肺がん

【肺がんについて】

*下線を引いた検査は、当院で受けることが出来ます。

①肺がんと喫煙、リスクファクター(危険因子)

喫煙が肺がん発症の危険を高めることは、今や小学生でも知っている事実です。国立がんセンターの研究によれば、「喫煙したことがない人が肺がんになる危険を1とした場合、喫煙男性では危険は4.4倍に、喫煙女性では2.8倍に」なりました。さらに本人は喫煙しなくとも、「周囲で喫煙している人の煙にさらされる受動喫煙も肺がんのリスクを1.3倍に高める」ことが判明しました。タバコは肺がんの危険を高めるだけでなく他の臓器のがん発症の原因にもなります。さらにCOPDや心筋梗塞などの疾患の発症とも密に関係していることが明らかとなっています。「喫煙する人は自らお金を払って重い病気になる危険を買っている」ということですから、まさに人生をかけたギャンブルをしていることになります。

職業性の危険としては、石綿(アスベスト)のばく露(吸入)が知られています。石綿を扱う職業としては直接石綿原料を扱う仕事の他に、石綿セメント管(水道管など)や石綿スレートを切断する仕事、石綿の吹き付け作業、自動車のブレーキライニングを扱う仕事、などがあります。石綿のばく露は肺がん発症の危険を高めることが知られています。海外の報告では、「喫煙しない人の肺がんの危険性を1とすると、喫煙者は10倍、石綿ばく露者は5倍、喫煙をする石綿ばく露者は約50倍になる」とするものがあります。喫煙のリスクと比較すると低いようですが、アスベストばく露歴も肺がん発症の危険になるのです。

ここまで読んで禁煙を決意した人は幸いです。さらに禁煙を達成した人は人生を変えた可能性があります。しかし、「本気で禁煙する意思があるのにどうしても出来ない、禁煙をしているとどうにも我慢ならなくなり吸ってしまう」というニコチン依存症の場合には、禁煙達成のための補助薬を使う方法があります。プラーナクリニックの禁煙外来では、補助薬を用いた禁煙指導を行っています。禁煙の決意が固まった方は、どうぞご予約下さい。

<日本対がん協会 禁煙ポスター2016>

・タバコの焼け焦げで肺が壊れていくイメージ。

②肺がんの早期発見

肺がんの早期発見のためにはまず、「年に1度は住民健診やかかりつけ医療機関で胸部レントゲン検査を受けること」をお勧めします。胸部レントゲン検査で発見される異常のすべてが肺がんとは限りませんが、体の表面からはわからない深い体内の話ですから、やはりレントゲン検査が基本となります。

ところで、喫煙者と非喫煙者とでは生じる肺がんの特徴がやや異なります。 喫煙者では気管や太い気管支などの、中枢部と呼ばれる肺の付け根にがんが生じやすい傾向があります。このため「咳や血痰などの自覚症状がみられやすい」という特徴があります。一方このタイプの肺がんは「ある程度大きくならないと通常の胸部レントゲン検査やCT検査ではわかりにくい」場合があり、注意が必要です。このため、痰を採取しがん細胞が混じっていないかどうかをみる検査(喀痰細胞診検査)を追加することが勧められます。

非喫煙者の肺がんの多くでは、末梢部と呼ばれる肺の奥に生じやすい傾向があります。早期には多くの方が無症状です。早期発見のためには、住民健診やかかりつけ医療機関で胸部レントゲン検査を受けましょう。「血縁に肺がんの人がいる」「家族に喫煙者がいて受動喫煙の影響が心配」という方には、低線量CTという被爆の少ないCT検査を行うことをお勧めします。詳細につきましてはプラーナクリニックまでお問い合わせ下さい。

なお、住民健診を受けている場合でも以下のような注意が必要です。「異常を指摘されたが無症状だから」「昨年精密検査をして異常がなかったから今回は調べなくても大丈夫」などと、そのままにしてしまうことは危険です。

血液検査で肺がんがあるかどうかを診断することが出来るでしょうか。例えば前立腺がんではPSAと呼ばれる腫瘍マーカーを測定することが有効といわれています。肺がんの場合、CEA、シフラ、SCC、ProGRP、NSE、などといった腫瘍マーカーに異常が認められる可能性があります。しかし「これらの腫瘍マーカーは肺がんの早期発見には役立たないことが多い」ということを知っておきましょう。つまり、肺がんが小さくがん細胞の量が少ない場合は、腫瘍マーカーは異常な値を示しません。逆に言えば、異常値がみられる場合、がんはある程度の規模になっている可能性がある、ということです。

