不完全酸化生成物を放散しない 新しい空気清浄機の開発市販されている空気清浄機は室内空気中の有害物質を吸着して除去するのに加え、プラズマや光触媒などにより分解する機能を有しているものが多くあります。この分解反応は一段階で終わる単純なものではなく、一般に、様々な中間生成物 (不完全酸化生成物)を経て、最終的に二酸化炭素などに分解する場合が多いです (Fig. 1)。この時、不完全酸化生成物として何が生成し、それがどのくらい室内へと放散しているかの確認はあまり行われていませんが、Moらはトルエンガスを光触媒で分解した際に発生する不完全酸化生成物について報告しています [Mo et al., 2009]。その結果より、ベンズアルデヒド、ホルムアルデヒド、メタノール、アセトアルデヒド、ギ酸、酢酸など様々な不完全酸化生成物が生成することが確認されました。
Fig.1 化学的に分解した際のトルエンの分解経路
以上の様に、現在の空気清浄技術では、室内空気中の有害物質を分解する際に不完全酸化生成物が生成し、それによる二次的な健康影響が懸念されます (Fig.2)。
Fig.2 現在の空気清浄機の問題点
本研究では、以上のような不完全酸化生成物を放散しない新しい空気清浄プロセスの開発を行いました。本空気清浄プロセスは、以下に示すように物理的プロセスと化学的プロセスをうまく組み合わせ、双方の欠点を補い合うことで構成されています。
物理的プロセスの一つである水洗浄法は、気相中のVOC (揮発性有機物質)を液相に物質移動することによりVOCを除去する方法です。水洗浄法は、装置が簡便であり、花粉やほこりなどの浮遊粒子物質や水溶性VOCを効果的に除去できるといった利点があります。しかし、水への溶解度の高い親水性VOCに対象が限定されることや、VOC吸収に伴う溶存VOC濃度の上昇により、VOC除去率が低下するなどの欠点があります。本プロセスでは、水洗浄法に液相でのVOCの酸化分解反応を加えることにより、液相でのVOCの蓄積を防ぎ、連続的なVOCの除去が可能となります。液相でのVOC分解反応速度が物質移動速度に比べ著しく速い場合、反応吸収による物質移動速度の促進が期待でき、疎水性VOCであっても除去が可能となります。また、酸化分解反応の反応場を液相とすることで、不完全酸化分解生成物の気相への放散を防ぐことが期待できます。
液相での酸化分解反応として、本研究ではAOP法 (Advanced Oxidation Processes法)の一つであるフォトフェントン反応を用いました。AOP法とは、いくつかの酸化処理プロセスを効果的に併用することにより酸化力の非常に強いOHラジカルを生成し、液相中の有機汚染物質を酸化分解する方法です。フォトフェントン反応は鉄イオン、過酸化水素、光エネルギーを組み合わせることによりOHラジカルを生成する反応です。フォトフェントン反応は、AOP法の中でも特にOHラジカル生成能力が高く、使用する試薬が低濃度の鉄塩と過酸化水素であるため、試薬代が安価であり、ランニングコストが抑えられます。
本プロセスのメカニズムをFig. 3に示します。
Fig.3 フォトフェントン反応を用いた気液接触型の新規空気清浄法の原理図
以上の成果をInternational Symposium on Multiscale Multiphase Process Engineering (MMPE)で発表した時のポスターをFig. 4に示します。
Fig. 4 MMPEで発表した際のポスター
参考資料 (より詳しく知りたい人は参照してください)