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エネルギー生成・二酸化炭素固定化を伴う複合排水処理技術

従来の排水処理技術はエネルギーを消費することで汚水を処理する、エネルギー消費型の排水処理技術でしたが、本研究では、地球上で4番目に多い元素である「鉄」を応用し、二酸化炭素固定化技術および水素エネルギー回収技術を複合した、エネルギー生産型の新しい排水処理技術 (Innovative Wastewater Treatment System)の開発を目的とします。

鉄を用いた排水処理技術

促進酸化法の一つである過酸化水素、鉄イオン、光エネルギーを組み合わせて有機物を酸化分解処理するフォトフェントン反応が新しい水処理技術として注目を浴びています。 この反応は二つの反応からなっていて、ひとつは、二価の鉄イオンが過酸化水素と反応し、強い酸化力を持ったOHラジカルを生成する反応です。この際、鉄イオンは三価に酸化されます。もうひとつの反応は、三価の鉄イオンに光エネルギー(<540 nm)を照射することで、二価に還元されます。この際にも、OHラジカルが生成されます。これら二つの酸化還元反応が繰り返し起こることによりOHラジカルを生成し、それにより有機物を酸化分解し、排水のTOC(全有機炭素)を迅速に減少できます。

鉄の二酸化炭素吸収剤としての能力

二酸化炭素の回収、固定化技術として、リチウムシリケートが吸収材料として開発されました [Esaki et al., 2005]。リチウムシリケート1 kgあたり二酸化炭素を370 g固定化できます。一方、鉄を二酸化炭素の吸着剤として考えた時の吸収量は、鉄1 kgあたり790 gの二酸化炭素を吸着することができ、鉄はリチウムシリケートの二倍以上の二酸化炭素吸着能力をもつことが示唆されています [Eba, 2006]。

従来の鉄を用いた水素、電気エネルギー生成技術について

Rauの報告によりますとアメリカで毎年発生するスクラップ鉄の量は10の7乗トンという膨大な量です [Rau, 2004]。Rauはこの膨大なスクラップ鉄を用い、水素を生成するとともに電気エネルギーを回収し、二酸化炭素を鉄に固定化する技術を提案しています。これによりますと、スクラップ鉄をアノード極に用い、炭素電極をカソード極に用いた場合に得られる利益は水素の生成による利益が最も多く、鉄1トン当たりおよそ130ドルになります。

本研究では、以上の技術を発展させ、フォトフェントン反応と電気化学的腐食反応を複合することにより、廃棄物であるスクラップ鉄を原料に、排水を処理すると同時に副生成物として電気・水素エネルギーを生成し、フォトフェントン反応によって二酸化炭素にまで無機化された有機汚染物質を処理後の鉄イオンと反応させることにより、炭酸鉄として二酸化炭素を固定化する、新しい排水処理技術の開発を行いました。

本研究の原理は以下のとおりです。スクラップ鉄を電極として用い電気化学的腐食反応を利用し鉄イオンを排水中へと溶出させ,その際に発生する電子により水素イオンを還元し水素ガスを得ます。その際、対となる電極を用意することで電池を形成し、電気エネルギーを回収できます。排水中の有害有機物質は鉄イオンの光化学的酸化還元反応のサイクル (フォトフェントン反応)によって生成したOHラジカルにより二酸化炭素にまで酸化分解されますが、二酸化炭素は排水中の鉄イオンと反応することにより炭酸鉄として沈殿します。これにより水素ガスの生成,電気エネルギーの回収,二酸化炭素の固定化に加え,排水処理を同時に行うことができます。原理の概略図をFig. 1に示します。

Fig. 1 二酸化炭素固定化技術および水素エネルギー回収技術を複合した新しい排水処理技術の原理の概略図

以上の成果をIWA 5th Oxidation Technologies for Water and Wastewater Treatmentで発表を行った時のポスターをFig. 2に示します。

Fig. 2 IWA 5th Oxidation Technologies for Water and Wastewater Treatmentで発表を行った時のポスター

参考資料 (より詳しく知りたい人は参照してください)
  • 徳村 雅弘, Innovative water treatment system coupled with energy production using photo-Fenton reaction, 2010. (Link) (フォトフェントン反応を含めた促進酸化法(AOP法)についての基礎が書いてあります [無料でダウンロードできます])
  • Eba H., Generation of H2 and absorption and immobilization of CO2 by metal, ECO IND., 11(4), 44-48, 2006. (Link)
  • Essaki K., Kato M and Uemoto H., Influence of temperature and CO2 concentration on the CO2 absorption properties of lithium silicate pellets, J. Mater. Sci., 40, 5017-5019, 2005 (Link)
  • Rau H.G., Possible use of Fe/CO2 fuel cells for CO2 mitigation plus H2 and electricity production. Energy. Convers. Manage., 45, 2143–2152, 2004. (Link)
  • Masahiro Tokumura, Risa Morito, Ayako Shimizu and Yoshinori Kawase, Innovative water treatment system coupled with energy production using photo-Fenton reaction, Water Sci. Technol., 60, 2589-2597, 2009. (Link)
  • Masahiro Tokumura, Risa Morito, Yoshinori Kawase, Photo-Fenton process for simultaneous colored wastewater treatment and electricity and hydrogen production, Chem. Eng. J., 221, 81-89, 2013. (Link)