Galactic Impacts on Star Formation

作成 2021/07

銀河進化は基幹構造の動力学進化に加え、構成要素である星間ガスが星へと変換される「星形成」とそれに伴う「フィードバック」も重要な素過程です。また、天の川銀河をはじめとした棒状渦巻銀河の銀河基幹構造である渦巻構造や棒状構造はそれぞれ、星間ガスの運動に与える影響が大きく異なると考えられています。

銀河基幹構造と星形成の関係を理解するため、これまで棒状構造や渦状腕構造の“定常”重力ポテンシャル中での流体シミュレーションにより星間ガスの運動や熱的進化が調べられてきました。しかし、 我々を始めとした近年のN体シミュレーションにより、これまで恒星系円盤に準定常的に存在する密度波とされてきた渦状腕構造の力学的描像がより動的なもの (動的渦状腕 "Dynamic Spiral"; Baba et al. 2013, Baba 2015)へと変わりつつあります (詳細)。実際に従来の密度波モデルでは星やガスが (車の渋滞のように) 渦状腕を一方向から横切ると考えられてきましたが、動的渦状腕では星やガスが渦状腕両側から集積し (銀河衝突流 “Galactic Colliding Flow”; Baba et al. 2016)、力学時間程度で拡散することが指摘されるようになってきています。

以下では、動的銀河構造における巨大分子雲の形成進化や星形成活動の様子を数値シミュレーションを用いて調べた研究結果を紹介します。なお、本研究は「若手研究 B (2014〜2017; 研究課題番号: 26800099)」の支援のもと実施したものです。

(1) 動的渦状腕 (Dynamics Spiral) と銀河衝突流 (Galactic Colliding Flow)

※ 従来の密度波・銀河衝撃波との違いについては、こちらもご覧ください。

棒渦巻銀河のN体/流体シミュレーション (Baba 2015; Baba et al. 2016) を粒子分割することで、約10倍の粒子数の超高分解能シミュレーションを行い、渦状腕と星間ガスの時間変化を調べました (Baba et al. 2017)。棒状構造は約44 km/s/kpcの角速度でほぼ剛体回転しているのに対して、恒星系渦状腕は時間ととにも巻き込まれつつ、振幅を増幅・減衰する動的渦状腕の振る舞いをしています (Baba 2015; 動画1&動画2)。また、恒星系渦状腕に対して星間ガスが腕の両側から流れ込み、渦状腕領域で衝突流をつくっていることがわかります (Baba et al. 2016; 動画1&動画2)。

動画1:棒状構造の回転系(~44 km/s/kpc)での星(上)とガス(下)の空間分布の時間変化

動画2:動画1の渦状腕領域の拡大図

このような銀河衝突流では、伝統的な渦状腕モデル (密度波+銀河衝撃波モデル) とは異なり、渦状腕を横切る方向に系統的な星形成活動の違いや星の年齢分布の違いは生じにくいことが期待されます(動画3)。

動画3:動画2の渦状腕領域の星の年齢分布

さらに、分子ガスの空間分布にも特徴が現れます。伝統的な渦状腕モデルでは、渦状腕の前面 (leading side) にトゲのような構造であるspur構造をつくります (see also Pettitt et al. 2016)。一方で銀河衝突流では局所的にはspurを形成するものの、系統的なspur分布は生じにくいという特徴があります。ただし、分子雲のサイズ・質量・内部速度分散の統計的性質は渦状腕の動力学的性質にはほとんど依存しないようです (see also Pettitt et al. 2020)。

(2) 動的渦状腕における巨大分子雲の合体成長 (Baba et al. 2017)

粒子分割した超高分解能シミュレーション (Baba et al. 2017) の動的渦状腕領域で巨大分子雲の形成進化の様子を調べました。銀河衝突流 (Galactic Colliding Flow) として渦状腕に流れ込んだガスによって、巨大分子雲が合体成長するようすが確認されました。また、巨大分子雲の合体成長の過程で、分子雲の衝突によって星形成(星団形成)が誘発しているようすも見られます。こうして形成された星団によるHII領域形成や超新星爆発のフィードバックによって分子雲は拡散していきます。

CloudZoomTracerID021.mov

CLOUD21 質量 106 Msunの分子雲nの形成過程:小さな多数の分子雲が合体成長し、合体による星形成とフィードバックによって破壊される。

CloudZoomTracerID033.mov

CLOUD33 質量 2 x 105 Msunの分子雲の形成過程:希薄な分子ガスからフィラメント(?)が形成され、その後、フィラメントの分裂と合体/収縮で星形成とフィードバックによる破壊を経る。

CloudZoomTracerID010.mov

CLOUD10 質量 4 x 105 Msunの分子雲の形成過程:収束流でフィラメント構造が形成され、収縮し小さな分子雲を形成する。その後、小さな分子雲の合体成長と星形成・フィードバック破壊を経る。

(3) 棒状構造領域における分子雲の合体成長

準備中