<胸部レントゲン検査>

・こちら向きのレントゲン写真。右肺(向かって左側)に円形の腫瘍がみえる。

③肺がんの症状

②でお話したように、「多くの肺がん患者さんは無症状」です。では肺がんに関連した症状がみられるとすれば、どのようなものがあるでしょうか。

気管支や肺の症状としては、長引く頑固な咳嗽、血痰を含む喀痰、息切れの出現や悪化、呼吸困難、などがあります。がんが胸の中心にある神経を傷つけると声が嗄れたり、ものを飲み込むときにむせやすくなったりする場合があります。また、がんが胸膜(肋膜)や胸壁、肋骨や背骨に転移したり、直接浸潤(食い込むこと)したりすると、その部分が痛くなることがあります。

胸部以外の症状としてはどのようなものがあるでしょうか。熱が続く、食欲がない、体重が減少した、などのはっきりしない症状の場合もあります。転移の症状として、首のリンパ節が腫れる(頚部リンパ節転移)、腰などの骨が痛い(骨転移)、また手足の麻痺やしびれといった脳卒中に似た症状(脳転移)、などで肺がんが発見されることもあります。

④肺がんの診断(画像診断:肺がんらしさをみる、当たりをつける検査)

胸部レントゲン検査では、肺がんはどのようにみえるのでしょうか。肺に吸い込まれた空気は黒く写りますが、その中に白い影としてみえます。ボヤッと淡い、はっきりしない影であることが多いのです。胸部レントゲン検査は背中の皮膚から胸の皮膚までの全ての情報がレントゲンに写りますので、心臓やら骨やら血管やらさまざまな構造が重なり、肺がんが隠れてしまったり見にくかったりすることがあります。胸部レントゲン検査で肺がんが疑われる場合は、精密(薄切)CT検査を行います。この検査では肺の奥(末梢部)を中心とした広い範囲をチェックすることが可能です。胸部レントゲン検査で小さいと思われた影も、CT検査でみると予想以上に大きいものです。

<精密(薄切)CT検査>

・右肺の拡大。胸の輪切り写真を足側から見上げているイメージ。

胸部レントゲンで見えた円形の陰影は、CTではさらに詳しく見える。

肺の腺がんが強く疑われる。

⑤肺がんの診断(組織診断:肺がんの証拠をとる検査)

精密(薄切)CT検査で肺がんが強く疑われるからといって、直ちに治療を行うわけにはいきません。本当に肺がんなのか、そうであればどのようなタイプの肺がんなのか、を診断する必要があります。そのためには「証拠」が必要です。具体的に肺がんの細胞の存在を示す必要があります(組織診断と呼ばれます)。

もしかすると、痰の中にがん細胞が混じっているかも知れません。痰を繰り返し採取し、がん細胞の有無をチェックします(喀痰細胞診検査)。胸水と呼ばれる水が胸の中(肺の外)に貯まっている場合、皮膚に局所麻酔をして細い針を刺して胸水を採取し、その中のがん細胞の有無を調べることもあります。

肺がんの診断の中心的な役割を果たす検査として、気管支ファイバー検査(気管支鏡検査)があります。「胃カメラの細いもの」を想像していただければよいと思います。喉に局所麻酔をしてから、色鉛筆くらいの太さの気管支ファイバーを気管、気管支へと勧めていきます。はじめは咳が出るかも知れませんが呼吸が出来なくなることはありません。病院によっては点滴による麻酔を追加して眠った状態で検査を行うところもあります。この状態で気管支の内側を直接観察し、がんが疑われる部分を鉗子(かんし)という道具を用いて採取します。がんが肺の奥に存在する場合は、カメラで直接観察することが出来ません。このような場合は透視とよばれる装置を使ってレントゲンを見ながら、精密(薄切)CT検査でみられた影に向けて鉗子を進めて組織を採取します。採取した組織は専門の医師(病理診断医)に依頼して、確かに肺がんか、どのようなタイプの肺がんか、を診断してもらいます。

