私たち書店が日常業務を進めていくなかでぶつかった、「データの欠けたデータベースシステム」というアンバランスな状況の問題があります。
関西の小さな本屋8書店で作っているグループ「本屋の村」の活動は、今から10年程前、パソコン通信のニフティサーブFBOOKC10番会議室「業界サロン」で知り合ったことから始まりました。数回のオフ会を重ねるうちに、ますや書店自作の書店業務ソフトを自分たちの店でも使えるようにしてみてはどうだろうか、となり、そこから今日の「楽樂シリーズ」は生まれました。
顧客管理だけに絞った最初の「楽樂ほんやさん」がまとまるまでに、1年以上のプログラム変更とチェックが続きました。これを公開してより多くの本屋さんに使ってもらおうということになり、「本屋の村」というグループを立ち上げました。「書店自身の手による、書店のSA(Store Automation)普及と発展を期することにより、書店における効率よい営業活動を支援するとともに、書店に訪れる読者に快適な環境を提供することを目的とする」と規約に掲げています。書店自身によるという点にこだわり、プログラム開発からサポートまで書店だけで行なっています。現在(6月27日)の正規ユーザーはスタッフを除き230店、POS使用店は34店です。
納品書と請求書の発行を主な機能とする顧客管理からはじまり、今では返品作業とPOSレジによる単品売上情報収集もできるようになりました。オプションとして付加される機能も、単品管理売上動向分析・棚卸・メール等を使って発注も出来る客注管理・取次のネットサービスで提供されるデータとの連携自動化などを開発・提供しています。
開発を進めるうちに、書店だけでは解決できない問題が出てきました。ISBNコードと書名の問題です。
一例をあげると、売上スリップを見ながら在庫をチェックし補充の判断をする作業は書店の基本です。過去の売上情報があればより適切な補充注文の判断ができます。ここでPOSが有効なのですが、POSデータから出された補充必至の高回転率品目リストに書名がわからないものがあるという事態が発生しているのです。書名がなければ人間には判断のしようがありません。POSレジは売れた商品のISBNコード、雑誌コードをキーとしてデータを収集しますが、その中には書名が含まれていないのです。書名が見えてはじめて本そのものが見え、発注につながります。
別の例として、ある地方書店店長さんからのメールです。「発注に関する限り、ISBNコードなしでは考えられない状況にあります。お客様からの注文の場合、ISBNコードは分かりませんから、こんな感じの本なんていうあいまいな情報から商品のISBNコードを特定する作業が出てきます。さらに正確な在庫状況(取次のWEB受注専用倉庫の在庫状況はかなり精度が上がっているとは思いますが)については、絶版などの情報を除いて、かなり判断に苦しむ部分もあります。ここで、お客様の着荷日などの問い合わせに対して、非常に曖昧な、その場しのぎ的な返答をしなければならない状況に直面します。在庫があるかないか、あっても時間がかかる商品なのか、分からないまま発注せざるを得ないという不安。そんな状況は、電話一本すれば分かることという考え方の方も、いらっしゃるでしょうが、こと地方書店にとって通信料の問題等経費の面からも全てを電話で処理するのは困難です。これらの状況は、出版物を包括的に管理する書誌DBの不在に、起因していると考えられないでしょうか?」
お客様からの注文品を出来るだけ早く届けるためにはISBNコードが必要です。不確かな書名や出版社名をもとにISBNコードを探り当てることは、書店にとっては思った以上に手間のかかる作業です。
誰が入力しても同じである基本的な書誌情報をメーカーである出版社が提供し、公共性の高いサイトがこれを取りまとめて集約し、誰もが自由に使えることとすれば、社会的に無駄な重複入力による労力は削減されます。出版物の書誌データをエクセルのような表形式のソフトで管理すれば、HTML形式で保存することでホームページに公開する表形式のファイルは簡単に生成されます。データ更新も非常に楽です。データ公開にかかるコストは限りなく抑えることが出来るでしょう。書誌データが未整備のままでは、データの欠けたデータベースシステムと同じです。
本屋の村の開発担当岩根からの提案です。「まず索引HPが必要です。書協やJPOでやってもらいたいですが、出版社コード(ISBNコードの出版社部分)から出版社のURLに飛ぶ仕組みです。表形式で出版社コードとURLがあればできます。出版社HPでは、例えばURLをhttp://www.***.co.jp/syosi/isbn4939015661.htmとし、単純な表形式で、左側にタグ、右に値として、書名・著者・価格・発売日・在庫状況・出荷の可不可・目次・特徴・要旨などを記入してもらうのです。在庫状況もあれば、書店では取次へ注文するのか、出版社にしたほうがいいのか決められますし、フェアの選書にも使えます。内容があれば客注に役立ちます。書誌データに統一された部門コード(NDCでも可)が入っていると、売上データを調べる際に、最近1~2ヶ月以内に発売された類書リストが表示できるようになり、新たな発注が生まれることになります。」
すべての版元さんにお願いします。ホームページからデータを読み取るソフトは私たちが既に用意しています。版元さんは、電子取引に必要な基礎データ、単純な表形式で十分ですから書誌情報を今まで以上に積極的に公開してください。誰でもが使える書誌情報の整備は、読者へのさまざまな告知を全世界規模に展開でき、販売チャンスを確実に増やします。バーコードだ、ICタグだと環境がいくら変わったとしても、その出版物が1冊でもこの世に存在する限り、存在の証として書誌情報は変わることなく必要なものなのです。そして私たち本屋は売るために書誌情報を必要としています。
本屋の村
http://www.hon-shop.com/raku/