by Rioux D, Baayen RP, Trees 11: 389–403, 1997
この論文は,世界で最も問題になっている樹木病害の1つ,オランダニレ立枯病(Dutch elm disease; DMD)を扱ったもの.オランダのニレはこの病気で30年くらいで国土の95%のニレが枯死しちゃったって言う話.アメリカでもやられっぱなしらしいですが,東アジアのニレはこの病気に対して抵抗性で,どうやら中国あたりから広がったんじゃ?と言われている.もちろん日本国内では問題にはなっておりません.樹木の萎凋病害の1つで,病原菌は媒介昆虫によって運ばれる.それってナラ枯れと似てるねーと思わなくもないけど,まあ全然違う.DEDは良く研究されている病気なので,参考になります.
樹木の傷や病原菌・腐朽菌に対する防御機構について,勉強しようと思い,防御機構のモデルに注目してみた.読んでみて,この筆者たちは先行研究で,ニレに接種してみた,とか別の道管萎凋病菌をポプラに接種してみた,と言うのをやっているんですが,この論文はその先行研究を見てないと結構よくわからないので困る.ゼミで紹介したとき図書館が閉鎖中で,調べたいのに文献が手に入らないという状況で,ずいぶんひどい発表をしてしまいましたが,要するに,「見てみたよ」的な話.
研究の背景
傷や感染に伴う樹木の防御機構は多くの研究がなされており,いくつかのモデルが提唱されている.
その一つにCODET(下枠)がある.
CODIT (compartmentalization of decay in trees; Shigo and Marx 1977)
: 樹木における腐朽の区画化(山田 2008)
材における防御機構のモデル(Dにはdefect欠点,欠陥の意味も).壁(wall)1~4 と名付けられた障壁が材変色腐朽部を健全部と仕切る.壁1~3 は感染時に既に存在していた材に作られる.壁4は受傷後に形成層によって作られる.
壁1: 軸方向の感染拡大を防ぐ障壁.通導組織の閉塞により形成される
壁2: 放射方向に対する障壁.ターミナル柔細胞や晩材の細胞壁の厚さのような解剖学的な特徴で説明される
壁3: 接線方向に対する障壁.放射柔組織からなる
壁4: バリアゾーンや防御帯とも呼ばれる.傷害柔組織や,スベリン・リグニン化で強化した柔細胞壁,フェノール物質の集積により形成される強固な防御壁-->既に存在する木部に感染を限定し,新たに作られる木部を感染から守る機能を持つ.防御壁の中で最も強力で耐久力があり,菌に突破されることはまれ.
研究の目的
Dutch elm disease(DED;ニレ立枯病)の病原菌であるOphiostoma ulmi(使った菌株はどうやら実は強病原性のO. novo-ulmiだったらしい)を,非宿主樹木であるポプラ(Populus balsamifera)に接種し,髄質周辺部で見られる新しい様式のスベリン化した反応帯の形態と超微細構造について詳細に調べようというもの.
結果と考察
・髄質周縁部と木部柔細胞の再分化に起因する髄質周縁部に,集中的にスベリン化した細胞の鞘が形成された
・このスベリン化した組織の両側にリグニン化した細胞の列がよく検出された
・随の周縁部におけるこのような組織の形成は,樹木の区画化の過程で見られる形態的な防御帯としては新しいタイプ
・TEM観察から,通常この反応帯は,セルロースリッチの中層,スベリン化した第2壁およびセルロースリッチの第3壁からなり,ペクチンは限定的に存在した
・スベリン化ゾーン近くのいくつかの繊維内に主にスベリンないしセルロースのどちらかが蓄積した層が認められた
・比較のためにBetula papyrifera,Prunus pensylvanica,Pr. Virginiana,Quercus rubra,Salix sp.およびUlmus americanaに対し,同じように接種して観察したところ,Populusと同じSalixaceaeであるSalix sp.で同じようなスベリン化した反応帯が観察された
・草本性カーネーション(Dianthus caryophyllus)において道管萎凋病菌に対して形成されるスベリン化した防御壁と構造的・位置的に類似(-> Baayen et al 1996の結果から)-->発生の起源と構造は異なるが機能が似通っている
◎USRZは晩材細胞に似た役割を果たしているのかも知れない…CODITの壁2に相当する
通常のUSRZは性質や形態が全く異なる
~柔細胞の脱分化に起因し,多量のスベリンを含んでいる->Barrier zone(壁4)と非常に似ている
このようなUSRZの形成は通常樹木の傷ないし感染に対する応答には見られないものである
(O. ulmiを接種したU. americanaやP. Pensylvanicaでは見られない)
ちなみに,この人たちがこの論文を出す直前に,
Baayen RP, Ouellette GB, Rioux D. Compartmentalization of decay in carnation resistant to Fusarium oxysporum f. sp. dianthi. Phytopathology 86: 1018–1031, 1996.
と言うのを書いていて,これはカーネーションに萎凋病菌を接種して防御反応見たらDEDで見られるCODITの反応とは違うねー,と言う話.で,今回の論文は,ポプラがこれとにてるねーという話でした.思えば思うほど,「じゃあDEDのCODITってどんなの?」となるわけですが,それはまたそのうち.