なお、プラーナクリニックでは現在病棟(仮称 肺がんセンター)を建築中(平成29年度中に完成)ですが、病棟稼働後に気管支ファイバー検査を行う体制を整える予定です。

気管支ファイバー検査で診断がつかない場合には、外科医に依頼して全身麻酔をした状態で影の部分を採取する手術を行う場合もあります。

<気管支ファイバー検査>

・細いカメラを気管に入れて、その内部を直接観察する。

がんなどの異常が疑われる部分があれば、組織を採取して調べる。

・右は気管支の様子。左側にがんを疑う「出っ張り」がみえる。

⑥肺がんの種類(病理診断と遺伝子診断:敵を知る検査)

肺がんにはさまざまなタイプがあります。先に述べた病理診断医に依頼して、まず組織型と呼ばれる顕微鏡分類をしてもらいます。これらを治療方針の立て方の差を踏まえて簡単にお話しすると、「早い時期では手術をして治す肺がん」と「基本的に手術をしない肺がん」とに分かれます。

「早い時期では手術をして治す肺がん」には、腺がん、扁平上皮がん、などがあります。残念ながら「早い時期」でない場合には、抗がん剤治療(化学療法)と放射線治療を組み合わせた治療を行います。最近ではこれらのがん細胞に遺伝子検査を追加し、特別な薬が効果をあげる特別な肺がんでないかどうか、を調べます。例えば、EGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子変異がんであることがわかればゲフィチニブなどの内服薬が、ALK(アルク)融合遺伝子肺がんであることがわかればクリゾチニブなどの内服薬が、それぞれ有効です。これらの薬は分子標的薬と呼ばれています。

「基本的に手術をしない肺がん」には、小細胞がんをはじめとする神経内分泌腫瘍、があります。基本的には抗がん剤治療(化学療法)と放射線治療を組み合わせた方法で治療を行います。

<喀痰細胞診検査>

・痰の中に「扁平上皮がん」の細胞が見える。奇々怪々な形のがん細胞。

⑦肺がんの診断(病期診断:がんの拡がりを把握する検査)

肺がんの治療戦略を立てる場合、病気がどこまで拡がっているのかを評価しなければなりません。これを病期診断(ステージング)といいます。例えばすでに脳や骨などに転移がある場合、肺の手術を行ってもがんが体内に残ってしまいます。その患者さんに最適な治療方針を立てるためには、正確な病期診断が必要となります。

肺がんが転移しやすい臓器としては、肺を含む胸の中、脳、肝臓や副腎(腎臓のすぐ上にあるホルモン臓器)、骨、などが挙がられます。従って、肺がんの拡がりを診断するためには症状の有無にかかわらず、これらの臓器に転移がないかどうかを調べなければなりません。

具体的には、脳造影MRI検査を行い脳転移の有無を調べます。CT検査と比較して、より小さな転移を発見することが可能です。胸部および腹部造影CTを行います。肺の他の部位に転移がないか、気管支や気管の周囲のリンパ節に転移がないか、また胸水(肺の外側に貯まる水、正常ではみられない)がないか、などを知ることができます。骨シンチグラムは全身の骨への転移の有無がチェックできます。最近行われるようになった全身PET検査は、CTや骨シンチグラムで疑われた転移の確からしさがわかります。例えば、CTで気管支の周囲にみられる腫れたリンパ節が、がんの転移で腫れているのか、過去の病気で腫れたなごりなのか、などをある程度区別できます。

最近では、特別な気管支ファイバー(超音波気管支ファイバー、EBUS:イーバス)を用いて、気管や気管支周囲の腫れたリンパ節に細い針を刺して組織を採取し、転移の有無を調べる方法も行われています。

繰り返しになりますが、このような検査が必要な理由は、「正しい病期診断を行わないと正しい治療方法を選択することが出来ない」からです。

⑧肺がんの治療(根治を目指す治療と病気をコントロールする治療)

肺がんの治療戦略は患者さんごとに異なりますから、ここではごく簡潔にわかりやすくお示しすることにします。「⑥肺がんの種類」のところで触れましたが、肺がんのタイプによって治療戦略を組み立てていきます。

