【外集団脅威への適応心理メカニズムの性差の検討】
「戦争」という言葉を聞くと、思い浮かぶのは戦士や兵士が戦っている画が浮かびます。一方、女性はむしろ矢面に立つというよりも、難民となる被害者であったり、戦争に向かう男性を後ろから援助したりする、というイメージがあります。すなわち、外集団脅威への適応心理メカニズムは男性にのみ備わったものではないでしょうか。では、女性は、どのような種類の脅威に敏感なんでしょうか。本研究では、外集団脅威の種類により、その脅威に反応する性別が異なるか否かを検討します。
【「妨害」に反応する男性】
大切な人を守るため、男性は戦場に赴きます。長年の社会心理学の実験においても、集団間葛藤に敏感に反応して行動を起こすのは圧倒的に男性です。男性は、外集団から暴力を振るわれたり、自分たちの資源を奪われたりする脅威に敏感です。このようなタイプの脅威を、本研究では「妨害系脅威」と呼びます。男性が、この妨害系脅威に反応して、内集団に協力的に振る舞い、外集団には攻撃的に振舞うようになることが明らかになっています。しかし、外集団への攻撃は、自身の命も危うい非常にコストフルな行動です。では、本当に攻撃とは、適応的な行動なのでしょうか。攻撃する以外にも、葛藤を回避する行動はないのでしょうか。現在、外集団脅威によって攻撃行動が生じるのかについて、実験室実験にて検討しています。
【「汚染」に反応する女性】
「えー、キモイんですけどー」という「キモイ」を口にするのは、主に(若い)女性ではないでしょうか。キモイという嫌悪感情は、本来、人間が自身の免疫機能に合わないものを回避するために備わった感情です。例えば、毒のあるものを口に含むと、気持ち悪くなって吐いてしまいます。この機能(感情)は男女に関係なく備わっているものですが、特に女性は嫌悪を感じるものに対して敏感です。それは、女性には妊娠する可能性があり、自分の免疫機能と異なるものを体内に取り入れた場合、子を宿せなくなってしまうかもしれないからです。この傾向は、外集団脅威にも当てはまります。妨害系脅威に反応しにくい女性も、外集団メンバーから未知の病原体がもたらされる「汚染系」脅威に対しては敏感に反応し、外集団を回避する行動が生じます。女性には、本当に汚染系脅威に対する適応心理メカニズムが備わっているのかどうかについて、まだ十分な証拠が得られていません。現在、実験室実験にて、その存在を検討する予定です。
【関連する論文・学会発表】
Yuki, M., & Yokota, K. (2009). The primal warrior: Outgroup threat priming enhances intergroup discrimination in men but not women. Journal of Experimental Social Psychology, 45, 271-274.
横田晋大・結城雅樹 (2011) 外集団脅威への適応心理メカニズムにおける性差研究-男性の暴力脅威 女性の病気脅威 北海道心理学研究, 33, 1-10.
Navarrete, C. D., McDonald, M. M., Asher, B. D., Kerr, N. L., Yokota, K., Olsson, A., & Sidanius, J. (2012). Fear is Readily Associated with an Out-group Face in a Minimal Group Context. Evolution and Human Behavior, 33, 590-593.
横田晋大 (2009) 外集団脅威に対する防衛的心理機構:その多様性と性差 日本心理学会第73回大会小講演 (於:立命館大学8月26‐28日)