このモニズムを超える手法として注目される。

潜在能力アプローチは、財空間上で定義される予算集合と効用関数に加えて、機能空間上で潜在能力集合ならびに評価関数を定義する。この拡張されたモデルはシンプルながら、強力だ。機能ベクトルに対する本人の主観評価と、本人が実際に選択できる機会集合を明示化することによって、個人の合理的選択という経済学の永遠の課題に新たな光を当てる。

この潜在能力アプローチが、「公共的討議」に基づく社会的選択理論と結びつくとき、財の社会的分配において、多様性の事実に基づく規範的な平等が構想される。すなわち、財を機能に変換する個人の利用能力(いわば生産関数)上の不利性に配慮した「(福祉的かつ行為主体的)自由」の平等である。けれども、その操作的定式化の方法は自明ではない。

私は、個人の合理的選択の構造と意味を、哲学的に再吟味しながら、潜在能力アプローチによってミクロ経済理論を拡張する方法、ならびに、事実としての差異をふまえた規範としての平等理論を探究してきた。