本論文では第1章に本邦初産のヤマツツジモニリア病菌,第2章にサクラ類幼果菌核病菌Monilinia kusanoiとシウリザクラ葉腐病菌M. ssiori isolateの培養性状と分生子形成,そして第3章にMonilinia属菌に寄生するLambertella属菌の代謝産物の抗菌作用に関してまとめている.
2002年北海道支笏湖畔において発見された.日本においてツツジ属を侵すMonilia属菌の報告はなく新病害である.本菌の不完全世代の形態から,また分生子による花器への接種試験から,そして菌核を形成することから,本菌は北米で既に報告されているMonilinia azaleaeに最も近いと考えられた.野外で採集された菌核および人工接種によって得られた菌核を低温処理し完全世代の形成誘導を行なったところ子のう盤が形成された.完全世代の形態を明らかにし,また培養性状,分子系統の観点から近縁種M. azaleaeとの比較を行なったところ本菌とM. azaleaeには明らかな違いがあり,本菌は新種とするのが妥当であるという結論に至った.したがって本菌をMonilinia jezoensis sp. nov. とすることを提唱する.
両菌は共にPrunus属Padus亜属の植物を侵すことから同種と思われ混同されていた.近年の研究からこれらが別種であることが示唆された.本研究では培養性状,特に分生子形成の面からこれらを再確認し,また分生子を形成しにくいとされるM. kusanoiの分生子大量形成法を確立すべく,いくつかの広く普及している培地を用いて実験した.その結果,M. kusanoiとM. ssiori isolateの培養性状には大きな差が見られ,これらを別種とするのが妥当であることを再確認した.したがって後者を既に提唱されているM. ssiori sp. nov.とすることを改めて提唱する.また前者の分生子大量形成法に関して,WBAの有効性を再確認し,また既存の培地で新たにYEMEAの有効性を確認した.
Lambertella属菌の代謝産物のlambertellin, lambertellol A,およびlambertellol BのMonilinia属菌に対する抗菌試験を初めて行なった.検体Monilinia属菌には菌糸生育と分生子形成の良好なM. fructicolaを使用し,菌糸生育,分生子発芽に対する作用,また作用の実体と作用濃度を検討した.その結果これら物質がM. fructicola対して菌糸生育・分生子発芽を抑制することを確認した.またそれにより菌糸の変色・原形質分離,菌糸先端部のswelling,小型分生子の異常形成などの変化が観察され,各物質の有効作用濃度は1 ppm前後であると思われた.本試験は仮試験の段階であり,今後さらに詳細な実験・観察を要する.