「早い時期では手術をして治す肺がん」の場合は、文字通り早い時期であれば治癒を目指す治療として手術を行います。肺がんの部分だけをくりぬく手術ではなく、肺がんのある部屋ごと大きく切除します。右肺は上中下と3部屋(葉と呼びます)左肺は上下2葉ありますが、例えば右肺上葉にある肺がんの手術では、右上葉をまるごと切除してしまいます。正常な部分が失われて勿体ない感じがするかも知れませんが、これが最も根治(完全に治ること)の可能性の高い方法です。さらに気管支周囲のリンパ節を摘出(郭清といいます)します。最近では手術の技術が飛躍的に高まっており、もともと肺の機能があまり良くない患者ではなるべく肺を残す工夫(縮小手術)や、がんの種類によっては肺を大きく切除しない方法も行われるようになっています。手術のあとになってがん細胞が体内に残る可能性があるとわかった患者さんに対しては、抗がん剤治療(化学療法)を追加する場合があります。手術が大がかりになる場合や手術をしても再発の可能性が高いとあらかじめわかっている患者さんに対しては、手術をせずに、放射線療法と化学療法を同時に行う場合もあります。一方、すでに他の臓器に転移がある(遠隔転移)患者さんの多くには、現在のところ根治を期待できる治療方法はありません。しかし、がんの量を減らし病気の勢いをコントロールする治療として、化学療法や放射線療法が行われます。抗がん剤には先に述べた分子標的薬を含めさまざまな種類があります。自分に合った薬を選択し、継続していくことが可能です。残念ながら多くの場合、がんを全滅させることは出来ませんが、痛みや呼吸困難などの苦痛を和らげ、元気に生活を継続することができます。

「基本的に手術をしない肺がん」の場合も、がんの拡がりの程度に応じて治療戦略を組み立てます。比較的狭い範囲にがんが限られている場合は、根治を目指して化学療法と放射線療法の同時治療を行います。ある程度がんの拡がりがみられる場合は化学療法を行います。

手術、放射線療法、化学療法、いずれの治療を行う場合でも、最も重要となるのは「患者さんの体力・気力がどれくらい充実しているか」です。治療は患者さんが肺がんに立ち向かうための援護射撃となるものです。患者さんの体力が弱っている場合や、肺はもちろん、肝臓や腎臓などの重要な臓器の働きが弱っている場合には、治療を行うことは困難な場合があります。この点について、主治医と十分に相談することが重要です。

それでは、根治を目指す治療や病気をコントロールする治療を行えなくなった患者さんはどうしたらよいでしょうか。病気を減らすことはできなくても、行える治療はたくさんあるのです。痛みや呼吸困難など、がんが原因となっているさまざまな苦痛を取り除く方法(緩和治療)があります。がんと一緒に穏やかに生きていく、という方法です。長期戦になりますが大丈夫です、よく相談して治療を進めていきましょう。

⑨肺がんの予後(難敵、やはり予防が大切)

全身のがんの中でも、肺がんは指折りの難敵と言えるでしょう。例えば、「早い時期では手術をして治す肺がん」の患者さんで、手術を終えた時点で順調な経過と考えられた場合でも、5人のうち1人の方は再発してしまい5年間生存できない、というデータがあります。その一方で、手術で取り切れない拡がりの肺がん患者さんでも、放射線療法や化学療法の同時治療で治癒する方もいらっしゃいます。すでに他の臓器に転移がある患者さんの多くには、現在のところ根治を期待できる治療方法はありませんが、さまざまな治療を組み合わせてがんとともに長く生活していくことが可能となってきています。

⑩そしてプラーナクリニックが貢献できること

このように肺がんという病気についてみていくと、何よりも肺がんにならないこと(特に禁煙をすること)と、肺がんを早期に発見する努力をすることが重要であることがおわかりになると思います。

プラーナクリニックでは禁煙外来を行ったり、CTなどの医療機器を駆使してさまざまな検査をしたりすることによって、皆さんの健康づくりに貢献していきたいと考えております。今後、病棟(仮称 肺がんセンター)が完成すれば、気管支鏡ファイバーなどの検査や、化学療法や緩和治療を提供していけるものと考えており、現在準備を行っています。

<プラーナクリニックのCT>

・被ばくの少ない「低線量CT」が撮影できます。

診療科 呼吸器内科

・・・・肺がん・呼吸器全般・気管支鏡検査

学位 医学博士(群馬大学大学院)

専門 総合内科専門医

呼吸器専門医/指導医

気管支鏡専門医/指導医

がん治療認定医

肺がんCT検診認定医

須賀 達夫