Research

われわれの住む「天の川銀河」の現在、過去・未来を知るための銀河進化素過程の研究

天の川銀河は宇宙にありふれた「棒渦巻銀河」であると同時に「我々の太陽系が属する銀河」です。そのため、天の川銀河の構造や形成進化史を明らかにすることは、銀河の形成進化に対して重要な知見を与えるとともに太陽系の起源の理解にも繋がります。

このように重要な天の川銀河に対して、

  • 天の川銀河は、どのような構造をしているのか (天の川銀河の動力学構造)

  • 天の川銀河は、138億年を通していかに進化してきたのか(天の川銀河の形成進化過程)

  • 天の川銀河のような銀河は、どのように形成進化してきたのか(天の川銀河の普遍性・特異性、銀河形成進化)

という問いに答えるべく、星団/分子雲スケール(光年スケール)から銀河全体(10万光年スケール)までのマルチスケールに加え、星間ガスの熱的進化/力学的進化や恒星系力学といったマルチフィジックスの数値的手法による研究を進めてきました。特に銀河形成進化の素過程である

  • 銀河基幹構造(バルジ・バー・スパイラル)の動力学(→ I & II)

  • 銀河構造が星間媒質進化・星形成活動に与える影響(→ II

  • 銀河内における物質移動・循環過程(→ II)

に関する理論研究を進めています。さらに、新しいシミュレーションのためのコード開発や、結果の可視化に関する研究も併せて行っています。なお、私自身の研究アプローチは大規模数値シミュレーションを軸としていますが、

  • 観測に立脚した理論モデルの構築

  • 理論モデルから最新/次世代観測への予言

という点を意識して理論・観測の両側面から研究に取り組むようにしています。


I. 銀河進化の素過程:銀河動力学と星形成

主に天の川銀河や近傍銀河を対象として、銀河形成進化の素過程 (銀河の基幹構造の動力学、及びISM/星形成過程に与える影響)に着目した研究を行なっています。特に、渦状腕構造に関して伝統的な密度波理論+銀河衝撃波とは異なる動的渦状腕 (Dynamic Spiral; Baba et al. 2013; Baba 2015)+銀河衝突流 (Galactic Colliding Flow; Baba et al. 2016; Wada et al. 2011) モデルを提唱し、密度波理論との観測的違い(理論予測)に関する研究 (Baba et al. 2015; Baba et al. 2016; Baba et al., 2017; 若手研究B 2014-2017) も進めています。

II. 天の川銀河の動力学構造、大局的物質循環と太陽系の起源

大規模N体/流体シミュレーションと位置天文観測衛星 Gaia の最新のアストロメトリデータなどを駆使して、天の川銀河の渦状腕(details; 基盤C 2018~2021や棒状構造バルジの動力学構造(基盤C 2021~ 継続中) の研究を行っていますまた、詳細な星間物理過程と恒星系力学を考慮したN体/流体シミュレーションなどを用いて、天の川銀河の化学動力学進化や、星間ガス(原子/分子ガス)やダストの物質循環に関する化学動力学的研究(chemo-dynamics)を進め、太陽系の起源や太陽系誕生から現在に至るまでの過去46億年における銀河系から太陽系/地球への影響(cosmoclimatology)、及び銀河系スケールでの惑星系形成の理解にも迫っていきたいと考えています。これらのテーマに共通するキーワードとして「渦状腕構造」があります。これまで研究を進めてきた「渦状腕構造」の理解を軸に新たな展開を目指しています。 [details]

III. シミュレーションコード開発・結果の可視化

主に天の川銀河や円盤銀河の星やガスの運動を計算する目的で、主要な化学反応とそれに伴う冷却・加熱過程を考慮した星間ガスモデルの開発や、渦状腕や棒状構造の3D重力ポテンシャル場計算のコードの開発を行っています。また、国立天文台4D2Uとの共同研究でシミュレーション結果の可視化も積極的に進めています。[details]

  • Multi-phase ISM model (implemented to ASURA) (若手研究B 2014-2017)

    • Chemical Equilibrium Reaction Library (CEQLib)

  • Synthetic observation of the Galactic-scale multiphase ISM (若手研究B 2014-2017)

    • in prep.

  • 3D Bar/Spiral Potentials for Test Particle/Hydrodynamic Simulations (基盤研究C 2018-)

    • Milky Way Potential Library (MWPotLib) で生成できる天の川銀河の3D重力ポテンシャル

    • 多重極展開法 (特殊関数による展開) によるポアソン方程式の解法 (密度-ポテンシャルペアの評価)

    • テスト粒子計算や銀河流体計算に利用可能

  • Visualization

国立天文台4D2U「天の川銀河紀行」(Baba 2015; Baba et al. 2017のデータ)

天の川銀河シミュレーション2010 (Baba et al. 2009, 2010のデータ)

IV. 現在進行中の研究課題・やり残している研究課題

現在進行中の課題(2017〜)

  • バー形成に伴う銀河円盤・バルジ構造の変化の研究 (基盤C 2021〜)

  • 星団形成進化の銀河内環境依存性の研究 (新学術公募研究 2021〜)

    • 星団破壊過程の銀河構造 (アーム・バー・バルジなど) 毎の違い

    • 星団残骸の位相空間分布の違いと観測的検証 (Gaia/SJ) → 修論 (2019年度; 理論)、修論 (2021年度; 観測)

  • 矮小銀河・ダークサブハローからの外的摂動の影響の研究 (2019〜)

    • 外的摂動による物質混合過程 → Tsujimoto & Baba 2019

    • 銀河非軸対称構造の形成進化

    • 銀河円盤の鉛直構造の変化 (warp / bending wave) とGaiaでの検証

    • それに伴うガス分布 (銀河外縁部・バルジ領域への流入など) ・星形成活動の変化

  • 密度波 / 動的渦状腕モデルでのアーム周辺の星の力学的振る舞いの観測的違いの予測・検証 (2017〜)

  • 位置天文観測データを用いた銀河定数・太陽運動解析

    • 太陽運動解析における銀河非軸対称構造の影響 → Kawata et al. 2019、修士論文 (2018年度)

    • 銀河定数解析における銀河非軸対称構造の影響 → 修士論文 (2018年度)

やり残している課題(2019年12月時点)

  • 分子雲形成進化の銀河内環境依存性の研究 (ALMA)

    • アーム領域 (密度波 & 動的渦状腕) での進化の観測量予測 (Baba et al. 2017データから観測量計算)

    • バー領域・中心核バルジ領域での分子雲形成進化の研究 (Baba et al. 2017をバー・バルジ領域に拡張)

  • 遠方円盤銀河の星間媒質の研究 (e.g. ALMA)

    • 近傍銀河との熱的性質の違い

    • 低温ガス (分子ガス・原子ガス) の運動状態

    • ALMA等で予測される観測量の計算

  • 密度波 / 動的渦状腕モデルでの銀河磁場の性質の違い (SKA)

  • 銀河進化における環境効果

    • ラム圧

    • 潮汐相互作用