ZVIによる水処理技術

ZVI (Zero Valent Iron)を用いた水処理技術

ZVIとは

ZVI (Zero Valent Iron)、日本語で言えばゼロ価の鉄、つまり "ただの鉄粉" のことです。近年、この "ただの鉄粉"を用いた水処理技術が注目を集めています。なぜならば、このZVIを排水に添加するだけで難生分解性有機物質、過酸化水素、リン成分、窒素成分、重金属など、様々な汚染物質を同時に処理できるからです。Table 1に今までに報告されたZVIの応用例を示します。これらの応用例は研究段階のものだけでなく、実際に実用化された例も含みます。また、ZVIは排水だけでなく排ガスの浄化や土壌汚染の改善など、その使用用途は多岐にわたります。加えてZVIは安価であり、毒性も低く、ハンドリングにも優れています。以上のような多くの利点から、ZVIに関する研究の報告数が年々増加し、2012年では320報以上も報告されています。

Table 1 ZVI法の応用例 [徳村&川瀬, 2013]

ZVIを用いた排水処理技術 (ZVI法)のメカニズム

ZVIを用いた排水処理技術 (ZVI法)のメカニズムを簡潔に述べると以下のようになります。

  1. ZVIを水中に添加するとZVIが腐食し、二価の鉄イオンが溶出します。この際、電子がZVI内に生成し、プロトン (水素イオン)や溶存酸素または溶存化学物質 (例えば染料や農薬、医薬品成分)などの還元反応が起こります。
  2. 溶出した鉄イオンは酸化剤や凝集剤として作用したり、OHラジカルの生成反応に寄与したりします。
  3. ZVI表面では酸化被膜 (溶液のpHにより組成が変わる)が形成し、そこに化学物質が吸着することでZVI自体が吸着材として振る舞います。
  4. ZVI法を用いた後の排水には高濃度の鉄イオン (主に二価の鉄イオン)が含まれますが、曝気または酸化剤の添加により鉄イオンを酸化すると、水酸化鉄として不溶化するため、固液分離により容易に分離できます。

以上に示しましたZVI法のメカニズムのまとめをFig. 1に示します。

より詳しくメカニズムが知りたい人のために、ZVI法に関連する反応をTable 2に示しました。

Fig. 1 ZVI(鉄粉)法の原理図(Me:金属, Pol:汚染物質) [徳村&川瀬, 2013]

Table 2 ZVI法に関する反応集 [徳村&川瀬, 2013]

これからの課題

以上のように、ZVIを用いた排水処理技術のメカニズムについて簡潔にお話ししましたが、これらのメカニズムは概要であり、Fig. 1やTable 2に示しました反応が、いかなる場合にもすべて起こるわけでなく、それぞれの反応が状況 (pHや夾雑物質の種類や濃度など)により、起こったり起こらなかったりと複雑に変化します。また、実際にはさらに複雑な反応を多く含みます。そのため、ZVIを用いた排水処理技術の完全なメカニズムは未だに解明されていません。そのため、ZVIをより効果的に使うためにも、メカニズムの解明や、効果的なZVIの使い方 (プロセス)の開発が必要とされています。


参考資料 (より詳しく知りたい人は参照してください)
  • 徳村 雅弘, 川瀬 義矩, 鉄粉(ZVI)を用いた水処理技術, 用水と廃水, 55 (8), 1-8, 2013. (Link) (より詳しいメカニズムや研究例などが書いてあります)
  • Ayana Shimizu, Masahiro Tokumura, Koshiro Nakajima, Yoshinori Kawase, Phenol removal using zero-valent iron powder in the presence of dissolved oxygen: roles of decomposition by the Fenton reaction and adsorption/precipitation, J. Hazard. Mater., 201-202, 60-67, 2012. (Link) (ZVI法のメカニズムである"吸着"と"ZVI-フェントン反応"のそれぞれの寄与を定量的に考察してあります。OHラジカル濃度の測定結果も載っています)