ホウキムシの仲間

日本の箒虫動物に関する研究は、1897年に神奈川県の三崎からヒメホウキムシPhoronis ijimai を記載した丘浅次郎の研究に始まりました。しかし、1955年に北海道厚岸から箒虫動物が報告されて以降、およそ60年間、日本の箒虫動物に関する研究は行われてきませんでした。

ここでは私の研究成果にもとづいて、日本産の箒虫動物の分類に関する最新の情報を紹介します。

ホウキムシは、箒虫動物門(Phoronida)に属する触手冠をもった動物です。コケムシや腕足動物と異なり硬い殻などを一切もたないため、体の中の縦走筋の数腎管の形態が分類形質として用いられています。そのため、箒虫動物の分類には組織切片の作成が欠かせません。

箒虫動物は2014年現在で全世界に 2属11種 しか知られていませんが、これは分類形質と分類学者の少なさに大きく起因していると思われます。

Phoronis

Phoronis ovalis Wright, 1856

Phoronis australis Haswell, 1883

Phoronis ijimai Oka, 1897

Phoronis hippocrepia Wright, 1856

Phoronis psammophila Cori, 1889

Phoronis pallida Silen, 1952

Phoronis muelleri Selys-Lonchamps, 1903

Phoronis emigi Hirose, Fukiage, Katoh and Kajihara, 2014

Phoronopsis

Phoronopsis harmeri Pixell, 1912

Phoronopsis californica Hilton, 1930

Phoronopsis albomaculata Gilchrist, 1907

箒虫動物の横断面

体壁の内側に並んだヒダ状のものが縦走筋

腎管(黒い部分)の3D再構築画像

(灰色の部分は触手冠および腸管)

日本にはつい最近まで、1属 2種 が棲息しているとされてきました。

ホウキムシ Phoronis australis Haswell, 1883

・・・ハナギンチャクの棲管に共生する

ヒメホウキムシ Phoronis ijimai Oka, 1897

・・・岸壁や貝殻上,砂泥底に群生することが多い

ハナギンチャクの棲管内に潜り込んだホウキムシ(左)と群生したヒメホウキムシ(右)

これらに加えて、2012年には浜名湖から日本で3種目となるイサゴホウキムシ(新称)を発見・記載しました。

イサゴホウキムシ Phoronis psammophila Cori, 1889

棲管に細かい砂粒を付けていることが多い

この他にも、九州の天草から得られたホウキムシを新種アマクサホウキムシPhoronis emigi)として発表しました。本種を含めると日本産箒虫動物は4種となります。このように、日本近海に棲息する箒虫動物は、今まで考えられてきたよりもはるかに多様であると考えられます。

最新の日本産箒虫動物リスト

ホウキムシ Phoronis australis Haswell, 1883

ヒメホウキムシ Phoronis ijimai Oka, 1897

イサゴホウキムシ Phoronis psammophila Cori, 1889

アマクサホウキムシ Phoronis emigi Hirose, Fukiage, Katoh and Kajihara, 2014

ところで、学生実習等でプランクトンネットを曳くと、箒虫動物のアクチノトロカ幼生が頻繁に入ってきます。

“襟巻きをしたこけし” のような姿をしたこの幼生が得られるということは、そこにホウキムシの仲間が棲息していることの証です。このことから、箒虫動物は意外と身近なところに多数棲息していると考えられます。

箒虫動物門はとても小さな分類群ですが、日本の箒虫動物相はまだまだ未知の部分が多いのが現状です。未だ日本からの箒虫動物の報告は少ないですが、今後日本各地の岩礁域で詳細な調査を行えば、日本未報告種や新たな種がみつかるかもしれません。

下田で得られたアクチノトロカ幼生

M.Hirose 2014