医薬品成分の分解除去

フォトフェントン反応による医薬品成分の除去 

私たちの健康や生命を守るために医薬品は必要不可欠であり、その医薬品を作るために種々の医薬品成分が大量に使用されています。これらの医薬品成分は服用後、し尿等とともに下水処理場に運ばれ、そこで活性汚泥法によって生物処理され、水環境中へと放出されます。しかし、医薬品成分の多くは難生分解性であるため、活性汚泥法での除去が困難です。そのため、処理水中に未処理の医薬品成分が残留し、水環境中に放出されています。実際、河川などの水環境中から数ng/Lオーダーの残留医薬品成分が検出されています。その中でも、抗菌剤の一つであるスルファメトキサゾール(SMX)は検出例が非常に多く、世界中の河川などから検出されています。医薬品成分はその使用目的から、低濃度であっても生理活性を持つように設計されているため、残留医薬品成分の水環境中への悪影響が懸念されています。多くの努力の末に開発された医薬品の規制を避けるためにも、効果的な処理法の開発が望まれています。

本研究では、汎用性が高く、処理コストが安価な、医薬品成分除去法を開発するという目的のため、その第一歩として、処理コストが安価であるフォトフェントン反応を用いて、水環境中での検出例の多いSMXの分解除去実験を行い、既往の処理技術と比較を行うことで、フォトフェントン反応を用いた医薬品成分除去法の実現可能性について検討しました。

実験結果より、初期SMX濃度176 mg/L、初期鉄イオン濃度16 mg/L、初期過酸化水素濃度500 mg/Lの実験条件下において、フォトフェントン反応によりSMXは5 minで完全に酸化分解され、40 minで65%の無機化(初期TOC濃度83 mg/Lから29 mg/Lに低下)が行われました。

比較として、排水処理法として最も汎用的に使用されている活性汚泥法によるSMXの分解では、初期SMX濃度200 mg/Lを完全に酸化分解するのに17日必要であったと報告されています。また、酸化チタン光触媒法(酸化チタン光触媒濃度 = 0.1 g/L、光源:450 Wキセノンランプ)では、初期SMX濃度2.5 mg/L を95%を酸化分解するのに、およそ60 minの時間を要し、オゾンによる酸化処理(供給オゾン濃度:50 mg/L、供給流量:0.15 L/min)では、初期SMX濃度50 mg/Lの排水0.7 Lをほぼ100%を酸化分解するのに、30 min程度必要であったと報告されています。

これらのことより、活性汚泥法やオゾン酸化法、光触媒酸化法と比べ、フォトフェントン反応は常温常圧下でSMXを非常に短時間で酸化分解できることが確認されました。

以上の成果をWET2012で発表した時のポスターを下記に示します。

Fig. 1 WET2012で発表した時のポスター

参考資料 (より詳しく知りたい人は参照してください)
  • 徳村 雅弘, Innovative water treatment system coupled with energy production using photo-Fenton reaction, 2010. (Link) (フォトフェントン反応を含めた促進酸化法(AOP法)についての基礎が書いてあります [無料でダウンロードできます])
  • Masahiro Tokumura, Makoto Sekine, Hao Huang, Shigeki Masunaga, Estimation of pharmaceutical removal in a sewage treatment plant -Model simulation based on laboratory test data-, J. Water Environ. Technol., 11, 529-538, 2013. (Link) (下水処理場における医薬品成分の除去率を、医薬品成分の物性と下水処理場の運転パラメーターから推定する方法について書いてあります)
  • 徳村 雅弘, 種部 悠未, 川瀬 義矩, 柳沢 幸雄, フォトフェントン反応を用いた医薬品成分の除去, 水環境学会誌, 37, 129-138, 2014. (Link) (フォトフェントン反応で医薬品成分を除去した結果について書いてあります)